Ac-08
くそかづら・屎葛
屁糞葛・
ヘクソカヅラ(ヤイトバナ)
漢語 鶏矢藤・鶏尿藤・牛皮凍[本草名]「百部?・女青〕
【万葉集記載】
18-3855
以上
1首
(一) |
高宮王の数種の物を詠む歌 茰莢尓 茰莢そうきょうに |
註釈;
この歌には「かわらふじ」も歌われている。
高宮王=伝不詳
茰莢=かわらふじ、和名抄荷「本草云、莢(造莢)二音、加波良不知。俗云、虵結」とある。マメ科の落葉潅木。
緒母取れる=名義抄
蓬頭の訓にオボトシガシラとある。
以上三句は絶ゆることなくを導くための序詞。
宮仕=原文「穹」は名義抄にミヤヅカエと訓がある。
概説
帽掲の変わった歌は、同僚に嫌われ、いびられても、蔑すさまれても、生活のために黙々と官僚勤めをして、そして仕事もしない現在のサラリ-マンの心境と同じである。自嘲の譬語となった「糞葛」は路傍の何処でも図太く生えている蔓草で、この植物特有の悪臭を持つ。現在の植物名はヘクソカズラであり、古名に屁を付け加えて、植物側からいうとまことに迷惑な名前が付けられたものである。確かにこの草にさわると、いやな悪臭が指先に着き、しっこくて取れない。もっとひどい名前は死骸の臭いに準えてカバネグサとも言う。正名はヤイトバナ、花の中心の赤い班点を灸の残跡に見えることから名付けられた。臭いを別にすれば、花は小さくて可愛いのでオトメバナという名前もある。田植えの赤根襷の早乙女に譬えたとあるが、実はこの花は花期が長くて秋の終りまで何処にでも見ることが出来る。この悪臭は揮発し易い成分で、この若芽を油炒めして食すると臭いはなくなり、案外美味しいとの事である。面白い話だが、婦人がこの草の臭いを嗅いで交接すると妊娠せずとの俗説である。蔓は左巻き。
植物は日本在来であり、古典に女青・百部・牛皮凍の名前が<風土記>に見えるが、別物との指摘もある。
<出雲風土記> |
秋鹿郡、都勢野山 |
<書言字考節用集 |
百部根ほどつら、きじかくし、へくそかずら |
<倭訓栞 |
へくそかずら、定家卿鷹の歌の注に見ゅ、下孚集に百部根を訓じ、また馬鞭下といへるは非也、女青也とぞ、女青の上品を鳥のひるづといふ |
<大和本草 |
女青 |
<重修本草綱目啓蒙 |
女青に藤本・草本の二種あり、中略 藤穂本の女青はヘクソカズラ也。細子草、カバネクサ、ヘウソカヅラ、オドリコソウ、ヤイトバナ、オドリズル、ドリバナ、ヘクサンボウ、クサバナ、ニガイモ、タウヘバナ、アマクサズル、ソウトメカズラ、ソウトメバナ、随所甚だ多く、竹本に繞ふ。葉は大抵羅藦ががいも葉に似て薄く両対す。微しく毛茸有り、葉を断れば臭気甚だし、大葉小葉円葉長葉種々あり、夏葉間に花を咲く。其の形牽牛花の如く極めて小さく三分許、白色にして中心紫色、灸痂の脱たるあとの色の如し、故にヤイトバナの俗名あり、花後円実を結ぶ、大きさ二分許、秋冬熟して黄褐色にして光あり、この実を俗にスズメノタゴと呼ぶ。 |
<本草和名 |
百部根 |
<和名抄 |
葛類、弁色立成云、細子草、久曾加豆良 |
<色葉字類宇井抄(1177~81年> |
圏、ヘクソカズラ |
植物
アカネ科 Rubiaceae
アカネ科は木本また草本で蔓性になるものが多い、葉は対生or輪生(托葉が本葉と同形をとるものがある)、花はふつう両性、放射相称稀に左右相称。花冠は筒状また福状で4〜10裂し、雄蕊の数と合致する。子房下位、中軸対胎座or側膜対座。世界に広く分布し、約500属7000種ある。日本には25属81種が自生する。
大きく分けて
次の2亜科に大別し、①アカネ亜科{植物体に蓚酸カルシウムの結晶があり、毛が多細胞からなる}は温帯~亜熱帯に広く分布し、アカネのような染料植物がある。②キナノキ亜科〔植物体に蓚酸Caの結晶葉無く、生初めの毛は単細胞である〕は熱帯亜熱帯地方に多いのであるが、コーヒ-ノキ、キナ、トコン、ガンビ-ルのような有用植物が含まれる。
(1)
アカネ亜科
フタバムグラ連 |
サツマイナモリ属 |
サツマイナモリ |
フタバムグラ属 |
フタバヌブラ、 |
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イリオモテ属Argostemma |
イリオモテソウ |
|
シソノミグサ連 |
シソノミグサ属 |
シソノミグサ |
ヤイトバナ連 |
ヘクソカズラ属 |
ヘクソカズラ |
イナモリソウ属 |
イナモリソウ、 |
|
ツルアリドオシ連 |
ツルアリドオシ属 |
ツルアリドウジ |
ハリフタバ連 |
フタバムグラ属 |
フタバムグラ、 |
ハリフタバ属 |
ハリフタバ |
|
オオフタバムグラ属 |
オオフタバムグラ |
|
アカネ連 |
クルマバソウ属 |
クルマバソウ、 |
アカネ属 |
アカネ、 |
|
ヤエムグラ属 |
ヤエムグラ、 |
|
アリドウシ属 |
アリトオシ、オオバジュズノキ |
|
ハクチョウゲ属 |
ハクチョウゲ |
|
ハナガサノキ属 |
ムニンハナガサノキ |
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ボチョウジ属 |
ボチョウジ、シラタマカズラ、 |
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ルリミノキ属 |
ルリミノキ、マルバルリミノキ |
(2)キナノキ亜科
トコン属 |
トコン |
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タニワタリノキ属 |
タニワタリ |
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キナノキ属 |
アカキナノキ* |
|
クチナシ属 |
クチナシ、コクチナシ |
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コンロンカ属 |
コンロンカ* |
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コーヒーノキ属 |
アラビアコーヒーノキ*、ロブスターコーヒーノキ*、 |
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ギョクシンカ属 |
||
サンタンカ属 |
サンタンカ* |
|
カンビール属 |
カギカズラ* |
ヤイトバナ属 Paederia
世界に約25種
草本、低木。蔓性、全草に臭気有り。葉は対生or三片輪生、有柄。花は腋生or頂性、集散花序、雌雄異株、花冠は筒状、鐘状、漏斗状、裂片4~5、果実は球形、種子は2個。
ヤイトバナPaederia
scandens Merrill..
( P. chinensis Hance,
P. tomentosa Max. var. Mairei Lev., Gentiana scandens Lour.)
ヘクソカズラ・ヤイトバナ・サオトメカズラ・カバネクサ。ヘクサヅル。オドリバナ。シモカズラ・ヤブカラメカズラ・ドウシャバナ・クソカズラ・*トクチョンダン・*キョトイン
牛皮凍・女青カバネグサ・馬不喰ウマクワズ・躍草・苢瓢苢由紙・細子草
(古文献で百部と書いたものがあるが是は非なり。漢方薬で百部とはヒャクブ科のタチヒャクブ、ツルヒャクブの肥大根のことで、鎮咳の目的に用い、アルカロイドtubersteonine,
stenineを含む。ヘクソカズラが有毒とするのは、この混同が始めでないか。)
<文明本節用集> |
百部根、ヘクソカズラ |
<本草和名 |
百部根 |
日本全土から東南アジアにかけて広く分布する。日当たりのよい藪や草地に普通見られる蔓性の多年草。基部は木質化し、蔓茎は長く、右巻きで他物に絡みつく。葉と茎共に軽緑色で、毛が生えている。葉は長さ4~10cm,巾1~7cmの披針形、先は短く尖り、基部はやや心形で短い柄が着いている。8~9月に葉脇に二出集散花序をつけ、まばらに花をつける。萼は鐘形で小さく先は短く5裂片に分かれる。花冠は白色、漏斗形で先は開いて浅く5裂し、内面は紅紫色で、長さ1cm.
果実は球形で黄褐色に熟し、径5mm,潰すと強烈な悪臭を発する。
補注
1.
葉の上面に白色の長い疎毛がある。この草を乾燥すると黒く変色するが、毛は変色しない。
2.
葉の形など変化に富み、例えば、海辺に生ずる者は全草に毛がない。
3.
篩部の繊維は12〜32mmと長い。
近縁種 |
ツツナガヤイトバナ |
var. |
ハマサオトメカズラ |
var. |
|
ビロードヤイトバナ |
var. |
|
コバナヘクソカズラ |
Paederia |
|
サメハダヘクソカズラ |
P. |
古文学
<みなかみ> |
くだらぬものおもひを |
若山 |
<草籠> |
秋されば |
尾山 |
<俳諧> |
中を埋めし |
夜臼 |
名をへくそかずらといふ |
虚子 |
|
腰掛けて |
小蔦 |
蛇籠より |
素十 |
||
雨の中 |
清崎敏郎 |
稲妻やと |
成美 |
||
草紅葉 |
夏目漱石 |
早乙女も |
水木真貫 |
用途
漢方生薬 |
白鶏屎藤 |
全草を煎汁を飲用 |
牛皮凍 |
種実を潰して 民間では、皹裂と称する。果を擂り潰した汁を化粧水とする。 虫さされに葉を揉んで、葉汁を塗布する。 |
成分は、oleanolic
acid 1.5% cartiroid, triacontane, propionic acid.
特臭成分は不飽和油分 0.15%
で、bentylaldehyde,
terpenaldehyde, sucrose など
葉に aebutine
0.86%