Ad-06. おぎ





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Ad-06.
をぎ
乎疑


オギ・
(別名・ネザメグサ・カゼヒキクサ)

漢名:
テキ・蒹ケン

[万葉集記事] 

04-0500
浜荻

10-2134
荻之葉

14-
3446
佐佐良乎疑

の3首

()
04-0500

碁檀越ゴノタセノヲチの伊勢国に往きし時、留れる妻の作れる歌

神風伊勢乃
濱荻 折伏 客宿将為 荒浜辺尓

神風の伊勢の濱はまをぎ
折り伏せて 旅宿やすらむ 荒き浜辺に

注釈

碁檀越=伝不詳

伊勢に往きし時、持統六年
(692)
三月伊勢行幸の記録が別に有り、

浜荻=浜辺に生えるオギ

()
14-3446

雑歌
柿本人麻呂の歌集か

妹毛奈呂我
都可布河泊立乃 佐左良乎疑 安志等比等其 加多理与良斯毛

イモなろが付かふ
河津カワズのささら荻葦ヲギアシ
人言ヒトゴト語りよらしも

注釈

奈呂=親愛な関係にあることの接尾語

ささら荻=ささらは竹の削いだもの、よって細い葉の荻。ここでは囁きを交わす共寝の床を匂わす。

人言語りよらしも=他人がいろいろ噂しているらしいが…

[概説]

ヲギの初見は、日本書紀に<仁徳62年敦く茅荻を敷きて氷をとり以て其の上に置く>とある。

オギは、泥土の堆積した湿地に生える宿根性の1年草型イネ科植物であり、草丈高く腺状葉を持ち、秋には草頂から花穂を出穂する。此の頃になると、茎葉は強靭となり、これを刈り取り乾かして敷物・側壁・屋根材にする。古代に言うオギはこのように秋に花穂(尾花)を立ち、乾燥して藁の様に利用できる薄・刈安・葦などイネ(禾本)科植物をなべて左様言うようである。ススキに近似するが、ススキは比較的乾燥した土地に株立って生えるに対し、オギは肥沃な湿潤土壌に地下茎を伸ばして一杯に広がる性質がある。

<倭名類聚抄
20
>


野王案云、荻𦯠、相似而非一種矣、

<箋註倭名類聚抄
10
>

按本草図経云、爾雅謂菼為𦯠、或謂之荻、荻至秋堅成、即謂之萑、補筆談云、乱似萑菼荻也、皆以𦯠荻為一物、顧氏相似非一種之説、未,

<東雅
15
草卉>

オギ
倭名鈔に野王の説を引きて荻はオギ、与𦯠相似而非一種と註せり、本草図経の如きは菼は𦯠、似芦而小、中実、或謂之藡、即荻也、至秋堅成、乃萑スイといふ、蒹オギは似萑而細長、高数尺、其花其萌を呼ぶことは、芦も荻も相同じと見えたり、さらば𦯠とは荻の一物にして、葦とは別にこれ一物也、ヲギといひしはススキに対し云ひし所と見えて、オとは大なり、キといふは其芒ノギあるを云しとみえたり、即今俗にウミガヤなどといふ是也、蒹は即今俗にスダレアシなどいふなり。

ただし、濱荻と芦とは別物であるとの意見は
<万葉集攷証 岸本山豆流>
「長明無名抄云。万葉に伊勢の濱荻とよめるは荻にあらず、葦を彼の国には濱荻といひならはせり云々とあるより
これ長明の頃よりふと出来たる俗説なり、濱芦にまがへる濱荻は芦の如く見ゆると詠まれしにても、この大治の頃までは一物とはせざりをしるへし、されば唯浜に生たる荻を濱荻といふなり。これ浜の松を浜松といふ類なり」
の如し。 

荻・芦・葭・蒹の類は、文学的にその区別は厳格なものでなく、蘆荻ロテキ、蒹葭ケンカなる合成字まで生まれている。そこで、花穂の未だ出ていないものを蒹ケン、出穂以後のものを萑カンと区別はある。荻オギとよく似た字に萩ハギ
(マメ科)
があり、秋の初めに開花する端木ハギに対して、秋の終りの草という意味で尾木オギと云う、とはうまく纏めた珍喩である。

<詩経>
[
秦風・蒹葭]

蒹葭蒼々
白露為霜

<楚辞>
[
天開]

威播秬黍
蒲萑是営

<中唐
白居易
>
{琵琶行}

滔揚江頭夜送客
楓風荻花秋瑟々

<盛唐
杜甫
>
〔秋興ハ血首〕

請看石上藤蘿月
己映州前芦荻花

或る語源の説に、オギはその葉のそよぎに神の来迎を齎す
”神招カミオギ” であるとの事。

12-3061
あかときの
目不醒草
メザマシクサ
これをだに見つつ坐してわれを 偲ばせ

ここにある目不醒草とはオギのことらしい。オギの別名にメザマシグサ、カゼヒキクサが付けられている。

<重修本草綱目啓蒙
10
湿草>

()


オギ、オキヨシとも言ふ、古歌にはフミミグサ、ヤマシタグサ、カゼヒキグサ、トワレグサ、ネカラグサ、ノモリグサ、メザマシグサ、ツユヤグサ、ネサメクサ、カゼモチグサ、と云、水辺に生ず、陸地に移して繁殖し易し。大抵菅茅に似て、長大なり、其茎芦とは違い肉厚くして中に小孔あり、花もの如くして長大なり、初めは淡紫色後漸く白色に変ず、秋深くて苗枯れる、一名
荻子草。 

獣の尻尾に擬して、この花穂を尾花というが、ススキを中心とするススキ属
Miscanthus の特徴である。

植物

オギ

Miscanthus
sacchariflorus Maxim.

M.
hackelii Nakai.

M.
ogiformis Honda

Imperata
saccharifloria Maxim.

I
Euralioides
Miq.

国内では北海道~九州・中華国・朝鮮・ウスリーまで広く分布する。海辺や湖畔の湿地に群生し、地下茎をのばして大群落となる。ただ、一本づつ茎立ちし、ススキのように株を造るのではない。茎は太く、草丈12.5mとなり、葉は腺形で、長さ4080cm,13cm.花序は9~10月に出穂し、長さ2540cm,小穂は長さ56mm,帯褐色で披針形、禾は無いか短く、基毛は柔らかく銀白色。

ススキとオギとの違い

ススキ

オギ

生育地

主に,山野の乾燥地 土壌は痩荒

主に水辺に近い湿潤地 土壌は腐食質

地下茎・根茎

地下茎は伸びない

地下茎は長く、地中を這う。

稈の生える状態

株に近接して芽出しするので、円形の大きな株を造る。

走った地下茎の先端に芽出しして広がる。

葉身と葉鞘



葉鞘に包まれる

秋晩期は、基部の方が裸出する。

出穂

夏終頃~初秋

9~10

小穂に芒がある

小穂に芒がない

瑛毛

小穂の1~2倍
白色・黄褐色・帯紫色

小穂の2~4倍。銀白色(出穂時は帯淡紫)



名前

「語源」
イネ科の子実に長く伸びる頴エイを芒ノギというが、ノギが雄雄しく立つので、雄木となった。

「別名」
荻葭オギヨシ、寝覚草,目覚草、文見草、問草トワレグサ、風聞草カゼサキクサ、風待草カゼマチクサ、風引草、山下草,海萱、露岩草、男草、かせぎぐさ、ねからぐさ、ねながらぐさ、

「漢語」 荻、蒹ケン、萑カン

「英語」 Roseau
commue

<雅俗随筆>

笠亭仙果「今に、尾花を専らすすきと云えど、古くは群がる草をすべてすすきと称ひ、爾雅釈草に草族生曰薄の字をすすきと訓すなり

古文で、花薄とあるのは、荻の公算が強い。

古文

<蜻蛉日記
76>

あわれ今は…
ましてや秋の 風吹けば

<和泉式部日記>

しもがれは
わびしかりけり 秋風のふくには をぎのおとずれもしき

<源氏物語
乙女
>

さ夜なかに友よびわたる
雁かねにうたてそふ荻の上風

蜻蛉>

荻の葉に露吹きむすぶ秋風も 夕風も夕ぞわきて見にはしみける

末摘花>

かの空蝉…。荻の葉も、去りぬべき、風のたよりある時は、おどろかしと給ふ

野分>

おほかたに
荻の葉すぐる 風の音も うき見ひとつに しむ心地して

明石>

端の方につい居たまひて、風の験ばかりをとぶらひ給いて、つれなく立ちかへり、

篝火>

秋になりぬ。すこし雲がくる気色、荻の音もやうやう、あわれなるほどに、

<更科日記>

大井川
野山、芦荻のなかを分くるよりほかのことなくて、武蔵と相模との…。 

<後選和歌集
5-220>

いとどしく
物思う宿に 荻の葉の 秋とつげつる かぜのわびしさ

<新古今和歌集
277
>

黄昏の
野端の荻にともすれば 穂に出ぬ 秋ぞ下に事とふ

式子内親王

304
>

夕されば
萩の葉むけを吹く風に ことぞともなく 涙落ちけり

後徳大寺左大臣

305
>

朝ぼらけ
荻の上葉の露みれば やうあはださむし 秋の初風

曽禰
好忠

355
>

秋風や
ややはださむく なべに荻の上葉の音ぞかなしき

藤原
基俊

853
>

夏川の荻の古枝は
枯れにけり 群れ居し鳥は雲にやあるらし


重文

1212
>

世の常に
風の吹きよる ゆうまぐれ 荻吹く風の音ずれていく

俊恵
法師

1309
>

ふるさとは
風のすみかと なりはてて 人や葉はらふ 庭の荻原

藤原
良径

<平家物語
10-14>

さるほどに
荻の上風もやうやう身にしみ、荻の下露もいよいよ繁き、恨むる蟲の…。

<山家集
>

荻の葉を
吹き過ぎて行く 風の音に 心にだるる秋の夕暮れ

<拾遺和歌集>

荻の葉の
そよぐ音こそ秋風の 人に知らるる 初めなりけれ

<徒然草
139>

秋の草は、荻、薄、桔梗、萩、女郎花、藤袴、紫苑、吾木香、刈萱、竜胆、菊、黄菊も

<大和本草>

荻はをぎよしという。淀川、その他所々にあり、山野にも水辺にも生ず。中実也、余氏の如。小は其中とほり、葦とまじり生じ、似たるものなり。水草なり。荻の葉わたりてえ音するを、荻の声とも荻の上風ともいふ。

<和名抄20-16>

草類
荻 乎木 花薄

<字鏡
53
>


乎支

<虎明本狂言
腥者
>

落人は薄づると申すが…

<謡曲本
清経
>

垣の薄吹く風も

<類明本赤染衛門集>

なでしこの薄になりたるを見て生ひかわるこやなでしこの花薄招けば人の

<霊異紀
27>

芦遠支の隙にごときに

<俳諧>

風は秋
しぐれは槙の 板屋哉

宗祇

波の間や
小貝に混じる 荻の塵

芭蕉

荻の声
こや秋風の口うつし

芭蕉

浜荻に
よせては浪の 筆かえし

蕪村

こがらし
この頃までは 荻の風

蕪村

荻の葉に
ひらひら残る 暑さ哉

一茶

荻の葉の
折々さわる 夜舟かな

内藤鳴雪

萩の花
荻の葉添えて 月見かな

雲内幼知

<開墾>

薙ぎ入るる
若荻の葉のさやさやし 泥田の水に 青き汚れず

吉植庄亮

<草籠>

荻が花
かれて靡けるなかわけて つくづく見れば空は高しも

尾山篤二郎

川下る
舟に乗る夜の 風寒荻の葉さやぎ 月傾きぬ

正興子規

[用途]

草茎。乾燥した茎葉を、編んで日よけ風除け、屋根葺く。

禾。古代はこれを集めて袋に入れ、布団の綿にした。


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