Ac-11. ひかげのかずら










Ac-11.
かけ・可気/やまかずらかげ・山葛蘿

ひかげのかずら・日蔭蔓・縵

かげくさ・
可気久佐

ひかげ・
比加介・日蔭 

石松・
ヒカゲノカヅラ

漢語
伸筋草
/松羅・女羅

【万葉集記載】

13-3229
たまかげ

14-3573
やまかつら

16-3789
やまかつら

19-4278
ひかげかつら

以上
4

16-3791
たまかずら
は前後の唄より、ヒカゲカズラの公算は大

()
13-3229

雑歌
後書 三首 但し、或る書にはこの短歌一首は載する事なし

五十串立
神酒座奉 神主部之 雲聚王蔭 見者欠文

斉串いぐし立て
御瓶みわ 据え奉る 祝部はふりへがうずの
たまかげみればともしむ

註釈:

斉串=神事の儀式で神の前に立てる串

御瓶=神酒を入れる甕、

うずの玉陰=髪飾りにする立派な日影かつら、

ともしも=心ひかるる。

この歌は男性の側からして、婚礼の式に立合う第三者が、神官の立振る舞いを賛美して謡う歌、

()
14-3573

譬喩歌 

安之比奇能
夜麻可都良加気 麻之波尓母 衣我多伎可気乎
於吉夜可良佐武

あしひきの
山かづらかげ かげましばにも 得がたきかげを
きや 枯らさむ

註釈:

やまかづらかげ=女を譬える。

ましばに=屡々。そう簡単には、

かげ=蘿。

この歌は男性の側から、妻にしないでおかないとの意味を詠ったものである。

()
16-3789

16-3790

16-3791

由緒ある雑歌 三首

無耳之
池羊蹄恨之 吾妹児之 来乍潜者 水波将涸
()

足曳之
山繯之児 今日往跡 吾尓告世婆 還来麻之乎
()

足曳之
玉繯之児 如今日 何隈乎 見管来尓監
()

無耳みみなしの池し恨めし
吾妹子わぎもこが 来つつ 潜づかば
水は涸れぬ

あしひきの
山かづらの児 今日ゆくとわれに 告げせば還り来ましを

あしひきの
たまかずらの児 今日の如ごと 何れの隈くま
見つつ来にけむ

或いはの曰く、昔三の男ありき、同に一の女を嫂引き。娘子嘆きて曰く、一の女の身は滅易きこと露の如し、三の雄の志は平び難きこと石の如しといふ。遂に即ち池の上に彷徨り、水底に沈没みき。時に其の壮士等、哀頽の至りに勝へずして、各々所心を陳べて作る歌 三首

註釈:

やまかづら=たまかずら。

あし引きの=枕詞。

隈=道の曲がり角

今日の如=今日、自分がしているように、娘子が死に場所を求めて、池の周りを彷徨った。 

()
14-4278

二十五日に新嘗会の肆宴にして詔に応ふる歌六首 小納言大伴宿祢家持

足日木乃
夜麻之多日影 可豆良家流 宇倍部尓也左良尓 梅乎之奴波牟

あしひきの
山下日影ひかげかずらける 上にや更に梅を
しのはむ

註釈:

かずらぐ=つる草や花を髪飾りとしてつける。

や=反語と詠嘆を兼ねて

概説

ヒカゲノカヅラは是までの植物と多少異なって、隠花植物の範疇に入り、ものを縛るに用いるか否かは別として、紐状の変ったか形が面白い。

日本の古典で最初にひかげのかづらを扱っているのは、<古事記>の天の岩戸の件で、天宇受売命アメノウヅメノミコトが日影ヒカゲを襷にかけて、ストリップを踊ったという段である。

<古事記
>

天児屋命
布刀詔戸言祷白而、天手力男、隠立戸掖而、天宇受売命、手次繋天香山之天之日影而、為蘰天之真析而、

<神代紀
28>

蘿、此云比舸礙

<古語拾遺>

蘿葛者,比可気

<東雅>

伊壮諾神の神の神話の黒き御髪の化して蒲髪となりにしに起これる語なるべし。

<字鏡>

葛、加豆良、(藤かずら、葛かずら、蔦かずら、すいかずら、さねかづら、まさきかずら、ほどかずら、

<千載集20>

神祇「神うくる、豊のあかりに
ゆう薗の 日影葛ぞ 生えまさりける

ところで、以前に説明したように、葛()カヅラは茎の長い植物であり、着物や帳に飾り付けたものが蘿カズラであり、髪を縛ったり頭に被ったりするのが鬘カツラである。「ひかげのかずら」も同様であって、日影鬘(日蔭鬘)とは、昔は新嘗大嘗の神事には生の日影蘿を冠の笄の左右に懸けて参拝したのであるが、後には青き組糸or白き組糸を揚巻きにして、四筋or六筋づつ垂る。また巾子に梅花の造花を挿す。

<貞観儀式>

大嘗会
親王以下、女擩巳上、青摺衫、加日蔭鬘

<雅亮装束抄2>

冠の巾子のもとに、火蔭の鬘と云う物を結び下げて白き糸の端
云々

<讃岐典侍日記>

皆人たち、小忌の姿にて、赤紐懸け、日影の糸など、なまめかしく見ゆるに、翳頭の花。

御前に侍ひしかば、日影をもろともに作りて、結びゐさせ給ひたりし事など、

<和名抄>

蘿鬘、ひかげかつら

ひかげかずら
は蘿葛・女蘿とも書き
,ヒカゲヅル・カズラカゲ・ヒカゲグサなど、略してヒカゲともいう。往々,葵アフヒ、猿麻裃サルオガセも同様にいうとの混同が見られる。

<新千載集6>

宮人の
豊のあかりの ひかげ草、袂をかけて 霜結ぶなり

<万葉集抄
16
仙覚>

葵は
日の影のさせる方に従ひて靡き傾く、故に日影草といふ。

<延喜式>

ひかげは其の手次たすきとせしものを以って内親王以下、命婦、女嬬及び行列の人々これを鬘とせしは践祖大嘗祭の時を始めとす。

<円珠庵雑記>

こけをひかげといへど、なべてみないふにはあらず、ひかげをまたかげといへり、万葉にみえたり、

馬渕云う、ひかげは深き山などの木にかかれる、猿おがせとゆうものなり、万葉の松のこけとよみしもこの事なるべし、さるを契沖は磐木の下の地などに長く這ふ苔のあるを、それなりと思うへるよし、あるものに書きたり、そは誤りなり、和名抄、祭祈具蘿蔓和語云比加介加都良。同苔類蘿日本紀私記云,蘿比加介、女蘿也、松蘿一名女蘿和名万豆の古介,一云佐流乎加世

宣長云、万葉十四に夜可都良、加気麻之波爾母、衣可多伎可気乎、これに加気とよめるもひかげなり、二に山蘰影爾所見乍とあるも、山かづらを枕言として、影はひかげの意につづけたるを、この十四の歌にて知るべし。

ヒカゲノカズラは、シダ植物のヒカゲノカズラ類-ヒカゲノカズラ科に分類され、この仲間は世界中に分布する。隠花植物であり乍ら、少しも暗いところがなく、スベスベした鮮緑色で、異風の感触があり、それで活花の花題に用いられる。刈り取って枯れても緑色は残り、手を汚すようなことはない。

日本では昔代から神事の飾り物に用いられているが、外国でも結婚式に花嫁のテ-ブルを飾る風習がある。同類のマンネンスギは、すし屋業界で[立柏]と呼ばれてネタケースに緑の添え物として置かれているが、これは築地の魚河岸で売っている。その他、活花の材料など、用途は多いと思われるのであるが、本種は人工栽培が全く出来ない。それに以前の里山に行くと頻繁に見かけたものであるが、最近は山が荒れて殆ど見かけなくなった。過度の水分がなく、かつ年中湿ったやや固めの土壌であり,風通しが漏れ日がよく差し込む雰囲気に生え、それで生長は早いけれども、人がいじると途端に不機嫌になり枯死してしまう。漢方薬業界で石松子(松の花粉も同じ)と呼ぶのは日蔭葛の胞子であり、止血に用いられる他、丸薬の製造時にまぶして、くっつくのを防ぐ。

石松という語原は、天台山にある石に生えている松のこと。

<倭名類聚抄
20>


唐韻云蘿、魯何反、日本紀云蘿、比加介、女蘿也、

<箋註和名類聚抄>

蘿見神代紀上、訓註云、蘿此云
唐韻云蘿比舸礙、古語拾遺蘿鬘、比可気,斉宮式作二日蔭、按是草可ニ作鬘鹿毛日影故云日蔭、中略
本草和名云、松蘿
一名女蘿,本条一名蔦蘿
,一名蔓蘿,一名蔓女蘿,雑要訣,即知女蘿之名,本草所,蔦蘿以下三名出雑要訣、此女蘿上恐脱蔓字、或源君引本草二名、誤為雑要訣也、別録、松蘿生熊耳山川谷松樹上、陶注、松蘿多生雑樹上、而似松上者真小雅頍弁製義引陸氏義疏云、松蘿自蔓松上,生枝正青、万豆乃古介、依輔仁、叉見元輔歌、按万豆乃古介、謂松苔也、叉六帖歌謂万都乃岐乃古介、窮恒歌謂之万都爾加加礼留古介、本草和名無佐留乎加世之名、按乎加世麻裃也、以綰之麻縷麻裃今俗亦有加世糸之名、是物在深山、其状似麻裃、故云猿麻裃也、裃訓加世比、古今集物名有左駕利古計、即此物、故日本紀纂疏云、蘿謂垂苔也、或名幾都自禰之乎賀世、今周防俗呼佐留乃乎賀世、南部俗呼佐留加世

<重修本草綱目啓蒙
16
>

石松
山中に生えて生ず。其蔓長さ五七尺
枝多くわかる、葉は土馬駿に似て黄緑色なり、四月枝の梢ごとに穂を生ず。玉柏に異ならず即次条の石松の草本なる者なり、深山幽谷に生ず、一茎頂生す。高さ五七寸、上に枝を多く分ち、土馬駁の如き細葉多くつきて石松に異ならず。

<古今要覧稿>

ひかげのかづら
一名ひかげくさ 一名狐のかせ
すなわち玉柏の一種。地上に蔓延するものなり、故に其の形状は全く玉柏と相同じ、偖ヒカゲモノに見えたる天照御神の天の岩窟に隠れ給ひし時、天宇売命アメノウズメノミコト其の窟戸の前にて手次タスキとなして巧みに俳優をなせしを始めとし
(古事記)、其の手次とせしものを以って内親王以下命婦女嬬及び行列の人々をこれを鬘とせしは、踐祚大嘗祭の時を始とす(延喜式)
また日陰の字を用いしは太安麻呂を始めとし(古事記)其れを日蔭の字に代しは藤原忠平を始とす(延喜式)此の二つは其の字異なると謂ども原より皇朝の名なるを。其れを西土の蘿字を塡られしは舎人親王を始とし(日本書紀)さらに唐韻を引きて女蘿の字を訓せしは順朝臣を始めとす(和名抄)。其の女蘿の字によりて近説に松蘿にも女蘿の名あるによりて、日蔭は即さるおがせ也といへど、今十一月新嘗祭の時用いる”ひかげのかずら”は正しく此の”狐のをかせ”なれば古の”ひかげ”も必ず此のものを指していえること明けし

植物

フカゲノカズラ科は花の咲かない隠花植物として、シダ植物に編入されているが、外観上は若干違う。このようなシダに似ない羊歯は、マツバラン科Psilotum,
イワヒバ科Selaginella,
トクサ科
Equisetumとヒカゲノカズラ科Lycopodiaceae
が並んでいる。

陰花植物の小葉類・単系統群の群に仕分けされたこの一郡は、約3億年の古代デポン紀に発した。ミズニラ科・イワヒバ科は異形胞子であるが、ヒカゲノカズラの胞子は雌雄の別はあるが同形胞子である。此の類の分類は多説があって、一様でなくわかり難いのであるが、下記は秦仁昌の細分化した2科7属の分類法である。

ヒカゲノカズラ亜群
Diphasiastrum

ミズニラ類

イワヒバ類

ヒカゲノカズラ類

コスギラン科
Huperziaceae

コスギラン属Huperzia

ヨウラクシバ属Phlegmariurus

ヒカゲノカズラ科
Lycopodiaceae

ヒカゲノカズラ属Lycopodiella

アスヒカゲカズラ属
Diphasiastrum

ヤチスギラン属Lycopodiella

ヒモズル属Lycopediatrum

ミズスギ属
Palhinhaea

ヒカゲノカズラ科 Lycopodiaceae

地上、岩上、or着生の多年生常緑シダ。植物体(胞子体)は根・茎・葉に分化している。葉は小葉で中央に通る1本の葉脈がある。茎や根は二次生長しない。茎は直立するものと、長く水平に伸びるものとあり小葉を密につける。葉の基部に胞子嚢をつけるが、胞子葉が枝の先端に集って胞子嚢穂を造るものがある。胞子嚢は外側に割れ目ができて裂開する。胞子は同形胞子、四面体形でほぼ球形。配偶体は塊状、葉緑素を持たず地中で菌糸と共存するもの、葉緑素を持ち地上で前葉体となるものとある。

ヒカゲノカズラ属 Lycopodium

茎は長く伸びるかor短い。小葉は多列に並ぶもの、4列にならんで2形となるもの、輪生状につくものなどがあり、茎に密につき茎を裸出することはない。熱帯に多く200種以上が知られている。日本では22種確認されている。最近のOllgardの発表で、エクアドルの熱帯雨林で6030変種が認められたという。南米の未踏破地区には相当多数の未知の羊歯植物があるとされている。

ヒカゲノカズラ Lycopodium
clavtum L. var. nipponicum Nakai

キツネノタスキ、キツネノヲガセ、キツネノケサ、カミタスキ、サルオガセ、サガリゴケ、ヒカゲクサ、ヤマカズラ、ヤマウバノタイキ、シシノコバ、オオカメクサ、ヤママ、、サルノクビマキ、テングノタスキ、

蘿、山蘰、山鬘、玉蘿、葛蘿、日影草、比舸礙、松蘿、女蘿、獅子尾

英語:
ground pine, running pine, running club moss, stag’s horn

独語:
Blitz mehl, Barlapp,

仏語:
lycopode

日本各地の里山の山麓あたりで、割合に明るい所に生える常緑多年羊歯植物。茎は緑色で横に地を這う、杉の葉を長く紐の様にした太さ5mm位、長さ2mにも達する。触ると油様の感触がある。茎は屡々分岐して、其の下の接地部に糸状の根をつける。其の周囲に長さ46mm,0.5mm程度の小舌状の単葉が茎が見えない位にラセン状、輪状、四列対生に瓦生する。或る程度大きくなったら薄黄色の長さ48cm,太さ8mm程度の胞子嚢穂2(稀に3本<)を直立分岐してつける。胞子葉は広卵形、辺縁に細かい鋸歯があり、その基部に0.5×0.2mm程度の胞子嚢がついており、黄白色の胞子を大量に放出する。胞子は丸みを帯びた四面体。地中にて塊状の前葉体を作る。n=34,51,68。地方により変異種が多くある。

補説

1.
この植物は約4億年前からあり、他の陸上植物と別の道程をとって進化した。化石で確認されるところによると、古代のものは大型であった。この類の特徴の一つとして、葉を出す葉隙ヨウゲキ(葉にでている部分で、繊管束が茎におえて作る間隙)を形成しない。

2.
いま、この種のものは、北半球の温帯から熱帯の高山まで世界の各地に広く分布しており、偏異が大ないくつかの型に分類されている。日本でもエゾヒカゲノカズラvar.
robustum.Nakai
ナンゴクヒカゲノカズラvar.
wallichianum Spring
などの変種が紹介されている。

3.
茎に着く小型の葉を小成葉という。「サクラなどの普通の葉は大成葉という。」小成葉はイワヒバ科、ミズニラ科、トクサ科にも見られる。

4.
茎や根の生長は、原則として2分岐となっている。

近類種

コスギラン科Huperziaceae

コスギラン属
Huperzia

トウゲシバ、コスギトウゲシバ、コスギラン、ヒメスギラン

ヨウラクヒバ属
Phlegmriurus

ヒモラン、ヨウラクヒバ、ヒモスギラン、スギラン、ボウカズラ、ナンカクラン、コウヨウザンカズラ

ヒカゲニカズラ科
Lycopodiaceae

ヒカゲノカズラ属
Lycopodium

ヒカゲノカズラ、マンネンスギ、スギカズラ

アスヒカズラ属
Diphasiastrum

タカネヒカゲノカズラ、アスヒカズラ、チシマヒカゲノカズラ

ヤチスギラン属
Lycopodiella

ヤチスギラン、イヌヤチスギラン

ヒモズル属
Lycopodiastrum

ヒモズル

ミズスギ属
Palhinhaea

ミズスギ

名前

語原:
ひかげに生えるかずら。

ひかげの糸 大嘗祭などの奉仕者の冠の左右に垂らした装飾物。始めは植物を用いたらしいが、後には白糸や青糸をアゲマキ結びやアワビ結びに組んで作ったものを飾るようになった。

<雅亮装束抄>

小忌事「冠の巾のもとに日影の鬘という物を結びて、白き糸の端・・あげまきになお結び下げて、方々に四筋ずつ、冠の角にはさめて前に二条、後ろに二条左右に下げたる也。

<讃岐典侍日記>

御前に侍ひしかば日蔭をもろともに作りて結びゐさせたりし

学名:
lycopondium=
ギリシャ語のlykos(おおかみ)Podion=足。Clavatum=棍棒状の

古語:
比加介ひかげ、夜麻可都加気やまかつらかげ,也末加津良、山葛蘿

別名:
狐襷きつねたすき、狐尻尾、狐尾枷きつねのおがせ、猿首巻、天狗襷、山女姥襷、ししのねば

漢語:
伸筋草、/
松蘿・女蘿・石松・獅子尾

古典

<古事記
25

手一次繋天香山之日影、上28 以蘿局手綱、蘿此云比詞礎

<源氏物語
乙女
>

かけていへば今日の事ぞおもほゆる日蔭の霜の袖にとけしも
日蔭にもしるかりけめや乙女子が天の羽袖にかけし心は

<栄華物語>

木綿ゆふしての日かげのかつらよりかけて
豊のあかりの面白きかな

<枕草子>
63

津花もをかし、蓬いみじうをかし、山菅、日陰、山藍、浜木綿・・

83

五寸ばかりなる卯槌二つを卯杖のさまに頭などを包みて、山橘、日陰、山菅など、美しげに飾りて御文なし。ただなるやうあらむは、とてご覧ずれば、卯の頭つつみちる小さき紙に
山とよむ斧のひびきをたずぬれば、いはいのひ杖の音にぞありける。

<和訓栞>

日蔭鬘、日陰の糸:延喜式に、の蔓とみえたり。古事記に天の日影といひ、神代巻に
蘿為手襷
といへり、松蘿、一名女蘿、是也といへども別種なるべし、今、狐のをがせといふ物、是也。

新拾遺に玉ひかげとも読めり。大嘗会に用いさるる事、くはしく出たり。さて、岩戸に神のこもらせ給ひし時なれば、日影さし出んことを言寿て、たすきには給へるといへり。

<新古今和歌集
7-748>

あかねさす
朝日のさとの日蔭草 豊のあかりのかざしなるべし

<蜻蛉日記>

入道段中納言為雅の女を忘れ給ひける後日蔭の糸結びてとい給へければそれにかわりてかけて見し末も絶えにし
日蔭草なにによせへて今日結ぶらん

<千載集20

神祇 神うくる
豊のあかりにゆう園の日蔭草 はえささまりける。

<玉葉和歌集13恋>

いひたえにける女に五節の頃ひかげの糸をときてとらすとて

思えとも
ひかげの糸の くりかえし
たえにしふしのつらくもあるかな

<夫木和歌集
28>

日かげもて
軒はふくてふ たましずめ ながき世かけて 猶まつれとや

京極為兼

さばかりや
木の下くらき おく山に あるべくもなき 日かげかな

葉室光俊

あかねさす
日影のかずら 千代かけて をとめさすひも いはふ頃かな

藤原行能

消え残る
垣根の雪の ひまごとに 春をもみする ひかげ草かな

慈鎮和尚

<続後選
3-856>

奥山の
ひかげのかずら かけてなど思わぬ人は乱れそめけん

<後拾遺
5-1123>

あかねさす
朝日の里の日蔭草 豊の明かれの光なるべし

5-秋、上>

日影さす
岡辺の松の 秋風に 夕暮れかけて鹿ぞなくなる

19
5
>

ひかげ草
輝く影や まがひけん ますみの鏡 くもらぬものを

<玉葉
5-1725>

思へどもひかげのいとの繰り返し
絶えにし節のつらくもあるかな

<六帖>

をとめ子ずひかげの上に降る雪は花のかざしにいずれ違へり

<東雅>

をかせは機糸なり、山谷の間に生じて糸の如くなるをいふなり、

<公事根源
下 新嘗会
>

卜食の人々、摺衣、日影を着す

古文に、[ひかげ]とあるは、さるおがせを云う場合がある。しかし、ヒカゲノカズラであると読めるものあり、混同している情況である。また、「ツクツクボウシ、フデバナ、ホウシコフデツバナ」というのは、ツクシ土筆とするを正とするが、ひかげのかずらを言っていると思われることもある。コケ蘿は地上に生える隠花植物全般をいうので、にかげかずらも包含する。

<重修本草綱目啓蒙
16
>

石松 キツネノオガセ・ヒカゲノカズラ・カミダスキ・サガリゴケ・ヒカゲグサ・ヤマカズラ・キツネノタスキ・ヤマウバノタスキ・サルオガセ・テングノタスキ

山中ニハヒテ生ズ、ソノ蔓長さ五七尺枝多ク分ル、葉ハ土馬駿ニ似手、黄緑色ナリ、四月枝ノ梢ゴトニ穂ヲ生ズ。玉柏ニ異ナラズ。

<源氏物語
48
早蕨>

字理のもとより、年改まりては、なにことかおはすますらん、御いのりはたゆみなくつかうまつり侍り、今はひと所のおんことをなん、やすらかずねんじきこえさするなと聞えて、蕨つくずくしおかしきこにいれて、これはわらはびのくやうじて侍る、はつも成とてたてまつれり。

<夫木和歌抄
28
土筆>

貞応3年百首草

さほひめのふでかとぞみる
つくじくし 雪かきわけくる春のけしきは

<宣胤御記>

文明十二年二月十三日甲子、橋本羽林相伴、行河原土筆、今日於河東荊、指北堀上橋本羽林来、夕喰土筆賞翫之

用途

[儀式用]
年中枯れずに緑を保っているので、目出度く、神聖な植物として扱われる。神事との関わりが多く、今でも京都の伏見稲荷の大山祭、奈良県の率川神社の三枝祭ではヒカゲノカズラを頭に挿して舞う。平安以降は神紙に糸を結んだものをヒカゲと言って代用する様になった。宮中で儀式に用いられる卯杖とはウツギの枝にセキショウとヤブコウジをヒカゲノカズラで飾り結んだものを挿したものである。西洋でも、クリスマスツリーに、或いは結婚式の席に飾りつけられる。

[薬用]
ヒカゲカズラの胞子を石松子と称し、油分50%と多く水を弾く作用があるので、直接は止血の為傷口に撒布したり、丸薬の製造する時使用する。なお、カメラレンズの磨き、刀剣の打粉、塗料の混剤、線香花火に、油様成分はDiacylglycerel-trimethylhomocerineである。


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