
Ab-10 ゑにす・ゑんじゅ
槐樹 カイジュ エンジュ
延寿・恵邇須・玉樹
楷樹・
{偽}針槐樹(ハリエンジュ)
【万葉集記事】
槐は文/歌にない。09-1715に作者の苗字として載っている。訓:ツキモト
(一) 09-1715 |
槐本謌一首 楽浪之 平山風之 海吹者 釣為海人之 袂變所見 楽浪さきなみの 比良山風の海吹かば 釣りする海女の 袖かへる見ゆ |
注釈
楽浪=琵琶湖の中南の沿岸の古名。楽は神楽からきた詞で、これをササと訓するのは、割り竹で拍子を採りながら、サッサと声を掛けながら舞うことによる。比良山=滋賀県滋賀郡の北を走る山、
【概説】
首掲の「槐本エノモト」は集の前後関係からみて人名の苗字であることに間違いない。この名は、井上通泰[万葉集新考(1915~1927)]には柿本人麻呂の氏としているが、これを他に「槻本ツキノモト」とした文献もある。
槐の字は日本書紀・続日本書紀・正倉院文書にも見え、音でキ、訓をケヤキと発しこれに充てる樹は欅ケヤキであるが、槐キと音が同じことから混同していると思われる。
ところで、槐は植物の名であるが、どのように読むのか?<和名類聚抄(913~938)>に恵尓須エニス、<本草和名>に槐実を恵乃美と読んでいる。<伊呂波字類抄>はヱンス、室町時代の<和玉篇>や<節用集>はエンシユ、江戸時代になってエンジュとなった。また槐を櫬という難しい字をあてている本もある。最近の本では新訓万葉集 岩波(1927年)ヱノモト、 万葉集辞典 学灯社(1994年)ツキノモトとなっている。
漢語で槐樹をカイジュと発音するが、これは音が同じの 楷樹 にも間違えられることがある。これは紅葉の素晴らしいウルシ科のランシンボクPistacia sinensisであり、曲阜の孔子廟にあるものは孔子自らが手植えしたものと伝えられ、これを模倣して日本の孔子廟に植えられている。
エンジュは中国の原産であり、日本には仏教の伝来のころ渡来したと云われているが、一方この字は<風土記)にも見えるから、日本には古くから生えていたとする説もある。この件は<和名抄>に説明のある如く、日本原産の槐はイヌエンジュであるとすれば混雑は片付く。イヌエンジュは北海道・東北の原野に自生して叢林を造っている。
槐を<大漢和辞典 大修館書店>で繰って調べてみると
(a) 樹の名 えんじゅ(まめ科)
<説文> 槐木也従レ木鬼声 注;<正字通>槐之言、懐也懐ニ来る人於此一、故ニ与レ此詞
<春秋之命苞>樹レ槐聴二松其下一、注槐言帰レ実也
槐花 <隋書 五行志 下> 後斉武平元年 槐花而下レ結レ実、槐三公之位也、花而不レ実 萎落之像
(b) 草の名 にわとこの異名、続断の異名
<通志> 曰二龍立一、曰二属折一曰二接骨一、曰二南草一、曰二龍豆一、曰二馬薊一、
(c) 三公の位 周は朝廷に槐樹を植え公の官の座位を定めたによる。
<梁書>方参ニ任公槐一、式降ニ朝寄一
(d) 姓<通志)氏族 以レ宇為レ氏
(e)本邦ではサイカチ 羽後の国の地名
槐の字を、現代においてはマメ科のエンジュに充てている。この字は古文にあり、例えば、用命天皇のことを,<法華八講縁起>に双槐天皇と記している。音はカイ、訓はエンジュまたエンス、エンジュである。この木は、中華国の古代 周 において太師・太伝・太保の三位をして三本の槐を植え、天子に向かって三公とその左右に九卿が並んで国事を決めた故事から、槐は高官の象徴とされ、三公の事を槐門、次ぎの高位の候補を槐位と呼んだ。中華国では街路樹としてよく槐が植えられており、その道路は春になると花が満開になり、この街を槐街といっている。
<五雑俎 巻十> |
槐は虚星の精昼合って夜開く、故其の字鬼に従う。然るに周礼の外朝の法三槐に面して三公の位を為す、王荊公が解に槐は中を黄にして其の美を懐く、故に三公に位す。呉草盧が注に云う。槐は懐なり、以て遠人を懐くべきなり。春秋元命包みに云く、槐の言は帰なり、古は槐を樹て訟ををその下に聴く、情を実に帰らしむるなり、 |
インドで仏教五木(アショカノキ・ボイダオジュ・サラノキ・マンゴウ・エンジュ)にその名を連ねる。そして仏教の伝来と共に、槐は中華国を通じて日本へ伝来したという。ただし 日本で周知のエンジュと異なるようである。
日本の古典で、源実朝の編纂になる「金槐和歌集」がある。この名は、鎌倉の篇をとり、槐は”面二三槐一三公位覃”から採られた、即ち、鎌倉右大臣(=槐)歌集を意味する。
源実朝は鎌倉幕府で征夷大将軍に着任したのは、12歳の時であり、父頼朝は既に無く、その跡を継いだ兄の頼家は伊豆の修善寺に幽閉された後殺害され、鎌倉幕府の実権はもはら母方の北条家にあった。血腥い陰謀と対立が渦巻いている環境にあって、実朝は武士というより、蹴鞠や和歌など公家の文化を好み,14歳のとき歌を詠んでから、独学で和歌の勉強をし、18歳の時藤原定家に自薦の歌30首を添えて教えを請うた。このとき定家から歌倫書とともに、家伝の万葉集を贈ったとされ、それより頼朝は万葉の歌調に影響される。承久元年(1219)正月27日、鶴岡八幡宮へ右大臣就任の拝賀に赴き、式典を終えて退出の途中、甥の公暁によって暗殺された。凶年28歳。
本和歌集には(a)定家所伝本・(b)群書類従本・(c)貞亨本の3系統がある。(a)は諸本の原本と見なされており、建保元年(1213)12月18日の奥付があり、実朝22歳までの歌集で、歌数663首収載。この本の一部は昭和4年(1929)に神田の古本屋で偶然発見され、話題を提供した。(b)は<群書類従>の巻232に載っているもので歌数653首が載る。(c) 貞亨本は柳村亜槐なる人物によって改編され、貞亨4年(1687)京都で刊行された。これは定家所伝本に、新しく53首を含み、719首からなっている。
*エンジュ Sophora japonica L. (Styphnolobium japonicum L.)
日本への伝来は仏教の伝来と共に中国から伝えられたとされ、神社・仏閣の敷地に植えられて、各地に伝話が残っている。<京都民俗誌>によれば、醍醐天皇は雷が大嫌いだったので、この意を受けた空海は加茂川東岸に槐を植えて、雷神をその方に誘願した。そのときの槐が今も加茂川東堤に数本残っており、その一本は耳塚通五条下三丁目蛭子町に槐大明神の石碑が立っている。もう一つは大国町の松原下にある、稲荷社に、玉垣を廻らしてある。<勢陽五鈴遺響>には、伊勢国飯南郡波瀬村船戸に属邑に鬼木あり、ここに茶屋休所を作るのにこの巨木を倒し、その材をで以って建てた。鬼木は槐ノ木を裂いた字である。
*ハリエンジュ Robinia psoudo-scacia Linn
アメリカから明治時代に輸入され、各地に植えられたのが野生化している。棘は托葉の変化したものであり、鋭くてこの林では歩行も困難なほどである。この変種トゲナシアカシアvar.inermi D.C. は大正時代に輸入された。本樹は根張が浅いためか、台風で倒れたり、空襲で焼けたりして街路樹としては続かなかったけれども、その幾らかは九段下~飯田橋に残っている。
*イヌエンジュ Maackia amurensis Rupr.et Maxim. subsp. Buergeri Kitamura
北海道~本州(東北・関東・北陸)の山野に生える。同属でハネミイヌエンジュM.floribunda Takeda は 本州(愛知・福井以西)・四国・九州・台湾・中国南部に生える。シマエンジュ M.Tashiroi Yatabe は更に南の方、本州(和歌山以南)・九州・四国・琉球~熱帯の海岸地帯に分布する。日本の古典<和名抄>などに上掲の槐はこのイヌエンジュであろうと思われる。
以上の名前の似た3種の樹木は、属も違い、異なったものであるが、屡々混同する。
|
エンジュ |
ハリエンジュ |
イヌエンジュ |
樹形 |
枝の拡張少ない |
拡張大、樹形乱れる |
拡張大 |
樹皮 |
縦裂。剥離、やや白み |
縦裂。黒味強い |
横裂。薄利性、やや黒い |
小葉 |
6~7対 |
5~9対 |
4~5対 |
棘 |
ほとんど無い |
トゲに変った托葉が目だつ |
少ない |
花序 |
円錐花序 直立 |
円錐花序 垂れ下がる |
複円錐花序 直立 |
花 |
淡黄白色 長さ12~15mm |
純白色 長さ20~25mm |
淡黄白色 長さ10~12mm |
果実 |
肉質 数玉状 |
扁平で乾質 |
いびつな広腺形で乾質 |
古い時代の中華国で、槐樹は非常に重んじられた樹であるところから、中国では庭先に3本の株を植えれば瑞祥があり富貴栄達に近付くとされ、とくにシダレエンジュSophora japonica f. pendulaを龍爪樹といって珍貴とされる。槐という字は木篇に鬼と書き、恐ろしいイメージが沸き、これがたまたま棘の着生するハリエンジュ(刺槐.ニセアカシア) Robinia pseudo-acaciaと混同される理由と思われる。ニセアカシアは明治初期(10年)に渡来した帰化樹である。そして、槐樹と同じ韻音の楷樹カイジュがあり、これはウルシ科・ラシンボク属の羅朴木Pistacia sinensisである。中華国山東省曲阜の孔子廟に弟子の子貢が手植したと伝えられる古木があり、わが国の孔子廟でも必ずと言ってよいほど、楷樹が植えてあって秋の紅葉が素晴らしい。槐樹は黄色に紅葉する。
日本では槐樹に対し左程親しみはないが、中華国では槐を身近に接しているようで、例えば清朝人の書を編集した朱記栄編の<槐蘆叢書(全89冊)>がある。宮廷の広場によく槐樹を植えられていたので、”槐庭”とは朝廷のことであり、”槐市”とは漢代に長安城の東、常満倉の北にあった市場の名前で、ここに街路樹に槐樹が連ねトンネルであったという。“槐鼎”とは大臣の地位。”槐秋”” 槐黄”とは槐の黄ばんだ花が咲く季節即ち7月頃を指す。を題材とする幻想小説「南柯記」(唐の李公佐著)の概要を紹介しよう。
主人公淳于芬が槐樹の下に臥し微睡していると、蟻が頭の辺りを巡り耳に口寄せて「私と一緒に槐安国へ行きませんか」と囁く。淳于芬は地下の槐安国へ下るが、そこは豪奢な家具がシャンデリアで光輝いていた。やがて、国王に謁見し、喩えようもない美味なご馳走の並ぶ夕食会を共にする。国王はいま槐安国はクロアリ軍団に攻められて苦戦中ということを話し、淳于芬の応援を請う。そこで、淳于芬は直ちに出陣し、クロアリ軍団を蹴散らし大勝を収める。淳于芬は国王の絶大の信頼を受け、栄華を極め、皇女と結婚し幸せに暮らすことになるが、側近の大臣の悪策に嵌められ、槐安国を追い出される。夢が醒め、気がつくと老槐樹の根本に蟻の穴があり、忙しく蟻が出入りしていた。これより夢の話を槐安夢という。
そして、エンジュの葉の緑を美しいとして、詩に読まれ、また葉は食用・茶・薬用の用途もある。花も実も食用にする。花は季節のものとして、テンプラなどにして供されるが、微に甘みあり仄かに香りがあり、なかなか乙なものである、が大量に食すると、腹の調子を狂わす。
<沈佺期> |
緑槐葉開而復合 紅塵者聚而復散。 |
<白楽天> |
槐花潤レ雨新秋地 桐葉翻レ風夜欲レ天 昼日後庁一事無 白頭老眠三枕二漢書一 |
<宋 謝恵連> |
白露滋園菊 秋風落庭槐 |
<中唐 楊凝> |
明朝騎馬揺鞭去 秋風槐花子午関 |
<南宋 范成大> |
永日屋頭槐影暗 微風扇裏麦花香 |
<清 厲鶚> |
黒驚燕子翻堦影 涼受槐花灑地風 |
槐はまた墓樹を著す。鬼とは田人を象る。田とは原野のことであり、中華国では夫が死んだとき、棺桶を原野に置き土に埋めない。これを葬という。後に婦が死んだとき初めて相共に埋める。これを斂葬という。死体が原野に置かれた状態を鬼と云うのであって、鬼を死人の镸魂と認め、镸魂に添える樹が槐である。
また槐の開花する陰暦7月頃、科挙の試験あるので、受験者は多いに忙しい、故に、このことを[槐花黄挙子忙]という。
春秋の頃、晋の力士 俎鹿児は、君霊公の命を受けて 趙盾を殺そうとするが、趙盾の厳粛な態度に俎鹿児は打たれ、庭の槐樹に触れて死んだとの、[触槐]という古諺。
斉の景公は殊のほか槐樹を愛し、これを傷つける者あれば、死刑に処した。[犯槐刑]<海録砕事>
日本の槐に関する逸話は、<愚管抄>に神功皇后の話がある。神功皇后は第14代仲哀天皇の皇后であるが、実際のところ不詳な人物であって、記紀によれば熊襲征伐中に天皇が急死し、以後建内宿禰とともに懐妊のまま新羅遠征に出かけた。凱旋後、宇実神社にて槐の枝に取り縋って、応神天皇を出産した。此の古事に因んで、<子母秘録>に槐の東方の枝を産婦に握らせ、槐実を7粒飲ませる、の安産の呪いマジナイが書いてある。
【植物】
① エンジュ Sophora japonica L. マメ科 クララ属 (Styphnolobium japonicum Schott.)
キフヂ・カタクミ・ヱニス・ヱンジ・エンジノキ・ヱンジコエンジュ・クロエンジュ・ホンエンジュ・アカエンジュ・シロエンジュ・クロエンジュ・ヤマセンダンコヤスノキ
朝鮮 ホイホアナム・ケ-ホアナム・ファナム
漢字 槐・櫰・槐竜・鬼木・槐花樹・檜木・橡・音声樹・珠木・不平生・錦心氏・屯雲・
中華国原産、古代に日本に渡来。本州・四国・九洲に、公園樹、街路樹、記念樹として植栽されている。落葉広葉樹で内樹皮は特殊の香りあり。高さ10~15m,幹周1.5mになる高木。はは互生有柄、奇数羽状複葉で、小葉は9~15枚、表面深緑色、裏面は帯白緑色。花は7月頃咲き、頂生円錐花序に着き、単花は黄白色の胡蝶花。竜骨弁・旗弁長さ10mm,雄蕊10本、離生。雌蕊は花柱が少し内曲し柱頭は小さい。豆果の莢は長さ4~7cmで、豆実を1~3個、数珠状にくびれて着き肉質の液果で落下し地表を汚す。果皮は苦い。種子は10~11月熟し、卵形。
補説
1. 樹形は正しく、下葉が枯れ上がらないので、街路樹に適する。若枝は緑色で、花期まで短毛が残る。
2. 花の旗弁は大きく,先が少し窪み、強く反り返っている。旗弁・龍骨弁の縁に密腺があって、密を粒のように着けている
3. 豆莢はややの肉質で、内に水分を含む。完熟しても乾枯せず、粘液として残る。未熟完熟とも、莢に水を加えて揉みだし、洗濯用の石鹸の代用にする。サポニン類を含み、溶血作用があり、魚毒である。。
② ハリエンジュ Robinia Pseudo-acacia Linn 別名:ニセアカシア
北米原産の落葉高木、高さ15mに達する。托葉はしばしば棘状になり、強固で1.5cmに達する。花は5月、本年の枝の葉脇に、総状花序を垂れ下がって着ける。花柄7~8mm,花軸は長さ9 ~13mm,花冠は白色(旗弁の基部に黄斑がある)。莢果は線形~鎌形、扁平、長さ5~10cm褐色。種子は腎形5~6mm黒褐色。
補説
1. 棘には管束が1本あって、上部に帥管、下部に導管がある。
2. 冬芽は葉柄の中にできる(葉柄内芽).冬芽は黒褐色の細毛に覆われ花芽・葉芽の区別の無い混合芽である、
3. 旗弁と竜骨弁の間に2個の蜜線がある。この蜜はくせがなく、蜂蜜は上質なものが取れる。
4. 街路樹のみならず、飼料としても重要である。
5. 日本には、チントウトゲナシ、エイコクトゲナシの棘なし種も輸入されている、
③ イヌエンジュ Maakia amurensis Rupr.et.Maxim 別名:オオエンジュ
亜種のvar.Buergeri C.K.Schneidは北海道・本州(北部)の山野に自生し、高さ15mほどになる落葉樹。若枝には密な白毛がある。葉は奇数羽状複葉で、長さ20~30cm、小葉は3~5対あり、3~6cmmの卵型で先はやや尖る。7~8月新条枝先に複総状花序を出し、黄白色の1cm位の蝶形花が咲く。10本の雄蕊は下部で合体する。豆莢果は5~9cmで平たく楕円形~広腺形、帯褐緑色、3~6個の種子が入る。種子は褐色。
補説
1. 日本の古典にあるエンジュは、本種であろう。日本抄にチョウナの柄にすると書かれているが、実際遺跡から発掘された鉈に柄にイヌエンジュガ使われていた。
2. 内樹皮には特臭がある。
3. 辺材は黄白色、心材は濃褐色で、建材、器具材に用いられる。折れ難く髷易い。
【名前】
槐・ゑんじゅ・ゑにす・ゑにすのき・ゑす・ゑすのき・ゑむす・延寿・恵邇須・恵爾須・恵須・櫰
別名 玉樹・小槐・槻欅・堅木・黄藤・苦木・かたくみ・くぜまめ・
槐子の呉音が「エス」からあら古名エニスに転じ、さらに訛ってエンジュになった。
英語 Japan Pagoda Tree. Chinese Schola Tree;
独語 Japanischer Schnurbaum;
仏語 Sophor du Japon
学名の語源; Sophora;マメ科クララの属のアラビア語の名前である。此の内木本性のものをNewzealannd Laburnum, Pagoda treeという。
【古典】
<和漢三才図会 83 喬木> |
槐 恵爾須 槐黄中懐一其美二故三公位レ之、倭三公者左大臣右大臣内大臣也 |
<重修本草綱目啓蒙 24 喬木> |
槐 エニス、キフジ、エンジュ、ヱンジ、コエンジュ。一名鬼木、良木、錦心士、声音木、繍腹部、槐龍、屯雲、緑掘、玉樹、以下略 |
<本草一家言二> |
槐 和名恵牟慈由、黒槐 和名犬恵牟慈由 |
<地錦抄 > |
槐 大ゑんじゅは葉あらし、小ゑんじゅは葉こまやかに、木目よく黒し、夏樹冬落葉 |
<佐渡志 5 > |
この国に産するところはカワラエンジュなり。又、山中自生にカマズモあり、莢蓬也。秋月実を結ぶ。南天燭の実より大に観る。山家の小児熟するを待ちて採食す。 |
<古事記 允恭> |
隠国の・・思い妻あれば槻弓の 臥やりも梓弓 起てりも 後も取り見る 思い妻あわれ |
< 雄略> |
また天皇 長谷の百枝槻の下に座しまして、豊楽したまひし時、伊勢国の三重采女 |
<日本書紀 神功) |
代二新羅一之明年菟区二末利椰一 |
皇極> |
偶中大兄の法興寺の槻の樹の下に打毬うる侶に預りて、皮鞋の毬の隋脱げ落つるを |
高徳> |
乙卯に天皇・皇祖母尊・皇太子・大槻の樹の下に、群臣を召し集めて |
天武上> |
飛鳥寺の西の槻の下に逮るに, 人ありて曰く、馬より下ね、といふ。ときに百足 |
<出雲風土記(意宇・島根・秋鹿郡)> |
およそもろもろの山野にあるところの草木は・・槻・・ |
<常陸風土記(行方郡)> |
麻生の里 その里をとり巻いて 山がある。椎・栗・芋・槻・椚が生え・・ |
<倭名類聚抄 20 木) |
槐 爾雅集注云葉小而青白レ槐(音廻、和名恵爾須)葉大而黒白櫰、葉昼合夜開、所 謂守宮槐 <箋注 按釈文二音並有一、然拠二広韵一、音奈懐字別義、則釈文載二二音一恐非是、中略 釈本、懐槐大葉而黒槐 昼聶合而夜炕布者,名為二守槐一字句少異此所 引蓋旧注也、芸文類聚引二荘子一云、槐之生也人二季春一、五月而兎目、十日鼠耳) |
<伊呂波字類抄 恵> |
槐えんす槐 |
<和漢朗詠集> |
陰森たる古柳疎槐樹 春にして春の色なし、穫落たる危牖壊宇、秋にして秋の・・笏 |
<字鏡 50> |
槻 豆木 |
<新古今和歌集 藤原定家> |
けふ見れば弓切る程になりにけり 植ゑし岡辺の槻のかた枝 |
<謡曲集 金札> |
車を作る椎の木。船を作る柳楊 木の間になさん槻の木 それは秋立つ桐の木 |
<俳諧> |
轅たてて 塵芥車 郡槻芽ぶく |
波椰 |
|
ぬばたまの 夜の高槻や 芽ふくなり |
選子 |
|
花槐 ゲーテの家の 時計なる |
岩淵喜代子 |
|
寿を守る 槐の木あり 花咲きぬ |
高浜虚子 |
|
葉隠れの 星に風湧く槐かな |
杉田久女 |
|
アカシアに哀勹駆る初夏の港道 |
飯田蛇笏 |
【古木】
中華国の泰山の麓,泰廟の敷地に、唐槐と名着けられた樹齢千年の老樹があった。1940年頃、老樹は倒臥して辛うじて余命ありという情況であったから、もう枯死していると思われるが、エンジュは寿命の長い樹木といえよう。日本にある古木は、①神奈川県足柄上郡中井町雑色の子ノ神社境内に、比叡山の僧義円が植えたと伝説の「中井のエンジュ」。推定樹齢800年、幹まわり8m、樹高16m ②福岡県粕屋郡宇美村宇美八幡境内の「子安の木」は樹高9m、幹周り2m,神功皇后に因縁し、安産のお守りで有名。③和歌山県有田郡田栖村国津神社境内のものもは推定樹齢800年 幹周り3m,樹高15m
【用途】
{樹木} 庭園樹、街路樹として植樹。
{用材} 高級家具、鏡台、机、細工物、床柱、床框、太鼓の胴、餅つきの臼、車両材
{染料} 花から黄色、樹脂から褐色の染め物
{薬用} 槐花SOPHORAE FLOS エンジュの花を乾燥したもの、止血・消炎・強心・利尿の目的に用いる。
成分:フラバノール配糖体(rutin)、kaempherol,sophorside,genistein配糖体
ルチンはソバにも多く含まれる成分で血管壁を強くし、脳血管破裂を予防するとの盲信があり、戦前はドイツへ輸出されていた。しかしこの効果は疑問とされ、日本薬局方の収載は第9版をもって1989年から廃止された。
|
|
rutin |
sophoradiol |
木本の形態をとるマメ科植物
ネムノキ亜科 Sabfam,Mimosoideae |
ネムノキ連Trib.Ingeae |
ネムノキ属Albizia |
アカハダノキ属Archidendron |
||
オジギソウ連Trib.Mimoseae |
モダマ属Entada |
|
キンコウガン属Leucaena |
||
ジャケツイバラ亜科 Sabfam.Caesalpiodace |
ハナズオウ連Trib.Cereideae |
ハナズオウ属Cercis |
ハカマズラ属Banhinia |
||
カワラケツメイ連Trib.Casiene |
カワラケツメイ属Cassia 草本 |
|
タシロマメ連Trib.Detarieae |
タシロマメ属Intsia |
|
ジャケツイバラ連Trib.Caeslpiniae |
サイカチ属Gieditsia |
|
ジャケツイバラ属Casalpinia |
||
マメ亜科 Sabfam,Papilioide |
クララ連Trib.Sophora |
クララ属Sophora |
イヌエンジュ属Maackia |
||
フジキ属Cladrastis |
||
ミヤマトベラ連Trib,Euchrestiae |
ミヤマトベラ属Euchresta |
|
クズ連 |
クズ属Pueraria |
|
トウアズキ連Trib,Abreae |
トウアズキ属Abrus |
|
コマツナギ連Indigofererae |
コマツナギ属Indigofera |
|
ツルサイカチ連Dalbergieae |
シタン属Pterocarpis |
|
ツルサイカチ属Dalbergia |
||
ハリエンジュ属Robinia |
||
フジ連Trib,Tephrosieae |
ドクフジ属Derris |
|
ナツフジ属Milletia |
||
クロヨナ属Pongamia |
||
フジ属Wisteria |
||
インゲンマメ連Trib,Phaseolose |
エノキマメ属Fleminpia |
|
デイコ属Erythrine |
||
トビカズラ属Mucuna |
||
ハマセンナ属Ormcarpuns |
||
ヌスビトハギ連Trib,Desmodieae |
キンチャクマメ属Pycnospora |
|
ハギ属Lespedeza |
||
ヌスビトハギ属Desmodium |
||
フジボグサ属Uraris |
||
ナハキハギ属Dendrobobium |
||
ウチワツナギゾク属Phyllodiu |
||
タデハギ属Tadelagi |
マメ科Leguminosaeはca650属18,000種からなる大きな科である。各地に生育するため変化に富む形態をとるが、環境のよい地域では木本となるものも少なくない。蔓性のものであって、後年木質化するものもある。