Ac-09.
さのかた・狭方 「さねかずら・核葛」
木通・通草・アケビ{アケビ・ミツバアケビ・ゴヨウアケビ}
漢語 木通・山姫・丁翁・倚商・燕腹・萄藤・
【万葉集記載】
10-1928 |
10-1929 |
13-3323 |
以上 |
(一) |
狭野方波 狭野方は実にならずとも |
註釈:
佐野方=地名説と植物説がある。
(二) |
譬喩歌 師名立 階しな立つ |
註釈:
階立つ=しなは坂or階段の意、筑摩に懸かる枕詞、
筑摩=滋賀県坂田郡米原、
息長=坂田郡青海町息長村、
遠智=地名なれど不詳、
越智の小管=女が自分の身を譬えている。
(三) |
寄レ物陳レ謝思 核葛 さね葛 |
註釈:
サネカズラはAc-05に述べたように、アケビを指す解釈がある。核は小粒状のものをいい、アケビの実には種子が多いことによる。(1)アケビ科の植物、アケビ・ミツバアケビ・ゴヨウアケビ・ムベ。(2)女陰をいう隠語。(3)盗賊仲間ので隠語で、目をいう。
概説
狭野方サノカタとは何ものか正直なところよく判っていない。ある土地の地名(滋賀県坂田郡)かと、またそこの出身の女性とする説、或るいは植物、それも蔓性の藤・通草・アケビ・萩かと諸説あり<日本国語辞典>。
サノはサ<ナ>音転として、サナカズラとも取れる。そのサネは核を意味するから、種の多い実のアケビに該当すると理屈にとり繕える。フジ・ハギは他項に述べてあるので、ここでは植物のアケビということにして、説明する。
ムベは正確には属が違うが、アケビには、単にアケビと云う五葉複葉の種と三葉のミツバアケビと、それにややこしいがゴヨウアケビとがある。それらの果実は極く甘いので昔は里山へピクニックにいった時は楽しみのご馳走であった。春先に出る新葉は美しいし、その新蔓はあまり知られていないが、軽く茹でてお浸しにするとこんなに旨いものはない。その花は茶人好みでまことに可愛い。アケビの蔓皮は薬用として、また実はムベと共に菓子として、山城国・大和国・河内国・摂津国から献上されていたことが<延喜式>に記してある。果皮は厚ぽったくで美味しそうであり、事実少し苦いが油炒めにして食べる事が出来る。種子は漢方で肉袋子といい、これから油を搾り、食用また灯用にする。なんと言っても特徴はその実で、熟すると果皮が裂け、果肉が覗く(ムベは裂けない)。この形が「実が開く」:アケミ、或いは朱実からアケビの名がついた、<和名抄>で玉門は女陰の名なり、通鼻と、この実熟裂けて女陰の如、故になづく、とあり。同じ趣感から、山女・山姫というとある。山娘はアケビの事である外に、紅葉の事を言うので、酒を飲んで紅葉の山を逍遥するとき樹間に娘女が見えるという。木通というのは、この茎を数寸に切り、片方から吹くと導管に通気性があって、空気が通ることによる。漢方では、利尿通経に用いる。<李時珍>は、極めて細い孔があって、皆通じている。通草と呼ぶのは古の通脱木のことで、宗代の本草書に一物として混淆したため、と述べている。通俗名で、匐子というのはアケビで、郁子というのはムベである。
<本草和名 |
通草 |
<倭名類衆抄 |
通草 |
17 |
匐子 |
17 |
郁子 |
<古今要覧 |
あけびかずら あけびかずらの実より油を搾り用る事は信濃国、出羽国、にはこの油にて物をゆびき食す。灯油は更なり、その油清潔にして、上品なり、然れども多く食すれば瀉すといへり、この藤蔓は薬なれども、其の実は多く食して瀉下する事なくして、油には大便閉に用いて可なるべしとの説なり。あけびかずらは処処に自生多きものなれど、年を経し蔓に」あらざれば実のらぬ物也、花は年を経ざる蔓にも咲く、花芯は清明の日より開く、その色淡紫にして三弁の小花、下がり集りて開く。その小花同じ形状にして、大きさ寸許のものあり、この大輪の花は小花の方より濃い紫なり、この種は実を結ぶ花なれども年を経し蔓にあらざれば、実らず。また淡碧白のものあり、その形状種類は本草綱目啓蒙に詳なれども、出羽の国には実も大にして四五寸許のもの有り、その色紫色にして美なるあり、この紫色に染めなして美なるものは味美也といへり、凡通草に三葉五葉の別あり、五葉のものの実は熟して皮われ、色瓢現われるものといへども、其皮褐色小は紫色を帯れども美色ならず、いまだ三葉のあけびの実を結びしを見ざれば、三葉のものやと問うに、過し事にて葉の三葉五葉のことは弁えずといへり、核は黒滑澤にして升目の如、破れば内に白肉あり、即油を採るものなり、和名抄郁子の次に匐子また同書通草と訓じて、実と蔓とを別条となしたれば、古は専ら食用とせしものなり。 |
<大和本草> |
木通 |
<大和本草> |
木通(蔓即木通也、茎葉を通草という)此説非なり、古は通草と云、後世木通と云、(木芽漬)通草及忍冬の新葉を塩に漬、三年ほど置きたる物と云、塩辛くのみにして味なし、しかし名物也、(花容三分)花に大小雑る、大花は紫色、小花は淡紫色、茎長く下垂巣、秋実を結ぶ、略一寸余、長三寸許瓜の如し(円子)と云は誤れり、皮厚一分許、秋自ら開く、黒子あり、漆の如く光る、肉白して味甘し、小児采食ふ(ときわなるあり)マルアケビ・ムベと云、食用にす、形円く熟してあかし、亦紫色ともなる。アケビの実は熟して全く赤きならず。葉大にして厚し、漢名野木瓜。 |
植物
アケビ科 Lardizabalaceae
東アジア~南アジア・ヒマラヤとチリーに隔離分布する。蔓性で蔓は強く、バスケットなど編む。花は3基数で、雄花は6雄蕊、雌花に離生した3心皮(3ヶの雌蕊)がある。8属20種。
ムベ属 |
ムベ |
アケビ属 |
アケビ・ミツバアケビ・ゴヨウアケビ・ |
アケビ属 Akebia
落葉叉は半常緑蔓性、蔓は左巻、雌雄同株、葉は3~5小葉の複葉にして柄は長い。花は腋生、穂状花序、雌花は大、雄花は小、萼片は6個で雄蕊につく。果実は肉質で漿果、食用となる。日本および中国に4~5種あり。
① アケビ Akebia
quinata Decne (Rajania
quinata Thunb.)
イシアケビ、アケ、アケビノカズラ、アケベ、アケビ、アケボ、アクミ、ハダツカズラアケビ、ハダカズラ、ハダツラ、ハンダツカヅラ、チャズル、タタハ、タトバ、ゴサイカズラ、チョボチョボ、オドリバナ、テンタテマンボウ、テンテンコブシ、オキアガリコブシ、イヌノキンタマ、ネコノゲーゲ、ネコンクソ、イヌノクソ、アキンドカズラ、オカメカヅラ、ヤマヒメ、ヤマオンナ、ウンベ、オール、
ジサンバアサン、コモソウバナ、*オルムクル、*モクトン、*オールムトングル、(*印韓国)
野木瓜、木通、通草、山姫、匐藤、女郎花、附支、丁翁、離南、冠脱、椅商、阿介、阿介比、燕腹、丁年藤、
本州・四国・九州・南鮮・中国に産す。落葉蔓性、雌雄同株、若枝は帯紫緑色、茎は左巻き、無毛。葉は互生につき、長柄、5小葉が掌状についた複葉である、小葉は長楕円形~倒卵形、短柄、表面はやや革質で濃緑色往々白色蝋粉が覆う、裏面は淡汚緑色、長3~5cm,巾1~2cm,
花は四月新芽の伸びる頃開く、無弁、三萼、淡紫色、雌花は大型で花序の基の方に2~4個着き、径25~30mm,
雄花は花序の先に多数着き、径12~16mm.果実は漿果、長楕円形、始めは緑色であるが、熟すると淡紫灰色、長さ80~120mm径30~60mm,
10月に熟すると縫合線に沿って縦に裂ける。内部に軟肉状の果肉がバナナの様に、多数の黒い種を包んで塊まってある。種子は表面漆黒で光沢あり、5.6×4.2×2.3mm重さ32.5±6.4mg
果実102±57個。果肉は甘く美味しい。
補説
1.
山野の水気の多い土質を好む。日当たりの良いところでないと結実しない。暖地に多い。
2.
結実するのは10~12年育過した熟生木である。
3.
一つの株に雌雄の花が着くが、同株の花では受精しない〔自家不和合〕。両方の花は、それぞれ相手側の性の痕跡を残している、
4.
雌花の花柄は長く、中軸に対して直角につく。
5.
一つの雌花には3~9個の心皮があり、受粉すると複数個の果実が成る。果実は花託が肥大下もので、先端に萼片が残っている。食用となる部分は仮種皮が多肉となった処である。
6.
アケビとゴヨウアケビとの交配種にコゴヨウアケビと云う雑種がある。小葉は切れ込みが有り、雌花の花柄は長く中軸に対して鋭角に着く。
<和漢三才図会> |
木綱木通は藤生にして蔓の大いさ指の如く其の幹大なるは経三寸、一枝五葉頗る石韋に類してまた芍薬に似て二葉相対し夏秋紫花を開き、また白色あり、実を結ぶこと小木瓜の如くこれを食するに甘味、その枝を木通と謂ふ。茎に細孔有り、両頭皆通ず。一頭を吹けば即ち気彼の頭より出づるは良し。紫は皮厚く味辛く、白きは皮薄く味薄し、按ずるに木通、華より渡る所のものは香気ありて佳し、倭の産は丹波に出るものよし。 |
<植物集説> |
実の形、瓜の小なるが如く、熟すれば其の一方縦に開き内に白瓤あり、味甜視、児童採り食う、黒子多し、此の子の油は上品にして食用灯用によろし。羽州秋田にて日常の用とんさすと云ふ。亦西京鞍馬山の名産の木の芽漬は此の葉と忍冬葉を合わせ塩蔵したるものなり。此草又茶ズルの異名あるは播州江州にてこの葉を製し茶に代用する故なり。 |
近似種
フタバアケビ
var.
diplochlants Makino
シロハナアケビ
var.
leucantha Nakai
② ミツバアケビ Akebia
trifolia Koidz. (A.
lobata Decne., A. quercifolia S. et Z. ,A. clematifolia S. et Z.,
Clematis trifolia Thunb., .)
アキビ、アキミ、アギンビ、ヤマノアネコ、ヲトコアケビ、キノメズル、ヤマアケビ、
{アケビと混同するものあり}
北海道・本州・四国・九州の山に生ず。アケビよりやや北方に分布し、やや大型で、果実はアケビより大型で美味と言われる。落葉蔓性(蔭地では常緑もある).。.葉は互生、卵型~3角形の小葉が3個着く掌状複葉、小葉は縁が波型鋸歯、長さ3~6cm。花は長総状花序、4月に開花、花の色は濃紫色。雌花は中軸に対し直角。果実は長さ180mm,径50mm、晩成。種子は扁平濃赤褐色光沢あり、6×3.5×2mm重さ23.0±2.2mg、果実1個の種数117.3±71.8個.
2n=32.
近似種
マルバミツバアケビ
var.
clematifolia Nakai
③ ゴヨウアケビ Akebia pentaphylla
Makino (A.
lobata Decne.,var. pentaphylla Makino, .)
ミツバアケビとアケビとの間にできた天然雑種である。本州南部・四国に産す。形態はアケビに似る。葉は長柄3~5小葉。花はミツバに似る。
近似種
ハナガアケビ var.
diplochlamys Nakai
クワゾメアケビ
var.
integrifolia Y.Kimura
ホザキアケビ Akebia
longeracemosa Matsum.
古文
<祠漁山神女歌 |
通草頭花椰葉裙 |
|
<夫木和歌抄 巻15 |
くれなゐに |
藤原俊成女 |
山ひめの |
定家 |
|
<山家集 |
ますらおが |
寂蓮法師 |
山里は |
覚性 |
|
<寒雲> |
やまかげの道に |
斉藤 |
<風隠集> |
月よみの |
北原 |
<俳諧> |
ひよどりの |
(卯辰集) |
鳥飛んで |
虚子 |
|
むらさきは |
渡辺水巴 |
|
種を吹く |
水木真貫 |
用途
{工芸品}
蔓茎を編んで籠などの容器・魚篭・菓子盆・鞄・炭取などを作る。これにはミツバアケビの方が細くて扱いやすい。
{食用}
*
熟した果実のサナゴを生食する。非常に甘くて美味しいのであるが、種が多くて食する時邪魔になることが市場商品とならない点である。種無しブドウのようにならないものか。
*
果皮は其の儘では、苦くて食べられないが、油いためにすると案外いける。
* 種子は搾って油を採り、食用油になる。
*
若い蔓芽は東北で、キノメ・モイコ・モエと称し、芽漬にする。鞍馬山の名産の木芽漬はアケビとニンドウの芽を塩漬にしたものである。
〔薬用〕
木通Akebiae
Caulis
アケビ科の植物の木茎を輪切りにして乾燥したものである。しばしば他木が偽物として混同している、中国産は非常に品種が多く、却って本当のアケビは少ない。中国の特異とする贋物商品の分野でもある。アケビにはHederagenin(Ⅰ),
awitolochic acid = oleanolic acid (Ⅱ)のゲニンとする多種のtrierpenoid
saponin を含有する。これらはakebioside
St b~hに分類されている。
種にはamebia
saponin A がある。
利尿・通径に効あり。時々、ジギタリス様の強心作用が報告されている。
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(Ⅰ)R |
arissyolochic |
(Ⅱ) |