Ad-07. ちがや

123

Ad-07. つばな 茅花、あさぢ 浅茅

茅 茅萱 白茅 チガヤ

漢名: 茅草 白茅ハクボウ

[万葉集記事]

チガヤ

08-1440 つばな

08-1460 つばな

08-1461 後書

08-1462 つばな

16-3887 茅草

以上5

アサジ

03-0333

06-0940

07-1179

07-1342

07-1347

08-1449


08-1514

08-1540

08-1578

08-1654

10-1880

10-2158


10-2186

10-2190

10-2207

10-2331

11-2466

11-2755


11-2835

12-3050

12-3057

12-3063

12-3196

以上23







合計28

() 08-1460

紀女郎、大伴家持に贈れる歌


戯奴之為 若手母須麻尓 春野尓 抜流茅花曾 御食而肥座


戯奴わけがため わが手もすまに 春の野に 抜ける茅花つばなを食して 肥えませ

注釈

戯奴=人称代名詞、自称の場合は卑下していう。若と同根、変じてワケという。

須磨に=絶え間なく、手を休める暇も無く.

茅花=チガヤの出穂、春時つばなは花穂を抽出するが、この若いうちは甘くて美味である、引っ張ると抜ける。此れから抜き打ちの刃先を「津花の穂先」という。津花は美人への贈り物とし、女性の思いを打ち明ける毛詩邯風”遊女”に基づく。

()07-1179

羇旅にして作れる


家尓之弖 吾者将恋名 伊南野乃 浅茅之上尓 照之月夜乎


家にして 吾は恋ふなむ 印南野いなみのの 浅茅が上に照りし月夜つくよ

注釈

浅茅=背丈の低い茅萱などの草。

印南野=現在の兵庫県明石市から加古川市の一帯

() 11-2486

ものに寄せて思いを陳ぶ 是に似た歌あり


浅茅原 小野尓 標縄由印 空言 何在云 公侍


浅茅原あさぢがはら 小野に標縄しめゆふ 空言そらごとをいかなりと いひて君を待たしむ

注釈

浅茅原=浅茅(草丈の低い茅)がはえている野原。

標縄結う=土地の領有・場所の区画を示すための標識。また不浄なものが入らないように示した標識。藁を左捻りにし、三・五・七筋に藁を垂らし、その間に紙四手カミシテを垂らす。即ち「七五三縄」、”しめいふう22おヲ地胡背丈の低い茅萱などの草。

印南野=現在の兵庫県明石市から加古川市の一帯とは標縄を張ること、自分の勢力範囲を示すこと、

空言=実のないことは、うそ。

[概説]

{かや}とは古語で数種の植物が候補に挙げられるが、本項では、草本のカヤを取り扱うもので、これにも屋根を葺くための萱、と草丈の低い茅あり、本項で扱うのは茅のほうである。茅ちがやは、刈取って乾燥してから、建屋の仕切り壁などに使われるほか、柔軟性を活かし蓑や雪靴に編上げられる。

チガヤは、日当たりさえよければどんな土地でも、乾性の痩地の方がかえってよく生え、一面に広がる。万葉集にはチガヤ・ツバナ・アサヂの名前ででてくる。この浅茅の主体はチガヤであるけれども、ときには芝を混同することがあるし、またカヤツリグサ科の[すげ]を同義に含めることもある。浅茅あさぢとは背丈の低い、或いは萌えだしの頃の茅をいい、その生えている草原が浅茅原あさぢがはらである。この原ッパは蜻蛉やバッタなどの昆虫、兎のような小動物までが遊び場とする陽気な広場であり、秋になれば萩や小菊の花が咲き、茸が顔を出せばメルヘンの世界で、白雪姫とダンスを興じそうな場所である。が、植物の名前はそうでもなく、{}という字の語幹の矛ホコは、人を突くための古代の武具でり、カヤの出葉を矛に見立てた造語である。文献上のカヤの初見は<日本書紀>の記述もそうであるが、その以前に、<古事記>神々の生成「次生風神、名志那都比古神、次生木神、名久久能智神、次生山神、名大山上津見神、次生野神、名鹿屋野比売神、亦名謂野椎神>の談で賀屋野比売神カヤノヒメ茅之姫神と読める。茅花ツバナのツ()は、千の義或いは血の義と於ける。戦乱の都で、家屋が焼け落ち兵共の死骸が白骨となり放置された侭の屋敷跡に、茅が血を吸うて伸びる、なんとなく怖ろしげな光景である。

<日本書紀>

天細女命手持茅纏之鎖、立於天岩窟戸之前巧作俳優

<古事記歌謡 111>

浅茅原 小谷を過ぎて百伝ふ 鐸ゆらぐも 置目来るらしも

<本草和名 8>

茅根、一名蕑根、一名茄根、一名地菅、一名兼杜、一名白茅、一名白華、一名シ欶杜、一名三稜、一名野菅、一名兼根、一名地根、一名白羽草、一名地煎、和名知乃禰

<和爾雅 7 草本>

白茅、茅針、夷ツバナ

<本草綱目>

茅花=白茅、葉茅のごとし、ゆえにこれを茅ち云う、白花を開く。

<大和本草>

白茅チガヤつばな 本草蘇頌曰春生茅如針。俗曰之茅針小児好んで食す

<書言字考節用集 6>

茅 白羽草、鈄チガヤノキ、荑ツバナ、茅針ツバナ、茅花、秀茅

<日本釈名 下草>

茅花ツバナ チはな也。つとちと通ず、ちはちがや也、ちがやとは血の色の如く赤き故なり。かやとはかりて屋根を葺くなり。又つばなを尾花とも云、けだものの尾の如し。

<東雅 15 草卉>

菅、茅、萱、 古の時にチと云いしもの、即今チガヤといい、またツバナとも居ひて、万葉集に茅花としるせしは、彼にして茅針といふもの即是也。

<和漢三才図会 92 山草>

白茅根名茹根、蘭根 地筋 茅 按茅生原野堤塘、春月児女抜茅針野遊

<宜禁本草 乾 薬中草>

茅根 甘寒補中益気、徐悪血血閉寒熱、利尿下淋、止渇堅筋久服人、茅針主悪傷未,煮服

<重修本草綱目啓蒙 8 山草>

白茅 チ、ハクウソウ、チガヤ、ヲモヒグサ、アサヂ、ミチノシバクサ、ツンバネ、カニスカシ、ツバ、ツバウバナ、一名過山龍、茅草、茅柴、秀茅、苦菜、兼杜、一名秋茅、隋地皆あり、葉は稲葉の如にして薄く、長さ一尺或三四尺叢生す、春新苗出るとき、葉中に花を包み細筍の如し、これを茅針と云。一名茅筍、茅櫃、荑、荑第、ツバナと呼ぶ、ちばな也、今の人、草の名をツバナと呼ぶは誤りなり、小児茅筍を取り、嫩穂を出して喰う。集解にも小児に益すと云、夏になれば穂長出て狗尾草エノコログサの穂より長く白く、絮あり、此の絮をとりて焔硝を加え、煮て赤く染めて火口とす、又焼酎にて煮製するもあり。

チガヤは春に花穂を出すが、この若いうちのものをツバナまたチバナと称し、僅かに甘いので昔時の小児はこれを引っ張って抜き採り、好んで噛んだものである。これを“つばなを抜く”と表現する。食に適する期間は極めて短く、ほんの少し時期を逸するとエグ味が増してくる。花穂が出揃うと原一面が白く見えるので、白茅或いは白羽草の名が着いた。

[植物 ]

チガヤ Imperata cylindrical Beauv. var. koenigii Durand.et Schinz., Saccharum koenigii Retz., I. cylindrical var. major C.E.Hubb., I. koenigii Beauv.

日本全土の河原や草原など日当たりのよい乾いた荒地に群生する多年草。根茎は白く地中を長く這い、その節々の先に腺形の葉を出す.晩春に花穂をつけ、後に3060cmに長く伸びて、白い毛を密生して、一斉に風にそよぐ様は大層美しい。小穂は長さ3mm程度で、柄の先に1個づつつき、つけ根には長い絹毛がある。葉は長さ30cm位,普通種は茎の節に毛があり、フシケチガヤといい、毛の無いものをケナシチガヤと区別している。

補注;

. この種はサトウキビに近く、地下茎や花穂は甘みがある。

2. 穂の毛は絹のように、しなやかで艶がある。苞と2枚の頴の上に生える。節にも1cm位の絹糸状の毛が生える。この毛がないものがケナシガヤである。

[名前]

「語源」:

(i) 小さい茅の意。

(ii) 沢山 千 の茅。

(iii) 乳の味がする。(iv)渡来 朝鮮語 tuiから、

古典によっては、おもいぐさ (ナンバンギセル) を想定した方がよい場合がある。チガヤは 魔よけの呪力ありとされた。 

<大言海>

ち は千なり、即ち茅が密生する。

<本草綱目>

白茅 葉如矛 故之言茅 開白花 又日大清経 一名白羽草 和名知 蘇頌曰 春生芽如針

「学名」

imperator=威圧する。睥睨する。Cylindricus=円柱状の

「古名」

あさじ≒阿佐遅 ちがや=茅草、白茅 

「別名」

茅・蓑茅・真茅・道芝草・白葉草・芝茅・茅花・せにこ・つば

「漢語」

白茅・秀茅・茅芝・苦菜・兼社・過山竜、菅萱、糸糸茅、芽茅根、

[古文]

<方丈記>

あさぢふの野辺にしあれば水もなき、池につみつる若菜なりけり

これは六十、その齢ことのほかなれど、こころを慰むること、これ同じ。或いはつばなをぬき、岩梨をとり、雰余子ぬかごをもり、

<源氏物語 蓬生5>

あさぢは庭の面もみえず繁り、蓬は軒をあらそひて生ひのぼる。

<枕草子 66>

しのぶ草いとあわれなり、道芝、いとおかし、茅花もおかし、なずな、苗、浅茅

<古今和歌集505>

浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど 余りてなどか 人の恋しき

<新古今和歌集 345>

うらがるる浅茅が原のかるがやの乱れてものを思うころかな

657>

矢田の野に浅茅色づくあらち山嶺の淡雪 寒くぞあるらし

<後選和歌集 9-578>

浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど 余りなどか 人の恋しき

源 等

<金槐和歌集 221>

うずら鳴くふりにし 里の浅茅生にいく夜の秋の露かおきけむ

512>

あさぢ原あだなる霜の 結ばはれ 日かげを待つに消えやわたらむ

<夫木和歌集 28-10>

露結ぶ 秋には早く 成にけり 浅茅がはなの うつろふみれば

藤原 籟季


印南野の 浅茅押しなみ さ寝し夜の 日長くなれば 家し偲ばる

山辺 赤人


夢かとも さとの名のみや 残るらん 雪も後なき 小埜の浅茅生

藤原 定家


ふる川の 岸のあたりの あさへさに つばな浪よる 夏の夕暮

藤原 為家


春も過ぎ 夏もきぬらし のべに出て津花抜きにも 誰を誘わん葉室

光俊


つばな抜く 浅茅原も 老いにけり 白わたひける 家と見るまで曾禰

好忠

<平家物語 5>

旧き都を着てみれば、浅茅が原のつぼすみれ いまさかりなり わがこふらくは、

<更科物語>

いづことも露のあわれはわかれじを 浅茅が原の秋ぞかなしき

<蜻蛉物語 270>

深草はたれも心にしげりつつ、浅茅が原の露と消えぬべし

<新撰六帖>

つばなぬく あさ茅かわらの壷菫 いま盛りなり わがこふらくは

衣笠内大臣

<堀河院百首>

昔見し いもか垣根はあれにけり つばな抜くへく なりしそしぬらし

権大納言公卿

<曾丹集>

茅花ぬく 浅茅が原も 老いにけり しろ錦引ける野辺人とみるまで

<宋長日記>

手のかんなに及ばねば 茅を結びて千早振る 神さびわたる 栖すみかなり


いつことも 露のあわれはわかれじを 浅茅が原の秋悲しき

<山家集 月>

浅茅は葉末の玉ごとに光りちりぬる秋のよの月


野邊になりて しげきあさぢを 分け入れば 君が住みける石ずえの跡

<天理本金剛般若経集験記平安初期点(850年ころ)>

其の屋の干渉の内茅簷ヒサシと乎ヒノ

<金剛波若集験記古点>

明に至り乱草および茅ならび灰燼となる

<俳諧>

夕風や 茅萱折ふす 霜のさへ



茅花ぬく 小管か禿いや痩せし

暁台


川原や 茅花みだれて 日は斜め

蘭更


いく春や ほうけ立ちたる茅花原

紫影


春の水 すみれつばなを 濡らしゆく

蕪村


一番に 乙鳥のくぐる茅の輪かな

一茶


三日月の ほのかに白し茅花の穂

子規


狂いても 女茅花を 髪にさし

三橋 鷹女

[用途]

[用材]

屋根葺用、蓆,蓑,刷毛、

[食用]

花穂・地下茎、若い白い部分、08-1460に,紀の女郎が茅花を食べませと勧めるところがあるが、そのような格別の栄養があると思えない。

[薬用]

漢方で、根茎の乾燥したものを、白茅根ハクボウコン Imperatae Rhizoma と称して、強壮・止血・利尿・発汗の目的に用いる。

成分:トリテルペノイド simialnol,cylindrin,aundrin,fernenol