Ac-07. いわつな










Ac-07
いわつな・岩綱

定家葛・テイカカズラ

漢語 薛茘・ヘイレイ ・絡石

【万葉集記載】

いわつな

06-1046

つぬ

02-0135

03-0282

03-0423

13-3324

13-3325

()
06-1046

惜寧楽京荒廃墟作歌三首の三 作者不

岩綱乃
又變若反 青丹 奈良乃都乎 又将見鴨

石綱イワツナのまた変を若か減り
青によし 奈良の都をまた見なむかも

註釈

石綱の:
石にかかる枕詞

青によし:
ならに懸かる枕詞

変若津:
若返る

()
03-0282

春日蔵首老カスガノクラビトオユ歌一首

角障経
石村毛不過 泊瀬山 何時毛将超 夜者深去通都

つのさはふ
磐余イワレも過ぎず 泊瀬山ハツセヤマ
何時イツかも越えむ 夜は更けにつつ

注釈;

つのさはふ:
石に懸かる枕詞
「綱・蔓ツナサワ
這うハウ」のハが同音反復のため、脱落した形
鶴多く這う石の意。

盤余:
奈良県櫻井市の香具山の東、 

泊瀬山:
奈良県磯城郡初瀬町、櫻井市東北部の辺り、 

更似つつ:
更に行きつつ、

概説

岩綱はイワツナ=岩に這うツタ
であり、蔦や葛など蔓物を総称する。古語でナとタと通音なので、イワツタと読め、即ちテイカカズラのことであると万葉集品物考に書いてある。

和歌の世界でテイカとは言わずもがな歌人の藤原定家のことである。定家は,<新古今和歌集>の五人選者の一人であり、歌をよくし、後鳥羽院の信も高かった。当時和歌は宮廷人の必須の学習であったから、才に秀でて美男子であった定家は女御達の羨望の的であり、定家に接近を望んだ。皇女式子内親王(1149~1201)は歌の勉強を定家に指導して貰うが、次第に緊密に纏わりつくようになる。

玉の緒よ絶え長らえば忍ぶる事のよわりもぞする
百人一首

定家は慕うあまり、その墓に手を伸ばし蔦蔓となって墓に絡みつく。この葛を定家葛と名づけられた。

藤原定家:
平安後期~鎌倉時代の歌人で、父は藤原俊成、母は藤原親忠の美福門院加賀。兄成家のほか同腹異腹の兄弟が多い。初名は光季、五歳のとき季光と改名、翌年定家と再改名。歌をよくし、多くの歌集を提綴し、京極中納言と呼ばれた。広保2(1241)~仁和2(1241))820日没。法名は明静

謡曲本
定家
:
金春禅竹の作(1470年頃)といわれ、謡曲で第4番目に演ぜられる邪陰物の一つであり、女郎花の内容と似ている。北国の僧が都に上り千本の辺りで夕景色をながめていると、俄かに時雨が降ってきたので、傍らの古ぼけた庵に立ち寄ると、一人の女が現われ、これは藤原定家が建てた時雨亭であると教える。式子内親王の墓に連れてゆき、内親王は定家卿と人目を忍ぶ契りを結んだが間もなく亡くなった。卿の執心は葛となって内親王の墓に絡みついた。

不思議やな、これなる石塔を見れば、星霜古りたるに蔦葛這いまとい形も見えず候。これは式子内親王の御墓にて候。蔦鬘をばをば定家葛と申し候…式子内親王なくむなしくとなりて、おん墓に這い纏いて互いの苦しみ離れやらず…

執心の苦悩から絡み離れず,僧の供養を求めた。

式子内親王の斉院となったのは平治元年、退位が嘉応元年であり、一方定家は平治年間に生まれておらず、嘉応元年僅か9歳であったわけであるから、謡曲の物語は実際には成立しない。

藤原定家は花木を愛し、家の周りに植え楽しみ、死後墓に葬られてから、数日して一茎の木を生じ薫りも高く匂う花が咲いたので時人は是をテイカカズラといった。枕草子に”昔おほえてふようなるもの…七尺のかずらの赤くなりたる”とあるのは、恐らくテイカカヅラであろう。

別説に、テイカカズラの語因は、植生地が庭下にあった由縁によるというのがある。

また、マサキノカズラという植物があり、日本の古典でその名が盛んに引用されているのであるが、それはニシキギ科のツルマサキEuonymus
Fortunei
Hand-Mazz
の別名である。ところが、植物学の重鎮である白井博士は、諸文献証をあげて、真辟葛はテイカカズラであると提唱し、牧野博士もこれに同調されている。マサキカズラは日本神話の高天原の世界にも登場している。

<古事記>

天宇受売命,次繋天香山之天之日影.為縵天之真析,草結天香山之小竹葉… 

次に、角障経ツノサソウについて言及すると、これは石に懸かる枕詞に用いられるのであるが、絡石刺蔓ツヌサシハウの約言であるらしい。ツヌなる詞は古く古事記からみえ、ツヌから角・綱・葛の字に変転したと考えられる。

<古事記
40>

多久豆怒能
斯路伎多陀年岐 阿和由岐能 和加夜流牟況還

<継体紀>

七年九月
都怒婆挿符 盤尓池能

<仁徳紀>

三十年十一月
都怒 槎赴 盤尓池能

<書言字考節用集
6
生植>

薜茘マサキノカヅラ、本名木蓮、本草、四時不凋、厚葉堅強大亍絡石、不花而実名、真薜葛

そして、角障経を定家葛と訳した記書は日野巌先生で、<植物歳時記>にツヌをテイカカズラらしいと推定している。その理由は定家葛の果実が角の出た目立った形しているからであるという。漢名を絡石という。

<和漢三才図会
96

絡石
和名豆太 俗云定家葛 相伝 黄門定家郷之古墳石生
因名之葉似薮柑子ヤブコウジ 而無刻歯

<本草綱目>

絡石は陰湿の地に生ずる。冬も夏も青い。その蔓を折ると白い乳汁が出る。その茎葉は樹や石の上を這いめぐって、茎節のところから髭根を出して石に纏いつく。その葉は指頭より小型で厚く強靭で青い。葉裏は色が薄く光からない。

<長防産物名寄
島田智庵
>

絡石
テイカカヅラ。長州にてキゾエカズラ一名トキワカズラ、一名ハクチカズラ。

中華国で相当するのはケテイカカズラTrachehelosperum

jasminoidesであるが、この名前の移遷について、寺島宏先生の解説によると、古典名の”薛茘”はジャスミンの如き芳香のある花をつけるものであったが、時代が下るとオオイタビ{クワ科
大木連子}をさす様になり、代わって”絡石”となった。何時代わったかは正確に判らないが、明の王象晋の著書
<群芳譜>に「薛茘
一名絡石」とあり、また李時珍の著
<本草綱目>には「絡石
釈名 石鯪・石竜藤・耐冬・石血」など数々の名が挙がる。

角障経を語彙からツタであるとする説もある。また、岩綱を岩絡とよく似ているとして、下記のユキノシタ科の植物を充てる例がある。

イワガラミ

Schizophragma
hydrangeoides Sieb.et Zucc.

シマユキカズラ

Polcostiegia
viburnoides Hook fil.et Thomas

ツルアジサイ

Hydrengea
petiolaris Sieb. et Zucc.

植物

キョウチクトウ科 Apocynaceae

一般に蔓性であるが、稀に直立の潅木、多年草もある。葉は単葉で厚く全辺、葉柄の間に小托葉がある。

花は両性、放射相称、5基数をとる。花冠は高盆状orロート状、裂片は蕾のうち回旋。雄蕊は花筒に着き、花糸は短く、葯は内向。柱頭は屡頭状、胚珠は多数。種子は扁平、翼か長毛がついている。本種は切ると屡々白い乳液を出すものがある。多くは有毒成分を含み、薬学上新しく開発分野である。世界に約1501100
主に熱帯~亜熱帯に分布する。

キョウチクトウ属

Nerium
[4]

(直立木)

キョウチクトウ・
セイヨウキョウチクトウ

ミフグウギ属

Cerbera
[5]

(直立木)

オキナワキョウチクトウ

ヤロード属

Ochrosia
[30]

(直立木)

シマソケイ、ヤロード

ゴムカズラ属

Ecdysanthera
[11]

(蔓性木)

ゴムカヅラ

サカキカヅラ属

Andendron
[7]

(蔓性木)

サカキカヅラ

テイカカヅラ属

Trachelospermum
[30]

(蔓性木)

テイカカヅラ、オキナワテイカカヅラ、ケテイカカヅラ

キバナキョウチクトウ属

Thevetia

(常緑潅木)

キバナキョウチクトウ

インドソケイ属

(落葉小喬木)

インドソケイ

チョウジソウ属

Amosonia

(草本)

パンラルモン属

Apocynum

(草本)

ホウライカヅラ属

Parsonsia

(草本)

テイカカヅラ属
Trachelospermum

常緑蔓性潅木、葉は対生、有柄、全縁。花は頂生腋生の粗集散花序、花冠は漏斗状、5裂、白色のち黄変、たたみ方は普通右旋。香気あり。果実は細長円筒形、種子に白色冠毛あり。東亜・北米に約20種あり。学名trachelosはギリシャ語の頸、spermaは種

テイカカズラ Trachelospermum
asiaticum Nakai

(var. intermedium Nakai,
T.divaricatum Kanitz., T.crocostomum Stapf, T. majus Nakai, T.
jasminoides Fr. et sav., T. Malouetica S. et Z., Maloutia asiatica S.
et Z., Parechites Thunbergii A.Gray, Rhyncospermum japonicum Sieb.ex
Lavall Nerium divaricatum Thunb. )

マサキ・マサキヅル・マサキフジ・マサキカヅラ・ヤマカヅラ・ツルマサキ・セキダカズラ・ツタ・ゼニツタ・チョウジカズラ・セキダグサ・ツヌ・イワツナ・ツルクチナシ・キソエカズラ・チチカズラ・シオフキ・セキリュウトウ・トンズル・バラカンザシ・マサクナム・パイコアトイン・マサクチュル

絡石・白花藤・石薛茘・鬼腰帯・鬼繫腰・領石・雲英、扶芳藤・石鮫・石竜藤・懸石・耐冬・雲花・雲丹・石皿・雲珠・地錦・地禁・薛易・木饅頭・鬼饅頭・杜芳・山

Climbing Bagbane,
Chinese Jasmine, Chinese Ivy

本州、四国、九州、琉球、台湾、朝鮮に分布する。常緑蔓生、蔓の太さは0.5~1.0cm,古茎は灰白色、幼枝は無毛また褐色疎毛あり、葉は対生につき短柄、楕円形~卵状披針露宴形、鋭頭、鋭脚、全縁or微歯縁、厚革質、表面は光沢ある暗緑色、下面は淡色、大きさは長さ3~6~8cm,1.5~3cm,茎葉を傷つけると乳液を出す。秋時には紅葉する。花は五六月、粗い集散花序に着き、花冠は盆形5深裂、裂片は斜倒三角形、縁辺は反巻きし、波状になって右に旋回する。葯は柱頭と合着する、径20~30mm,花筒の長さ7~8mm,芳香あり、白色、落下前に黄変する。花後二つに分かれた細長い角状の果実を着ける、やや湾曲した長さ150~180mm,扁平の紐状で下垂して着く。種子は12~14mmの腺形、白銀色の銀毛が多数付着する。日本にある巨木は、耶馬溪の大宮神社の丘陵にある。北山地一郎氏の邸宅にイチヒカシに纏うものは胸高の周囲ど0.33mある。

補注:

1.多くの栽培品種がある。葉に斑入りのもの、葉型、細葉、覆輪、など、普通種でも花の香りの高いものが尊ばれる。

2.葉の大きさは色々あり、1cmの小さいものから大きいのは8cm位まである。一般に若い枝の葉は小さくて中脈に沿って、白斑がある。

3,
茎は明るいところで地上を這い、暗いところで攀じ登る。(ツタ・フジと反対)

<和漢三才図会>

相伝不
黄門柄定家の古墳の石に生ず、依って之をなずく。

<大和本草>

絡石、その葉橘の如く、また五味子に似たり、花は梔に似て少なり、白く、暦年久者葉四五月に小花咲く、香りあり、其蔓の細く長し、垣及び石に這う。花五出毎片其末皆戻れり、為異花石にあるを薬に用う。本草原始曰、生陰湿処凌冬、葉似細橘延於木石之上茎節著処、即生根髭、包絡木石、以之得名、今按に冬も葉あり、其余も本草原始にいへるごとし、時珍云、其蔓折之有白汁、其葉小干指頭、厚実木強、而青背淡有尖葉、円葉二種一物、蘇恭曰、達樹生者葉大而薄。

<大和本草批正>

五味子に似たりとは非なり。橘の如しと云は可也。花大きさ銭の如く色白くして衰るとき微に黄に変ず。花弁皆微しく糾戻す。莢長七寸ばかり、一方開けば如を吐くことガガイモの如し秋月霜に染みて葉紅或紫。

<用薬須知>

絡石
和名定家カズラ、葉似橘花白く多くは樹木垣離にまとふて生ず。其石上にあるものは葉小にして至秋色赤し、本草に石血と名く。俗セキダカヅラ、是亦小葉の絡石也、神農本草経解故に云、絡石、蘇恭曰、以其苞絡木石而生故名絡石、俗名底葛加疾刺一名一話紫乃木、蔓生葉有大小円尖四種、小葉者俗呼設気達加疾刺、尖葉者種樹家呼紫児枯捺什云々。

<琉球産物志>

絡石、大島土名正木蔓、登按比常絡石其葉大其莢如梓実、長一尺以上。

<本草図譜>

絡石、テイカカヅラ、一種チリメンカズラ、葉絡石より小さくして皺あり、花実共に同じ、   

一種セキダカズラ、形状絡石に似て小なり、一種ハツユキカズラ、一種ツルクチナシ別名チョウジカズラ。

近似種 

ナガバテイカカズラ

var.
oblanceolatum Nakai

チョウセンテイカカズラ

var,
glabrum Nakai

ケテイカカズラ

var.
pubescens Makino

古典

<夫木和歌抄
15
6


(まさきのかずら)の題を立て、詠歌3首

葛木や
まさきの色は秋にして よその梢はあをなる哉

西行上人

外山まで
みやまの嵐 分けすぎて まさきの葛 秋風ぞ吹く

後鳥羽院宮内卿(源師光女)

ゆうされば
色こそ見えね 音場山 ちるやまさきの 紅葉ならん


頼綱

<小笹生>

藪垣に
からみて白き 小さき花 かってききゐし 定家かづらなり

岡 麓

藪多きこの村ならでは
咲かぬてふ ていかかづらは 家土産づとにせむ

木村流二郎

用途

観賞用:
生垣にする。園芸俗語で、全体()が大型で、下面が無毛のものをチョウジカズラ、毛の生ずるものをテイカカズラという。小型のものは盆栽にして観賞する。セギカヅラ、チリメンカヅラ、ハツユキカズラ、ウスベニテイカ
etc.
改良種は、<草木錦葉集>に「正木桂」「仙太縮緬蔦布」「永縞初雪」「青梅葛副輪」「定家砂子布」「木葉定家」「丁子葛つり布」「縮緬かづら細葉」etc.

香料:

薬用:
民間でまれに増精・利尿などに煎薬として服用されている例があるが、キョウチクトウ科には毒成分をふくみものが多く注意すべきである。しかもその含量が不定のため施量が定まらないからである。ただし、この科の植物には未知の成分を含み、近年注目されている。


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