Ac. 屋根葺材・結索に用いる蔓材










A.
住に関するもの

c.
縄・紐なと結索に用いる蔓性植物

No.

集記載名

和字

紹介する植物

Ac-01

つた;蔦

都多

ツタ・キヅタ

ナツズタ・フユズタ

Ac-02

(たま)かづら;玉葛

玉葛

ゴトウズル・ツルアジサイ

現植物名になし

Ac-03

はまつづら;浜葛

浜荊

ハマゴウ

海浜植物

Ac-04

やまつづら;山葛 

夜麻都豆良

ヤマブドウ

現植物名になし

Ac-05

さねかずら;狭根葛

美男葛

サナカズラ・ゴミカズラ

狭奈葛

Ac-06

つづらふじ;防己

木防己

ツズラフジ・アオツズラフジ

サネカズラ

Ac-07

いわつな;岩綱

定家葛

テイカカズラ

角障経
ツノサソウ

Ac-08

くそかづら;屎蔓

屁糞葛

ヤイトバナ

女青

Ac-09

さのかた;狭方

木通

アワビ・ミツバアケビ

山女

Ac-10

ところずら;冬薯蕷葛

真辟葛

ツルマサキ

辟茘

Ac-11

かげ; 日蔭葛

石松

ヒカゲノカッ゙ラ

葛蘿

植物には草ならび木に、茎が自立せず、蔓状となって他物に絡み付いて蔓性植物がある。植物は日光を求めて少しでも背を高くなるように成長するのであるが、蔓性植物はそんなに茎を丈夫にしなくとも他人に縋り付いて背丈を延ばし、効率よく成長するズルい奴である。冬季になれば蔓が一年で枯れてしまうアサガオ・エンドウマメの如き草の類と、フジ・ツタの様に経年して木質化するものとがある。よじ登る側の蔓性植物は労力を省くことができるが、取り付かれた方は迷惑な話である。よく見る例であるがクズの蔓がスギなどの立木に絡み十数メートルの高さに伸び上がって、スギかクズか判らないまで繁茂しているのがある。南方にある「締付の木」とも言われるガジュマルは、取り付いたら家主の樹をやがて枯死させて、その跡が空洞になり、自分だけが直径数メートルの大樹になる怖い話である。

古代の人間はこれらの蔓を、索や縄としてうまく活用してきた。樵やマタギは山を駆巡る道に、藤や蔦の蔓を使って吊り橋を懸けたりしていた。丸太をうまく蔓で縛って建てた小屋もあったし、収穫物を干すハサも蔓で縛られていた。今は、斯様な構造物は全く見当たらなくなったが、蔓を利用して編んだ籠物・手筺などは雅趣ある趣味品として玩用されている。

古代の住居の柱・梁などを固定するためには、多くは縄や紐で縛り付けたもので、現代の釘・鎹の使用は奈良以後であった。その参考に、世界文化遺産五箇山の合掌造りがそうであり、数百年経過しても腐朽することなくその姿を残している。その他の橋船などの建
造物も、組木と縄綱でもって組み立てられた。

本項の他に綱・縄・紐に用いられるもの

Ba-1

あさ

Dd-6

ふじ

Dc-2

葛・久受

くず

Bc-1

皁莢

かわらふじ

Cb-2

冬薯藷・冬菽蕷

ところ

蔓性植物のもう一つの重要な用途は、美粧に係わるもので、まずは長く成長する人の髪を束ねるのに用いたのであるが、次第にそれを装飾として扱われるようになった。ツヅラを髪につけてカズラとなし、後世は簪カンザシの芸術品にまで発展するのである。古事記の天の石屋戸の伝承で、天宇受売命が<天の香山の天の日影ヒカゲを手次に懸けて、天の真析マサキを鬘として…>踊り狂う段、このヒカゲカズラ、マサキカズラが史上初めて記述の蔓である。

綱・縄・紐の類は、蔓性植物を其の侭、また簡単な加工しただけで用いる場合と、縄状に編み上げたものを用いる場合とがある。これにはBaに掲げる繊維原料や、身近なもので稲稈を編みあげた縄がつい最近まで使われていた。

蔓の繊維は案外強いもので、物の牽引、吊支、縛束などの目的に、戦前では渓谷の吊橋や小舟の係留桟橋に見られたものである。蔓を叩いたり晒洗したりして、皮や樹肉を取り去って繊維束だけにしたものをyarnと言い、これに撚りをかけて紡いだものをstrandという。これを数本以上縒ってロープを作る。マニラ麻、ジュート麻などはつい50年前まで綱索の主流であった。
合成繊維のロープは軽くて強いけれども、極寒の極地では未だ十分な信頼がない。この撚紡法は布・織物の方面にも発展して行くのである。ものを縛ると言う作業は人間が考え出した相当な技能であって、チンパンジーやそれに類する子供は出来ない。山登や操船で扱うロープは間違うと人命に係わる問題であるから、正しい結索法を習得するよう教育されている。紐や縄を正確に結すんだ形は非常に奇麗であり、祝儀袋にかける熨斗結びなどは日本人の芸術的手芸であろう。この様に蔓性植物は、住に関する以外にもいろいろと用途がある。

だが、万葉集の歌に載せられた蔓性植物は、用途を対象にして歌っているのではなく、文学的に、

(A)長く蔓が伸びることより、家系など絶えることなく長く続くこと

(B)蔓が絡まって状態より、思いが纏まらず頭の中が錯綜した状態 

(C)蔓は二股に別れるが、伸びたその先でまた絡み会ことより、別れた愛しい人と後にまた逢うことの出来る懇願

(D)蔦などの植物が美しく実をみのることより、神また大君の崇高なことを称える

(E)同じく「実る」ことより、恋などの願い事が実現することの期待

(F)カスラを鬘と掛け、寝室で女性の頭髪に触れることの思いを述懐

(G)石綱は、蔓が絡んで石をしっかりと抱きかかえていることより、亡くなった思いでの人を忘れないこと。

権中納言藤原定家は、女性の羨望を一身に集めた歌道の達人であった。京極中納言黄門とも号する。身だしなみがよく、頭髪に葛
(テイカカズラ)
の樹液を塗布して整えていたこと。皇女式子内親王も纏わり付く女性の一人であったが、彼女は亡くなって墓石に生えた葛に化し、
定家を執念で石をがっちり抱えて伸びたという伝話により、この葛をテイカカズラと名付けられた。

古代には、蔓状の植物を
つづら
また
かずら
略して
つら
と云い、原語は
つぬ

つの
で、これが色々と変化 する。またカズラは長いことから、髪毛と関係がある。例えば飾りのための髪毛が、カツラ鬘であり、これを束ねた ものを髻ウズラであり、これから捲くものの渦ウズの詞も発した。葛籠つづらとは、ツヅラを編んで作った容器で、昔時は衣 類や飯米を入れる籠を筒羅ツツラと呼びよく利用されたものである。道路などでくねくねと曲がった様をつづら折りと いうが如くは筒羅を解いたときの材は折れ曲がっている故、これからの言葉であろうと思われる。

因に、葛クズと云う字は、現今はカズラと同じ読みであるが、正式の漢字は〓である。混同を避けるときには、本輯てもこの区別をする。外に{蔓ツル・蔦ツタ・蘰カツラ・蘿カズラ・蘊ツツム}も覚えておかねばならない。蔓性植物をツヅラ、ツラ、ツル、ツタ、カヅラ、ムグラと呼ぶこともあり、また茎の長い植物をカズラ付けの呼称とする場合がある。例えば、ヒサゴカズラ、フジカズラ、アケビカツラ。また単にカズラと呼ぶのはヒカゲノカズラのことであり、一風変わったこの植物は神聖なものと考えたらしい。蔓の茎枝が絡みあって足をも取られる様子をオドロといい、オドロオドロとなると気持ちの悪い縺れた様子である。

蔓性植物は他のものに絡んで登上するが、その遣り方に、①植物本体の茎を巻き付くもの[例:クズ・フジ・アサガオ・インゲンマメetc]と、②特別に絡付くための器官を有するもの[:
ブドウ・ツタ・キュウリ・サヤエンドウ]とがある。この巻付きの速度は案外早いのであって、つるが一周するのに、スズメウリ2min.ゴキヅル6min.マクワウリ8min.ヤブカラシ9min.アマチャツル12min.ブドウ1.1hrs.ノブドウ1.5hrs.サルトリイバラ5hrs.との小学生の観察記録がある。(家永・岡村・橋本・室井・平畑・藤本・前田
著 新訂図解植物観察図鑑 地人書館 平成
5)

巻き付くのに右巻、左巻というのは、上面から見て判断する。植物によって左巻また右巻と大体決まっている。これは北半球のアサガオを南半球で育てても同じとのこと。ところがスイカズラの様に左でも右でも両用の節操のない奴もいる。キュウリの場合は巻髭はゼンマイ形に巻いており、巻き付き乍ら螺旋を解く型で、絡み付くときは反転するから、左とも右ともは判定できない。同じウリ類でもヘチマでは巻鬚が2本に分岐し、セイヨウカボチャでは3本、トカドカボチャは4本とまちまちである。ブドウの場合は絡蔓の先が二股に伸びており、ツタの場合は数本に別れた先端が吸盤になっており、くっついた後は枝根状になって強固に木質化する。巻き付くチャンスに恵まれ無くて用済となったヒゲは、木自体が振るい落すのである。


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