Ab. 建造物・家具に用いる広葉樹









A.
住に関するもの

b.
建造物・家具に用いる広葉樹

No.

集に記載

同訓

該当する植物

漢語

日本語

Ab-01

尓礼

ニレ

ハルニレ(ニレ科)

Ab-02

ツキ

ケヤキ(ニレ科)

Ab-03

エノキ

エノキ(ニレ科)

Ab-04

クラ

ムクノキ(ニレ科)

Ab-05

ハリ

ハンノキ(カバノキ科)

波里

ヤシャブシ(カバノキ科)

Ab-06

ヤナギ

シダレヤナギ(ヤナギ科)

也疑

ヤギ

Ab-07

川楊

カワヤナギ

川楊

カワヤナギ(ヤナギ科)

川之副

ネコヤナギ

Ab-08

白楊

ハクヨウ

山鳴

ヤマナラシ(ヤナギ科)

Ab-09

都萬麻

ツママ

タブノキ(クスノキ科)

Ab-10

ツキ

槐樹

エンジュ(マメ科)

建屋などの構造物の木材は、どちらかと言えば針葉樹のほうが適している。広葉樹は概ね曲がりくねっていて、長くて真直な材を切り出し難いからである。ましてや鋸・鉋などの大工道具が未揃の万葉時代は、桐・樟のような特殊の目的を除いて、材木として顧みることはなかった。ところが、時代が下るにつれ、急速な人口増に加えて度重なる新都市計画があり、大量の真木が必要となるが、都街近くの山野の樹木は無くなってしまった。奈良時代は吉野・紀伊の山々の杉が供給源であったが、新帝都が北上するにつれ、平安時代には琵琶湖西岸の森林が伐り出され、さらに遠地にまで、飛騨の檜・秋田の杉林に手が入るようになった。江戸時代は江戸の火事多発に需用が急増し、木材価格が暴騰し、また、幕府は治水対策に森林の影響大なることを悟り、森林伐採を厳しく取り締まった。

広葉樹はこの取り締りの対象でないので、此の使用の検討がされて、会わせ木柱などが出現したが、加工技術が難し過ぎてそんなに普及しなかった。反面、広葉樹は木目が美しいので、床の間・腰板・廊下の板材に歓迎され、今でも旧家では贅を尽くしたケヤキの廊下など見事なものが残っている。現代は合板技術が進歩し圧着によって造った合板材が出来、端材などの資源活用に一役克っているが、この合板は接着剤の進歩に負うことが多いのである。しかし、この技術は昔からあったもので、弾力の強いケヤキ・マユミ・ハゼ・タケを細く裂き精密に揃えてウルシで固め、弓・釣竿を造っていた。さらに、束にした合材によって作った巨大柱は東大寺大仏殿に見られる所であるが、1990,出雲大社の改築の際発掘された柱は周囲3mもある合木で、しかも3本を鉄環で締め付けてある。是によって伝話とされていた高さ36丈の出雲大社の巨大建築もあながち嘘でないことが立証された。

広葉樹の材としての特徴は、木の種類によって夫々性質が差違のあることで、大木となるケヤキやクス・シイなどは建物・橋梁の材に用い得る。ただし、広葉樹は湿分に弱く腐敗し易い。ハンノキやヤナギ材は耐久性に劣るけれども、逆に軽質と柔軟性を利用して、行李や筥笈に利用される。軽くて防湿性に富むキリ材は箪笥や骨董品の外箱に作られ、カシは強靭なることをみて農機具の柄やスポーツ用具に向けられる。ツゲは粘りがあって細かい細工が出来るので櫛や織機に、ツバキも同様で算盤の珠の専材となっている。使い易さの評価は長年の間に決められるのであるが、これが伝統的に口伝として落ち着く場合がある。囲碁のカヤの盤、碁受はクワ、将棋の世界ではカツラの盤・ツゲの駒と決まっている。クスノキ・ビャクタンなどは香気成分を含み、保存が効くから仏像の彫刻・祭壇材に選択されたものがある。

Abの本項に、材と成り得る10種の樹木を組み入れたが、材を主目的にでなく、花や葉の鑑賞、食用となるフルーツとナッツ、特種成分を含み薬用に又工業薬品を得るもの、などがあるが、これ等は他項に掲載した。

広葉樹の材は組成的にリグニンが多く、セルロース分もヘミセルロースが混っており製紙用には劣ると言われていたが、現在は技術的に、広葉樹でも製紙に十分対応出来る。また栄養分が富むので腐りやすく橋梁や根太には使い辛い半面、シイタケ・ナメタケ・マイタケなどの茸の生産に利用が案外多い。もう一つの重要な用途は薪炭があり、人智が発達してくると金属の精錬に木炭は必須であり、また窯業にも大量の薪が消費された。.

このような訳で、人類の発達とともに木材の消費量は伸び、世界の森林は急速に減退し始めた。中南米・東南アジアの膨大な熱帯雨林は商業的な伐採のため、既に30%が壊滅したと言われるし、寒冷帯の森林も同様の憂き目にあっている。商業的伐採とは木を選択して切るのでなく、丸ごとブルトーザーで踏み潰すのであるから、下草にいるの貴重な動植物は調査の対象にさえならないで殺害されてしまうのである。かくして少なくとも5000種の動植物は絶滅してしまったとい言われる。

わが国の樹林はかって厳しい保護の結果、素晴らしい美林を保っていた。しかし山岳地が大半を占めているので、管理と搬出に経費が係り、加えて林業従業者が不足して、山に入る者がいなくなリ、森は荒れ放題になってしまった。林業の指導にも間違いであった。即ち、戦時中の無理な伐採を修復するために経済性を重視し、戦後はスギ一辺倒の植林であった。 ところがスギの林は陰鬱であって、動物も考慮した生物循環系を見ると、正常に働いていないことが判った。加うるに成木から飛び出す花粉によるアレルギー症の問題で、スギ・ヒノキは悪役にされてしまった。それで森を明るくするためにドングリ・カエデ/などの落葉性広葉樹を植えることが提案された。しかし,一時的感傷で物事を決めると必ず失敗するものである。例えば病虫害の発生、ノネズミの大量発生はないだろうか?それに森林事業は経済性を無視して成り立たないものであり、計画は頓挫してしまう。ドングリは、子供は喜ぶであろうが、果たして永続するものであろうか?・・・


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