Ad-10.
こも
薦・許母・許毛・茭・乎其母
菰;
マコモ
かつみぐさ・はなかつみ
漢名;
菰
コモ 雕胡チョウコ(実)
[万葉集記事]
02-0096水菰 |
02-0097 |
03-0239#弱菰 |
03-0256菰薦 |
04-0697刈菰 |
07-1348こも |
07-1414こも枕 |
11-2520切菰 |
11-2538こも交 |
11-2703こも |
11-2764刈こも |
11-2765刈毛 |
11-2766こも |
11-2777畳こも |
12-2995畳こも |
12-3176刈こも |
13-3255#借菰 |
13-3270#破菰 |
14-3464麻乎其母 |
14-3524麻毛其母 |
14-3524麻毛其母 |
15-3640可里許母 |
16-3825食薦 |
16-3843こも畳 |
10-4338畳こも |
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以上24箇所 #印は長歌 |
(一) |
久米禅師、石川郎女を娉ひし時の歌 |
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水薦苅 |
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みこも刈る |
注釈
久米禅師・石川郎女ともに伝不詳。郎女は娘子より格が上。
みこも=水中に生えているマコモ。
みこもかる=水薦が多く生えていることより信濃にかかる枕詞。
まゆみ=ニシキギ科の樹木で製作した丸木の弓、ときどき当詩に用いる。
うま人=貴人 身分の高い人。
さびて=淋しいと感じること、心の満たされない、
(二) |
前書 |
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薦枕 |
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こもまくら |
注釈
こもまくら=薦を束ねた枕。転じて仮寝、旅寝、一緒に寝たのにと子を悼む挽歌。
更くらく=更けることも
悲しみせめ=悲しみになってくる。
(三) |
正延心緒 |
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独寝等 |
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ひとり寝と |
註釈
ひとり寝と=〔あなたと一緒に寝ること〕がなくても
緒になるまで=綾蓆が解けて緒紐になるまで、=長く何時までも
(四) |
ものに寄せて思いを陳ぶ |
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疊推 |
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畳薦 |
註釈
畳薦=畳にする菰
幾重にも重ねることから、数にかかる枕詞。
へだて=(1)間を置いて隔てること、また其の為の仕切り
(2)日時の経過
(3)打ち解けない事
(4)区別・差別・相違
(五) |
前書;寄レ物陳レ思 |
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・・・小屋之四 |
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小屋の醜屋しこやに |
註釈
醜屋=きたない小屋
かき棄てむ・打ち折らむ=かき棄ててやりたい・へし折ってやりたい。
醜の醜手=醜い手をののしって
(六) |
前書;寄レ物陳レ思 |
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麻乎其母能 |
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真小薦まをごもの節ふの間近くて |
註釈
ま・お=ともに接頭語、女性側からの呼びかけ語。
あはなへば=合ヘないので、
沖妻=嘆きを起こす序詞。置き妻にかける。
(七) |
熊毛浦に船泊せし夜、作れる歌四首の一、 |
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美夜古辺尓 |
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都みやこべに |
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右の一首は羽栗のなり |
註釈
熊毛=山口県熊毛郡上関あたりか、
昪=礙と同音。この字はここだけに用いられている珍しい字、日本書紀にも仮名としての用例がある。
羽栗=天平宝字五年に遣唐使の一行で唐に留まった羽栗翔、或いは宝亀六年に遣唐録事で准判官になった羽栗翼のことか
(八) |
行騰、蔓菁、食薦、屋梁を詠める歌 |
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食薦敷 |
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食薦すごも敷き |
註釈
すごも=(1)簾菰;竹などで編んで作った敷物
(2)マコモの若い芽を食する。クロボ菌が寄生して肥大して柔らかくなった芽.
行騰≒騎馬競技・狩のときに足脛の保護のために獣の皮などを腰に巻きつけるもの。
屋梁=屋根を支えるために柱の下に渡す横木。
[概説]
万葉集には、コモ
薦(許母・許毛)の歌がわりと多く収録されている。古事記にも薦の字があり、これをコモと読ませているが、これが所謂コモであるか判然としない。品物を包むとか、人が座るときに、柔らかく当たるクッションのようなものをコモと称し、漢字で
薦・菰・茭・葑・蓆・蔣・蒪などの字が宛てられる。酒樽を莚で包み、それに祝い言葉などを書き、それを担いで進呈するのをコモカブリといって江戸の町人等は縁起物とした。この格好に似ているためか、襤褸布を纏っている乞食のことも菰被りという。菰の材は元来マコモという植物の茎葉を編んだところから来ているのであるが、必ずしもコモならずとも、稲藁のことが多く、それに麦藁も使われる。雨露を凌ぐ簡単な覆いした仮小屋を「菰垂」、禅僧の編笠を被る行脚坊主を「虚無僧」と隠遁生活を粋がっていうのである。
<古事記 |
命の全けむ人は畳薦 |
<風土記 |
伊和の里 |
出雲> |
瓢池・口の池 |
マコモの茎葉を乾かして、束ね編んで、敷物や風よけ用の莚・畳・簾にする。旅行に出かけるときはクルクルと巻いた菰を携え、時に応じ枕とし寝具としたので、薦枕・畳薦は旅に関する枕詞であり、更に畳は広くて和やむので大和国の枕詞になり、敷物は重ねて使うから〈重へ〉を介して平にかかる枕詞にもなった。時には敷物は乱れることもあるから、畳薦・刈薦は〈乱れる〉〈思い乱れる〉の枕にもなり、さらに敷物は暖かいことから女性を意味する詞でもある。
註として、集0675に“はなかつみ”というのがある。これを花菖蒲に比定する説もあるが、その当時日本に花菖蒲が日本にあった確証はないこと、菰のことをカツミと称することを以って、出穂したことのハナを加えてハナカツミというと推適されている。カツミは糧実カテミの約転であるとし、事実、菰米コマイ(漢語で雕胡チュウコ)と呼ぶ穀実がある。菰米はイネの祖先であるらしく、赤米と同じく外皮が赤い色をしている。海を渡った北米のインデアンの主食にしていたものでWild
riceといって、今でも感謝祭に供食される。
マコモの出芽したばかりの嫩茎は「菰菜また茭白」と称する食材であるが、美味であるからなかなか手に入らない。本当は黒穂菌が根に寄生して筍のように肥大したもので、中国・台湾では「マコモタケ茭白筍」といって高級中華料理に出品される。黒穂菌はその胞子を眉墨などの化粧品に使用されたらしいが、欧州各地では伝播した麦を食して中毒が頻発した。含有成分のエルゴトキシンは子宮収縮の作用があり、分娩時に応用される薬剤である。これとは別に、海蒪と書きコモと発する同名の食用となる海草があり、陸のコモと区別するために陸のほうをマコモとしたと。
<大言海> |
Ⅰ. Ⅱ. Ⅲ. |
<大辞林> |
(1)イネ科の植物 |
<万葉集品物解 |
賀茂馬渕翁曰く、花かつみはカツミと云ふよし、もとよいカツミは茭の一種なれば、直にコモといへるなり。 |
<古文著聞集> |
五月頃圓位上人、熊野へ参りける道の宿りに菖蒲をば葺かで、かつみを葺きたるを見て、かつみ葺く熊野詣の宿りをば菰くろめとぞいふべかりける云々 |
<量蒙抄> |
陸奥の風習にてカツミとは蔣をいふなり。昔アヤメのなかりけば、五月五日にはカツミ葺きとて蔣をふくなり |
<本草和名 |
菰根一名蔣、和名古毛乃禰 |
<倭名類聚抄 |
菰 |
<書言字考節用集 |
菰、蔣草、真薦 |
<和漢三才図会 |
本綱、菰生ニ江湖陂沢水中一、葉如ニ蒲草輩一、刈以飼レ薦、春末生ニ白茅一如レ筍、謂ニ之菰菜一、生熟皆可レ啖甜美、其中心如二少児臀一者謂ニ之菰手一、作ニ菰首一者非也、其小者擘レ之,内有ニ黒灰如レ墨者一,謂ニ之烏鬱一、人亦喰レ之、其根亦ニ如蘆根一、而相結而生、久則並浮ニ於水上一、謂ニ之菰一葑、刈ニ去其業一便可ニ耕蒔一、又名ニ葑田一、八月抽レ茎レ開レ花如葦、結ニ青子一長寸許、霜後采レ之、皮黒褐色、其中子甚白滑膩、是乃彫胡米サンコベイ也、歳飢人以当レ粮為レ餅香脆、菰之種類皆極冷、不レ可レ過二食之一 按菰葉織レ薦即称ニ古毛一、今多用ニ稲藁一織ニ単薦、又名ニ古毛一、本出ニ於菰推薦一也、又用レ葉裏レ粽。烏鬱コモノスミ用為ニ婦人黛一甚良、無レ之時用ニ茎根一焼灰亦佳、又和レ油塗ニ軟疵痕禿一者能生ニ毛髪、 |
<重修本草綱目啓蒙 |
菰 一名茭児菜、創玉 池沢中甚だ多し、春宿根より苗生ず。初め出る時筍の形をなす、これを菰筍といふ。コモの芽なり,漸く長じて葉長さニ三尺、泥菖ショウブに似て薄く,辺に刃ありて中に一縦道あり、茎に互生す、秋に至りて高さ三四尺、上に長穂を発す。又二尺許、小花多く綴りて、淡竹葉ササクサ花の如し、実を結ばず、秋中根上に筍のようなものを生ず、即菰首なり、これをコモツノ・コモフクロと云、今ガンズルと呼ぶ、老いて中に灰の如き者満つ即烏鬱なり、一名茭鬱これをマコモと云ふ、一名はタチカズラ、コモクラ、マコモズミ、婦人首の禿するに塗り、或いは油蝋に混じて黒くす。秋苗枯る、根は枯れず、甚だ繁茂し易し、一穂花後に実を結ぶものをハナカツミと云、苗葉最長なり。 |
<明良洪範 |
本田美濃守忠政領地巡視の節、上田と見える田地に蒲菰を多く繁るを見て、代官を呼び、この田は如何なればイネを作らせて、漸く真菰を作りけるやとれ尋ねければ、代官応えてこの真菰は馬具に用い候へば・・・ |
上記に掲げた解説で、マコモがカツミと呼ばれていたことがわかる。マコモはアシともよく似て、日本の沼沢地に普通に生えているが、これに雁などの水鳥を配し一幅の絵となる情景である。漢詩でも、
<盛唐・王維> |
[送友人南起] |
<南朝・梁 |
[柴騮馬] |
<北宋・蘇轍> |
[梁山泊見荷臆呉興、五絶] |
<南宋・陸游> |
[秋日郊居] |
<元・明 |
[懐帰] |
日本では千葉県の水郷と言われる潮来辺りが有名で、菖蒲と組んだ風情が謡われている。
<都都逸> |
潮来出島の |
<甚句> |
潮来出島のざんざら真菰 誰が刈るやら薄くなる。 |
古代に目的は判らないが、マコモが各地に栽培され、その奉年料が共収されていたことが<延喜式>に載っている。其処に〈凡神祇官卜竹、及諸祭諸節等所レ須箸竹柏生蔣山藍等類、亦仰ニ畿内一令レ進>とあり、即ちマコモが占いの道具に使われたことを暗示している。
九州の宇佐八幡宮で、其処の祭神、誉田別尊ホムタワケノミコトの霊魂はマコモに宿るとされており、ここで行われる行幸会と云う神事は、元明天皇(720)以来続いている。八幡宮の北東15Kmの所にある薦神社(大分県中津市)
御薦池(三角池)に生えているコモで枕を作り、神輿に乗せて宇佐八幡宮ひ運び、ご神体とする祭りである。古い枕は豊後国国前郡の奈多八幡宮から海に向って投げ入れられるが、薦枕は潮流に乗ってかならず対岸の伊予八幡宮に届くという。この辺にある宇佐八幡宮を中心とする信仰のグループは、伊勢大社の今の天皇家が伝承している神道と別系統と思われ、日本国の建設初代―神功皇后の朝鮮侵攻―の神話を探求するに特別の参考となるであろう。
植物
マコモ Zizania
latifalia Turcz. 別名
マコモグサ、カツミグサ、ハナカツミ
Hydropyrum
latifolium Griseb.
北海道、本州、四国、九州、流球、朝鮮、中国、極東シベリア、東南アジア、の池沼・河川付近の湿地帯に大群をなして生える。太い肉質の地下室が長く横に這い、基部が淡水中に沈む大形の多年草。稈は束生、中空、下方の直径0.8〜1.5cm,高さ1〜2.5mになる。葉は大部分が根生、葉身は長さ50〜100cm,巾2〜3cm.の線形、基部は細くなって葉鞘に続く。葉舌は白色膜質、高さ2cm。初秋の頃茎の頂端から長さ40〜60cmの大型のマバラな形の花穂を出す。花穂は各節から5〜6本の枝を出し、上部の枝には雌性,下方の枝には雄性の小穂をつける。雌花は先に開き1~2日おいて雄花が咲く。小穂は脱落し易く、屡小柄だけが残っている。穂は1小花からなり、苞頴は無く、護頴は5脈、内頴は3脈がある。雄性小穂は長さ8〜12mm濁赤紫色、護頴は膜質,無芒また短芒、雄蕊は6、葯は長さ6〜10mm。雌性小穂は長さ15〜25mm緑白色~淡紫色。護頴は厚く、先は長さ2〜3cmの直立した芒禾となる。種子は1cmで腺形
2n=30,34
補説:
(1)
Zizania属に所属する植物は世界に4種しかなく、その内マコモは東南アジアに生育する他、他の三種はいずれも北米に存在する。Z.
aquatica L.; Z. palustris L. の実はワィルドライスwild
riceといって、古くからインデアンが常食していたのであるが、最近の食料事情から急に注目され始めた。寒帯で収穫でき、味も宜しい。ただ、完熟する直前に子実が穂から脱落してしまう問題がある。インデアンは小舟の中にシ-トを敷き、コモの穂を舟内に手繰り寄せて棒で穂を叩き収穫しているが、不能率であるので、遺伝子操作による改良研究が行なわれている。
日本でも、東北でコモマイなるものが伝えられている
<採薬使記
中奥州>
照任曰、奥州マクナイという所より菰米を発す。即
米、その形燕麦カラスムギの如し、又紀州熊野本宮にても菰米あり、他の所のコモに米穂をを生ることなし。
(2)
マコモの若芽を菰角といって食用にするが、これにクロボ菌が寄生すると伸長せずに柔らかくなり高級中華料理の食材である、茭白筍チャオパイスン
であって、この栽培には特殊の技法があるらしい。味はイモの如く美味なると。
(3)
クロボ菌は竹・麦などにも着く麦角菌に似て、黒い細かい胞子を噴出する。この胞子は粘り衣類などに付着するとなかなか取れない。化粧品の黛に応用がある。
名前
[語源]
禾裳 ケモ
[古名]
コモ;菰・薦・許母・許母・居・蔣・茭
[別名]
真菰草・薦草・勝見草・且見草・花勝見・伏柴・淀伏柴ヨドノフシシバ・粽草チマキグサ・筺草カタミソウ・筺屮カタミソウ
[漢語]
菰・白脚筍・交筍・茭草・茭筺・
菰クウ・茭笋チャオスウン
[学名]
Zizania, Canadian rice, Water oat, Wild rice,
古文
<枕草子 |
草は菖蒲。菰。葵。いとおかし |
|
110> |
卯月のつごもり方に、初瀬に詣でて、淀の渡りといふものをせしかば、舟に車をかき据えていくに、菖蒲・菰などの末短く見えしを取らせたれば、いと長かりけり。菰積みたる舟のありくこそ、いみじゅうをかしかりしか |
|
<蜻蛉物語 |
そこさへかるといふなる 真菰草いかなる沢にねをとどむらむ 真菰草かるとは淀の沢なれやねをとどむてふ沢はそこか |
|
<古今和歌集 |
みしま江の入江の真菰 |
|
3-231> |
さみだれは |
|
14-677> |
陸奥ミチノクの安積アサカの沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたらん |
|
12-587> |
まこもかる淀の渡りさわらみず |
|
10-946> |
磯馴れてこころも解けぬ |
|
<千載和歌集 |
ときしもあれみつのも菰を |
藤原清輔 |
<後拾遺和歌集 |
五月雨はそつのみまきの真菰草 |
相模 |
<新古今和歌集 |
五月雨はをのふの河原のまこも草 |
藤原定家 |
恋 |
山城の淀のわか菰刈りにきて |
源 |
|
三島江の入江のまこも雨ふればいとも萎れて刈る人もなし |
大納言経信 |
<夫木和歌集 |
みしま江の玉江のまこも |
相模 |
|
山がつの |
藤原為家 |
|
刈り遺すみつのまこもに |
西行 |
<倭訓栞> |
まこも |
|
<蘇頌図卿 |
水中に生ず、葉、蒲草の輩の如し、刈りて馬に秣、甚だ肥ゆ。春の末、白芽を生ず。筍の如し。即、菰菜也。八月花の開く葦の如し、子を結ぶ。粟に合し粥として喰う。 |
|
<公任卿集> |
玉津島にまうでむとてあるに、あひの松原よりゆけば、まこもぐさ生ゑけり。さはにこまある |
|
<毛吹草3> |
山城 |
<俳句> |
水深く |
蕪村 |
|
青菰の |
一茶 |
|
真菰中 |
虚子 |
|
夕焼けの |
万太郎 |
|
真菰かげ |
素十 |
|
真菰刈る |
水原秋櫻子 |
用途
[茎・葉]
編んで莚を作る。菰莚は敷物などに用いる。裏を絹で裏打ちしたものは神事で用いる
家畜の飼料
若芽(角菰)は食用
菰の芽が黒穂菌Ustilago
esculenta Henn によって肥大化したものを
交白筍と称し高級食材である。.
[子実]
菰米:食用にする。味は良しとのこと。
[根]
根を日蔭干したものを”菰根”といい、漢方で利尿剤とする。