Ac-05. さねかずら

Ac-05. さねかづら・狭根葛・核葛

サネ()カヅラ・ビナンカヅラ・ゴミカズラ

漢語: 狭根葛・狭名葛・美男蔓・美女蔓・真玉葛・五味藤・山黄蓮

【万葉集記載】

02-0207 *

11-2479


*印 長歌




02-0094

10-2296

12-3-70

12-3073 b

13-3280 *a1

13-3281 *a1

13-3288 *a2

注記;

*は、さなかずら

a1 は、和名抄に依れば「五味」 

a2 は、新選字鏡に依れば「木防已」 

() 02-0207

柿本人麻呂、妻死りし後、流血哀動して作る歌

天飛也…人目乎多見 真根久往者 人応知見 狭根葛 後毛将相等 大船之 思憑而…

あま飛ぶや…人目を多み数多まねく行かば 人知りぬべみ 狭根葛さねかずら 後に逢はむと…

註釈

天飛ぶや=軽に懸かる枕詞、 

人目多み=人の目が多いので、 

数多く行く=屡々行く、 

狭根葛=逢う荷かかる枕

(二〉 11-02479

物陳謝思

核葛 後相 夢耳 愛日度 年経乍

さね葛 後も逢うやと 夢いめのみに 祈誓うけひわたりて 年は経につつ

註釈

祈誓=髪に祈る事であるが、多分に占的に使われる。

() 02-0094

内大臣藤原卿、鏡王女に報へ告贈れる歌

玉筵 将見円圓山乃 狭名葛 佐不寝者逐尓 有勝麻之自

玉くしげ 見む円圓山のさなかづら 寝ずは遂にありかつましじ

註釈

見む円圓山=三室山のこと、or三輪山の事、神を祭ってある山。

サナカズラ=和名抄によれば五味をいう。別説によればアケビをあげるあり、ビナンカズラとせるあり、諸説。

有りかつ=ありは其の儘、かつは耐える。

まくじ=否定・推量の助動詞。

() 10-2296

秋相聞 黄葉によせる

足引乃 山佐奈葛 黄変及 妹逃不相哉 吾恋将居

あしひきの 山さな葛 樅妻で 妹にあはずや わが恋しき

註釈

山さな葛=びなんかずら(南五味子)、此処では紅葉の美しいツタカズラとする説もある。

() 12-3073

寄物陳思 或る本の歌に曰く、来むとしらせし君をし待たしむ。また柿本朝臣人麻呂の歌集に見えたり。然れども、落句少しく異ならくのみ。

木綿裏 白月山之 佐奈葛 後毛必 将相等曾念

木綿裏ゆふつづみしろつきやまの さな葛 のちも必ず逢んとぞ思う

註釈

3070 木綿畳 田上山のさな葛 ありさりて市も 今ならずも

3071 丹波道の大江の山のまたまづら 絶えむの心わが思はなしに 

    3072 大崎の有磯の波はふ葛の行方も鳴く 恋らたりなし

と続いてかつらの歌があり、従ってここの葛はクズの可能性が高い。 

木綿裏=白いに懸かる枕詞。

大崎=和歌山県海草郡下津町大崎  

白月山=不詳  

() 13-3281

ある本に曰く

吾背子者 待跡不来・・今更 君来目八 佐奈葛 後将会常 大舟乃 思憑跡

わか背子は 待てど来まさず・・・今さらに 君来まさめや さな葛 後に逢はむと 大舟乃 思い他の布良 現うつつに夢にだに 逢ふと見えこそ

註釈

さな葛=後に逢うの枕詞

{概説}

集には「サナカズラ」と「サネカズラ」があって、両者は同一物か別物か意見が別れるところであるが、本著では同一として、即ちマツブサ科SchizandraceaeのサネカズラKadsura japonica Dunal を推す。

注)マツブサ科はモクレン科Manaliaceae)から独立した新しい分類法による。

万葉集では、サネカズラと書いてあるものは、冒頭の()では狭根葛の一箇所だけであり、サナカズラと書いてあるのが8首ある。”サネ”→”サナ”の転訛はよくあることで、昔古はサナカズラといったらしい。

サネカズラはこの蔓を切ると、ヌルヌルした分泌液が出て、それを髪に塗って整えたのでビンツケカズラ、ビナンカズラともいう。

抑々、「サネ」とは、指で触って粒核としての感ずるものを言う。植物では、果物で種子のことであるが、それより果物の内で、食うときに邪魔になる種の多い蔓性のアケビ・ブドウなどをサネカズラと云うこともある。或いはまた、瓜の類で中心の種を囲むベトベトとした部分を「サナ」と云うから、瓜実のサナゴの略であるとの別義がある。

根と奈の解釈は多様である。「サ」は真を内因する発語として、それを滑らかな汁のある葛「ヌカズラ」に付加したと。或いは「サネ」は真()の美称であり”マカズラ”の意味であると。或いは地を這い根が浮き立つ「ネカズラ」の趣意であるという等々。

次によく混同されるものにゴミシ(マツブサ)がある。五味子は中国ではその果実が甘酸辛苦鹹の五味があり薬用にされるのであるが、南ゴミシ・北ゴミシ・朝鮮ゴミシと数種有り、これをサネカズラが原植物とする説がある。古今集では「やまかつの 垣穂に生える青つづら たつねくれとも 逢ふよしもなし」のアオツヅラをもさねかずらであるという人がいる。百人一首の「名にしおはば 逢坂山のさねかづら 人に知られてくるよしもかな」の歌のサネカズラはセキダカヅラであると松岡恕庵はその著譫々言で述べているが、牧野博士はそれは誤りであると指摘している。古文学に表現される枕詞は、(1)蔓性植物が長く伸びることから”長い””遠い”に、(2)また一旦分岐し別れても末に再び絡み合う事から”逢う””絶えず”に、(3)蔓を手繰ることから”繰る””来る”に,(4)<さ寝>から”寝る”に、夫々懸かる。中世以降は用いられなくなった。サネカズラはビナンカズラ・カギカズラ・サンネンカズラ・トロロカズラ・マメヅタetc多くの別名を持ち、古文によっては クズ・ツタ・カミエビ・ツズラフジを充てて可とする場面もあり、その混同が見られる。

さて、サナカヅラとサネカズラとは、同物であるとする証述は次の如し。

<大言海>

ねかずら 名詞「サは発音、ナは滑ナメのナ、滑葛ナメリカズラの意(古事起伝)ナメリ多きものなり。サネカズラといふは、音転なり。」 草の名。サネカズラは専ら美男葛といふ。五味

<古事記 中 応神76>

舂二佐那葛之楻、取其汁滑、而塗船中之簀椅子、設蹈應

<本草和名 25> <倭名抄>

五味 佐禰加都良

<後選集 113>

女の許につかわしけるに「名にし負はば、逢坂山のさねかずら、人に知らでくる山もがな サネを同軆に来ルを繰ルにかけたり

<大言海>

さなかずら 枕詞「葛の延びわたりて絶えず、末、又這ひ合ふよりかかるといふ。」會ふ、また絶えずといふの枕詞。又サネカズラ

これに対して、別物と見る見解を取るのは、

<日本語大辞典>

さなかずら〔真葛・実葛〕

[A名詞]

(1) 植物サネカズラに同じ。

<古事記 中> 舟板を具え餝り、佐那葛の根を舂き、その汁のぬめりを採りて、其の船の中の簀椅子スバシに塗りて

(2) 植物カミエビの異名

<新撰字鏡 (898901年頃)> 木防己、ニ八月採根陰干 佐奈葛 一曰神衣比

[B枕詞]

(1) ツルが伸びて一時は別れても、また絡み合うことから”後に逢う”にかかる。

(2) つるがどこでも長く延びるところから”遠長い””絶えず”にかかる。

{植物}

マツブサ科 Schisandraceae

マツブサ科には240種がある。この科は以前モクレン科Magnaliaceaeに包括されていたので、左様書かれた図書もある。多心皮類に属し、被子植物の原始的なものである。

マツブサ科

サネカズラ属

Kadsura

サネカズラ(ビナンカズラ)

マツブサ属

Schisandra

マツブサ・チョウセンゴミシ

サネカズラ属 Kadura

常緑or半常緑蔓性藤本 左巻き、有柄、雌雄異株、花は若枝の下方に腋生、長梗下垂、花梗煮1~数花をつける。心皮は多数集合して頭状につく。花托は果実によって多肉となる。実は漿質、球形または卵状。東南アジアに約10種あり、学名は日本語カツラ

 サネカズラ Kadsura japonica Dunal (Uvaria japonica Thunb.)

ビナンカズラ・サナカズラ・サナカツラ・アワツヅラ・サナツラ・マタマカズラ・タマカヅラ・ゲンキュウカズラ・ヤマオウレン・トロロカズラ・ドロリノカズラ・ドロカズラ・フノリカズラ・フノリ・ビンツケカヅラ・ビンカヅラ・ビンズル・オヘスケカズラ・クズバ・ビランソウ・ボロボロ・アンダカジャナ・マメズタ・イシマメ・イワマメ・カガミゴケ・アマズラ・*プスン・*ナムオミチャ(* 朝鮮語)

美男蔓・五味蔓・美女蔓・美軟石・真玉葛・狭根葛・佐奈葛・木防・金及・山黄蓮・五味藤

英語: Scarlet Kadsura

独語: Japanischer Kugelfaden; Japanischer Kadsura  

本州(南部 植栽は秋田県まで)・四國・九州・沖縄・台湾・中華国に分布。山野に自生する常緑蔓性潅木。樹皮は黒褐色~褐色、コルク質に覆われる。葉は有柄互生、長楕円形~卵形、表面は無毛平滑、光沢ある厚軟質、縁に粗鋸歯あり、濃緑色、下面は淡色帯紫。花は雌雄異花まれに両性花もある。4月開き、単一腋生、淡黄白色、径15mm,萼と弁との区別不明で花被は9~15片。果実は漿果、10月頃果実及び花托は紅色に熟す。一個は球形紅色稀に白、黄白、径5mm,,これが10~30個集り,30mmとなり、扁球形の花托の周囲に球状になって着き長梗によって下垂している。種子は光沢ある腎臓形、長3mm,乳黄色を呈す。

補説

1.蔓の節間は短日期に出来るのは長く、長日期では短い。

2.古い茎の周皮はコルク層を形成している。

3.雄花には多数丸く集った雄蕊団があり、その心皮は赤色である。

4.萼より弁に移行するもので、このような例はシャクヤク、ハスなどに見られる。雄蕊・雌蕊が多数着く例は、多心皮類である。

{用途}

樹木は垣根などに用いられているが、やや陰気なところがあり、盆栽仕立で観賞用、挿木で簡単に繁殖するが、雄雌の両方を植えなければ、実はならない。

果実を薬用とする。和五味子といい、朝鮮五味子より劣るとされるが、代用される。

茎を適当の長さで切り、鍋で煮て粘液を得、保存して使う。絹の糊づけ、製紙の型押し、に使うと光沢が出る。頭髪のビンツケに用い,格好よく男前になるのでビナンカズラという。

粘液を舟の楷座に塗り、滑りをよくする。

{古文献}

<本草郷語抄>

サネカズラは国によりビンツケカヅラともトロロカヅラともビナンセキともビジンソウともビナンカヅラともフノリともフンノリカヅラともhいへり、山野ともに多し、冬を経て葉枯れず、形長く厚くシキミの葉の如くにしてひかりて粗き鋸歯あり、冬春は葉背紫色、夏の末葉間に花開く、其帯長さ一寸余り端に数十実円毬をはして下垂る大さ一寸許あり。

<歴世女装考>

この五味子を一名美軟石ともいえり、能狂言烏帽子折の髪を結する所の詞に此筒のなかにビナンセキがござる。又北条五代記巻3に髪はビナンセキにてかたくつけあげ給へり、など見え足れば古くありしものとみえたり、近世著聞集に昔髩は油なき時代は男女とも美軟石のぬめりをとりて髪を結ひしなり、とありまたビナンカヅラともいへり。

<中陵漫談>

美男葛、余が67歳のとき(明治4 5年)鬢に蔓を付て梳る。中以上の人にても今の如く漉油を用ゐず、各蔓を水に浸し置き、時々櫛に付けて髪を粘す、中略 其蔓と云ふは五味の蔓にて、俗に美男蔓・美女蔓と名付け小間物屋必ず携えて売る。これを二つに切りて壷に立て、水に浸し置き、時々用ゐるなり、後略

<肥前州産物図考>

実葛是を山黄蓮といふ、カツラの上皮の黒みを取り、葛を拓き、ひしぎ水をいれ浸し、其粘りたる水を袋或いは簣桶にてこし、是を以って扣きこなれたる楮のひとかたまりに成たるを散すに用ゆ。

<大和本草>

五味子 朝鮮の産を用ふべし、医書に遼五味子と云是又北五味子と云府、顥大い色黒く有潤五味て甚酸し、核赤し、日本の五味子は味苦きのみにて五味なく滋補収斂の功なくして性悪し、4用いるべからす、唐五味子顥小にして燥けり、倭五味子にまさる。然とも遼五味子に劣れり、朝鮮より来るは実は苦辛く皮は甘く酸くして皮実すべからず、一にて五味まったく備わる事稀也、是真五味也、草木の実は辛味あるは稀なり、時医朝鮮五味子を不采、多くは和五味子を用いるは何ぞや、補薬には熟用し、嗽薬には生用すと、李中梓いへり、今和俗和五味子茎を水に浸し、ねばり出鶴、用いて鬛髪にぬる毛ちらすと云。

<大和本草批正>

五味子韓種花戸にあり、葉短くして巾ひろくツルムメモドキの如、互生す。葉は冬なく春生ず、葉本に実あり、一花のあとに二十顆ほど穂をなす、花厚くして、大きさ梅の如、形蓮の如、三月開、朝鮮は中華より北方に当たる故、北五味子と云、サネカズラは実小さく乾かして色赤く潤なし下品なり味苦し、昔京の婦人ビナンカズラの茎をとり削り、皮を取り一夜水に浸し、ねばり生ずるを鬢に塗しが、今はこの事なく唯宮禁のみこれを用ゆ、茎は挑担してうりしが今は絶えたり、カツラ売と呼べり。

<古事記>

爾大雀命聞 其兄傭レ兵、既如ニ王子之坐所一而、更為二其兄王渡レ河之時一、具飾舟櫂一者搗二佐奈葛之根一、取ニ其汁滑一而塗ニ其船中簀椅一、設二踏応レ仆

<大和物語 上>

本院の北方の、まだ帥の大納言のめにていますかりけるをりに、平中がよみて聞越える。冬の野に 緑に生えるさねかずら 我ま見ざねと たのむいかにぞ かく言ひいひあひちぎることありけり

<後選和歌集(951~3)>

つれなきを 思い忍ぶのさねかずら はては来るをも 厭なりけり

11~701)>

なにしおはば 逢坂山の さねかずら 人に知らで 来るよしもがな

藤原定方

<源順集>

あられ降る みやまかくれの さけかずら くる人みえで 老いにけるかな


<夫木和歌集 22 4>

まとはるる なげきの杜の さねかずら たえぬ人の つらさなるらん

藤原信実


思ふこと大江山のさねかずら 暮れると明くとに嘆きつつのみ

藤原知家


如何にせん 逢坂山のさねかずら はふ木あまたに移りはてなん

藤原家隆

<梁塵秘抄(192)>

いちひくや よれるさね葛、繰れども繰れども尽きもせず、さやうの池なる花蓮、拘わらず 尸那城にぞ開けたる

<浮世草子 好色一代男(1682)>

手に指かねをささせ、寝させて、髪はさねかずらの雫にすきなし

<北条五代記 5>

関東昔侍形義異様なること 諸侍の形異様に候ひし、上下の襞のためやう、衣紋かりきやうに至迄も、小田原やうとて、皆人まなべり、髪をぱ美軟石にて、ぴんを高くつけあげ給へり。

<俳諧>

ねばい事 髪のそそけぬ さな蔓

四季節部


垣結うて またかけておく さねかずら

松彩子


葉がくれに 現れし 実のさねかずら

虚子


さねかずら 西行庵の 竹垣に

柳 冠子


美男かつら 誰が付けし名ぞ真くれなゐ

山崎豊女


実葛 使うほどもなき 毛の薄さ

水木真貫

マツブサ属 Schizandra

落葉蔓本、雌雄異株、花は当年枝に1~2個腋生する、帯黄白色、花後花托は成熟し、長形or塊状、果実は漿果、黒味頃ががった紅色、種皮は海綿状または堅質。東南アジア・アメリカ南部に12種あり、学名はギリシャ語”裂けた葯”の意。

チョウセンゴミシ Schizandra chinensis Baill., (Kadsura chinensis Turcz. Maximowiczia Chinsis Ruor., Sphaerostemma japonica S.et Z).

アカゴミシ、マツブサ、マツブドウ、*レプイハト、*フレハブ *印アイヌ語 +オミチャ+朝鮮語五味子、北五味子、棟柏、車銭子、黄藤草、玄及、金鈴子、紅皮消、紅内藤、

英語: Chinese Kazura

独語: Chinesisches Spaetko elbchen, Chinesische Schisandra

日本では北海道、本州中北部の山地に産する。朝鮮・中国・満州・アムール・樺太にも分布する。

落葉蔓性分岐性潅木、樹皮は褐色、蔓は右巻き、葉は互生、長柄、短枝では叢生長枝では粗生、葉柄紅色、膜質、倒卵円形、卵円形、長3~8cm3~5cm, 鋭頭鋭脚、上面淡緑色無毛下面帯白色有毛。

花は枝の下に腋生下垂す、黄色色、広鐘形、五六月開花、香り有り、径12mm,弁は長楕円形、長10mm,斜開し花托は花後生長して下垂する。

果実は漿果、紅色~暗紅色、美しく果団の中には果粒大小、不発育を混じることマツブサと異なる。果団の長さ6~12mm,各果に1~20ケの種子有り、果実は食用とならず。果の味に甘酸など差あり、大体辛味強し、紅熟せる果実の汁液に蜂蜜を混じ練ったものを朝鮮では”花菜”と称し間食に、強壮剤とする。朝鮮産の五味子を最良とし、是を北五味子と称する。

変種

イヌチョウセンゴミシ var. glabrata Nakai

{古文献}

<重修本草綱目啓蒙 14 蔓草>

五味子一名 嗽神 紅内消、六亭剤、紅内藤

南北の異あり、朝鮮の産を遼東五味子とし、又北五味子と呼ぶ、朝鮮は唐山の北に当たる故なり、享保年中に朝鮮より種を渡す、今人間に多く栽ゆ、葉杏葉に似たり、又木蓼葉に似て鋸歯粗く皺あり、春旧藤より芽を出し、四五葉一所に攅り生す。其の穂苞内葉下に花を出す。嫩藤長すねば葉互生す。三四月花を開く、白色にして微緑を帯ぶ、形荷花に似たり、至って小く小銭の大きさにして八九弁質厚くしてかかゆ、中に小紅毬あり、弁落ちれば其球あり、弁落ちれば其球漸く大にして長く下垂すること一二寸、円実多くつつる、生は蒼く、熟は赤く、大きさ南嘱子の如し、秋後葉落ち藤は枯れず、黄色にして微黒を帯ぶ、この実冬を経れば色黒く五味.備はること、此書に云処の如。この種駿州に自生あり。

<物類品隲>

朝鮮種、享保中種を伝て今官園に植、葉杏に似て蔓延す。実は南五味子と大体相似たり、駿河産、朝鮮種と異なることなし、享保中台命ありて葉を採しむる時、初てこの物あるを知、今に至りて毎年是を緒官に献ず。南五味子、和名サネカズラ所々に多し。

<本草和名>

五味 一名会及、一名玄及、一名茎者、和名

<和名類聚抄 20>

蘇敬本草注云、五味 皮肉甘酸、核中辛苦、都有鹹味、故名五味

<和爾雅7 草木>

玄及サネカズラ

<物類称呼 3 生植>

五味さねかずら 大阪にてびじんそう、東国にてぼなんかづらと云、出雲にてとろろかずらと云、伊勢白子にてくつばと云、土佐にてふのりかづら、又さねかづらの実、則薬物の五味子也、相州底倉辺にて五九の伊と云。

<和漢三才図会 96 蔓草>

五味子、至猪、玄及、会及、和名佐禰加豆良 按五味子、朝鮮之産最良、中華次之、日本所々多有之、而紀伊田辺之産良、芸州広島、及日向 丹波之産次是、其梗浸水取粘汁、塗髪甚佳、俗呼名美軟石

<採薬使記 相州>

重康曰,相州底倉の湯場の山中より五味子を出すなり,方言五九の伊と云う,献上す

マツブサ Schizandra nigra Max.

ウシブドウ・ マツブドウ・ モトカズラ・ ツタカズラ・ ワタフジ・ ヤワラジル・ マツブサブドウ・ ワタカズラ・ クロゴミシ・ *ホイクオミチ

松房・松藤

北海道・本州・四国・九州・南鮮の山地に自生する。落葉蔓木、雌雄異株、樹皮は初め紅褐色・後褐色、老木になるとコルク質が発達する。傷つけると松脂臭あり、右巻き、葉は広円形平滑無毛、長2~8cm.3~5cm 急尖円脚、粗鋸歯or全縁 下面淡緑色、短枝に数葉束生する。花は五六月開花、小型、花被9~10片白色、腋生する。果実は漿果。球形径8~10mm,青色、皮上に白粉を被り、数個団集して下垂する。食用になる。種子は12個入る。

変種

ウラジロマツブサ var. discolor Htsusima

{古文献}

<重修本草綱目啓蒙 14 蔓草>

一種マツブサと云あり、一名ヤハラズル・ウシブドウ・マツブドウ・モチカズラ・ヤワラカズラ・ワタカズラ、泉州、紀州、播州、土州、の山中におおし、葉は楕円にして尖る

南五味子より至て短く、粗き鋸歯あり、光沢多し、春新芽を出し、冬枯れること北五味子に同じく花も同じ、実も亦穂を為して生じ、熟して黒色なり、ゆえにウシブドウと云う、久しく貯て潤あり、この草蔓を切れば松の気有り、故にマツブサと云。年久しきもの藤太く皮厚句して柔なり、故にワタカズラ、一名ビンツケカズラ、トロロカズラ、ビナンセキ、ビジンソウ、ビナンカズラ、クツバ、フノリ、フノリカズラ、オオスケカズラ、ビランジキ、山野に多し、市中にても籬トス、藤蔓甚繁茂す。葉冬を経て枯れず、形長く厚く奔草シキミ如くにして光潤にしてい粗い鋸歯あり、冬春は葉背紫色、夏の末葉間に花開く、形北種に同じ、其蔕長さ一寸余、端に数十実円毬をなして下垂す、大きさ一寸許、北種の穂をなすに異なり、この毬を江州にてサルノコシカケと呼ぶ、実は落霜紅ムメモドキの大きさあり、熟して赤色、干して仍を赤くして潤なし、苦味多くして五味備わらず、和の五味子となずけて売るものこれなり、朝鮮五味子は形大にして久を経るものも潤有り、色黒くして白きカビの如ものあり、五味備わる最も上品なり、本草彙言曰、生青熟紫、八月収採る、曝乾則紫黒、今呉越建南等処亦有レ者乃良、漢渡五味子は実小にして潤なし、サネカズラと同じ、則南五味子なり、滋補の薬となすに宜駆らず、しかれども朝鮮よりは年久しくして渡らず、稀に対州より少し来ることあり、色微黒赤也、本黒原始に鮮紅色久しくして黒色というに合ず、今朝鮮と名ずけ売るもの数品あり、多くは尾州より出るを朝鮮五味子と言、是名古屋五味子なり、粒大に黒色潤ある者は朝鮮に異ならず宜く用べし、またマツブサの実売るものあり、通用して可なり、その粒小なる者は南五味子を煮て色を濃くし、味を付け乾かしたものあり、用いるに絶へず。増、南五味子に葉甚だ薄くして、小白斑ありて霜のかかりたる如くなるものありて美なり、故に花戸にてニシキカヅラと呼ぶ、又一種尋常の者にして、葉に白斑ある者あり、又南五味子の茎を切て水に浸す時は粘汁出る、以て束髪の用に供すれば膩垢アブラアカの患なく、且つ髪を長くす。

<大和本草>

松房、山中に生ず、北五味子に属すべき、葉及び花及び実は甚だ朝鮮五味子に似り、鋸歯あらく光ありて冬月落ちる、花は銭ほどの大にして七八弁あり、蓮の如、二重ほどに重なる。色白し、一花のあとに実二三十粒、集りてエビツルの如く、穂を為す、冬月熟して色黒く紫汁あり、大きさ南天の如し、貯おくに年をふれども常に潤あり、朝鮮に代用すべし、蔓甚ふときあり、皮は松の如くあつくして鱗甲あり、甚柔なり、故に紀州にてワタカヅラお云、松の臭あり牙枝につくる。

<草木育種>

五味子 武蔵 下野 甲斐などの山中にあり、葉を搗きて嗅げば松の香ある故松ぶさ、松ブドウ、などと云う。是北五味子にして薬に入るによし、又朝鮮五味子あり、南五味子ビナンカズラはさねかずらと云ひ下品にして薬に入ず、山の陰地に植ゆべし、蔓太くなれば肥に及ばず、始めは酒粕人糞などを用ふべし、蔓をたわめて土をたあめて土をかけ置けば根を生ず。これを切りて分け植ゆべし。

五味子

屡々、サナカズラと混同されるものに、ゴミシと云う漢方楽がある。果実は蘇敬が<神農本草経 >に「皮肉甘酸、核辛苦、核鹹味あり、故に五つの味あり」と評したのが五味の語原で、産地によって数種あり、効果に優劣がありとか、その原植物も違うらしい。最も評判のよいのはチョウセンゴモシSchizandra chinensisでこの原木は日本にもある(北五味子・遼五味子ともいう)。南五味子はKadsura lonipedunculata(公州植物志)、K.pelitigera (中国薬用植物志)Schizandra sphenantheraなど数種の報告がある。同種のS.repandaは熟五味子でこれは品質劣る。

<古事記>

<十巻本和名抄>

に五味(佐禰加豆良)皮完甘酸 核中辛苦都有鹹味 故名五味也とあり、漢方の原植物にの関しては南五味子・北五味子など中華国に産する数種がある。

<出雲風土記(島根郡)>

小倉山諸山に産する草木類は、・・白朮、麦門冬、藍漆、五味子・・

<延喜式>

遣諸藩使 唐使 草薬五十九種 五味子、僕奈各四斤・・

<和漢三才図会 96 蔓草>

五味子 荎豬 玄及 会及 和名佐禰加豆良

按五味子 朝鮮之産最良、中華次之、倭亦次之、日本所々多有之、而紀州田辺之産良、芸州広島、及日向丹波之産次之、其梗浸粘汁、塗髪甚佳、俗呼美軟石一 

<本草啓蒙>

五味子、皮・肉、甘く酸木、核辛く苦く、都て鹹き味あり手、五味具る故に名づく。春苗を生じ、赤き蔓高木に引く。其長さ六七尺。葉尖り円く杏の葉に似たり。三四月黄色の花を開く。蓮花の状に類す。七月実なる。茎の端に叢生す。豌豆許の大きさの如。生は蒼く、熟すれが紅紫。

<物類品隲 3 >

五味子二種あり 北五味子 朝鮮種 亨保中種を伝えて、今官園に植、葉亜杏葉に似て蔓延す、実南五味子と大体相似たり、駿河産朝鮮種と異なることなし、亨保中台命ありて棗を採りめる時、初てこの物あるを知り、至今毎歳是を官に献ず。南五味子 和名サネカズラ処々に多し・

<宜禁本草 乾 薬中草>

五味子 酸温 紅熟時蒸爛、研取汁去実、熟成稀膏酸甘、入蜜再上火待蜜熟、後冷器中貯作湯、肺虚寒人可化作湯、時々服作果可寄遠

成分

果実には精油を0.35%含み、その主要な者は α-ylangene, α-chamigrene, β-chamigrene, chamigrenalなど、その他クエン酸、りんご酸、酒石酸、フマール酸などの有機酸類。

α-ylangene

α-chamigrene

β-chamigrene

chamigrenal

fumaric acid

種には 脂肪酸油33%, 精油ca 1.6% を含み、精油の主成分は citral である。その他結晶性物質はβ-sitosterol, schizanin(schizandrol A), gomisin-A, -B, -C, -D, -F, -G, schizandral-A, -B などである。

Schizanin –A = R = R’ =OCH3

Gomisin-B; R =

Β-Chamigrene = R = R’ =OH2O

Gomisin-C; R =

若い枝の皮に粘液を含む。成分はキシログルクロン(一種のセラミド配糖体)である。


R1

R2

R3

R4

A

OCH3

OCH3

OCH3

OCH3

B

OCH3

OCH3

OCH2O

OCH2O

C

OCH2O

OCH2O

OCH2O

OCH2O

Gomisinn –D

Schizandrin