Ad-07.
つばな
茅花、あさぢ 浅茅
茅
茅萱 白茅 チガヤ
漢名:
茅草 白茅ハクボウ
[万葉集記事]
チガヤ |
08-1440 |
08-1460 |
08-1461 |
08-1462 |
16-3887 |
以上5首 |
アサジ |
03-0333 |
06-0940 |
07-1179 |
07-1342 |
07-1347 |
08-1449 |
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08-1514 |
08-1540 |
08-1578 |
08-1654 |
10-1880 |
10-2158 |
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10-2186 |
10-2190 |
10-2207 |
10-2331 |
11-2466 |
11-2755 |
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11-2835 |
12-3050 |
12-3057 |
12-3063 |
12-3196 |
以上23 |
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合計28首 |
(一) |
紀女郎、大伴家持に贈れる歌 |
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戯奴之為 |
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戯奴わけがため |
注釈
戯奴=人称代名詞、自称の場合は卑下していう。若と同根、変じてワケという。
須磨に=絶え間なく、手を休める暇も無く.
茅花=チガヤの出穂、春時つばなは花穂を抽出するが、この若いうちは甘くて美味である、引っ張ると抜ける。此れから抜き打ちの刃先を「津花の穂先」という。津花は美人への贈り物とし、女性の思いを打ち明ける毛詩邯風”遊女”に基づく。
(ニ)07-1179 |
羇旅にして作れる |
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家尓之弖 |
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家にして |
注釈
浅茅=背丈の低い茅萱などの草。
印南野=現在の兵庫県明石市から加古川市の一帯
(三) |
ものに寄せて思いを陳ぶ |
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浅茅原 |
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浅茅原あさぢがはら |
注釈
浅茅原=浅茅(草丈の低い茅)がはえている野原。
標縄結う=土地の領有・場所の区画を示すための標識。また不浄なものが入らないように示した標識。藁を左捻りにし、三・五・七筋に藁を垂らし、その間に紙四手カミシテを垂らす。即ち「七五三縄」、”しめいふう22おヲ地胡背丈の低い茅萱などの草。
印南野=現在の兵庫県明石市から加古川市の一帯とは標縄を張ること、自分の勢力範囲を示すこと、
空言=実のないことは、うそ。
[概説]
{かや}とは古語で数種の植物が候補に挙げられるが、本項では、草本のカヤを取り扱うもので、これにも屋根を葺くための萱、と草丈の低い茅あり、本項で扱うのは茅のほうである。茅ちがやは、刈取って乾燥してから、建屋の仕切り壁などに使われるほか、柔軟性を活かし蓑や雪靴に編上げられる。
チガヤは、日当たりさえよければどんな土地でも、乾性の痩地の方がかえってよく生え、一面に広がる。万葉集にはチガヤ・ツバナ・アサヂの名前ででてくる。この浅茅の主体はチガヤであるけれども、ときには芝を混同することがあるし、またカヤツリグサ科の[すげ]を同義に含めることもある。浅茅あさぢとは背丈の低い、或いは萌えだしの頃の茅をいい、その生えている草原が浅茅原あさぢがはらである。この原ッパは蜻蛉やバッタなどの昆虫、兎のような小動物までが遊び場とする陽気な広場であり、秋になれば萩や小菊の花が咲き、茸が顔を出せばメルヘンの世界で、白雪姫とダンスを興じそうな場所である。が、植物の名前はそうでもなく、{茅}という字の語幹の矛ホコは、人を突くための古代の武具でり、カヤの出葉を矛に見立てた造語である。文献上のカヤの初見は<日本書紀>の記述もそうであるが、その以前に、<古事記>神々の生成「次生ニ風神、名志那都比古神一、次生ニ木神、名久久能智神一、次生ニ山神、名大山上津見神一、次生ニ野神一、名鹿屋野比売神一、亦名ニ謂野椎神一>の談で賀屋野比売神カヤノヒメ茅之姫神と読める。茅花ツバナのツ(チ)は、千の義或いは血の義と於ける。戦乱の都で、家屋が焼け落ち兵共の死骸が白骨となり放置された侭の屋敷跡に、茅が血を吸うて伸びる、なんとなく怖ろしげな光景である。
<日本書紀> |
天細女命手持ニ茅纏之鎖一、立ニ於天岩窟戸之前一巧作ニ俳優一 |
<古事記歌謡 |
浅茅原 |
<本草和名 |
茅根、一名蕑根、一名茄根、一名地菅、一名兼杜、一名白茅、一名白華、一名シ欶杜、一名三稜、一名野菅、一名兼根、一名地根、一名白羽草、一名地煎、和名知乃禰 |
<和爾雅 |
白茅、茅針、夷ツバナ |
<本草綱目> |
茅花=白茅、葉茅のごとし、ゆえにこれを茅ち云う、白花を開く。 |
<大和本草> |
白茅チガヤつばな |
<書言字考節用集 |
茅 |
<日本釈名 |
茅花ツバナ |
<東雅 |
菅、茅、萱、 古の時にチと云いしもの、即今チガヤといい、またツバナとも居ひて、万葉集に茅花としるせしは、彼にして茅針といふもの即是也。 |
<和漢三才図会 |
白茅根名ニ茹根一、蘭根 |
<宜禁本草 |
茅根 |
<重修本草綱目啓蒙 |
白茅 |
チガヤは春に花穂を出すが、この若いうちのものをツバナまたチバナと称し、僅かに甘いので昔時の小児はこれを引っ張って抜き採り、好んで噛んだものである。これを“つばなを抜く”と表現する。食に適する期間は極めて短く、ほんの少し時期を逸するとエグ味が増してくる。花穂が出揃うと原一面が白く見えるので、白茅或いは白羽草の名が着いた。
[植物
]
チガヤ Imperata
cylindrical Beauv. var. koenigii Durand.et Schinz., Saccharum
koenigii Retz.,
I. cylindrical var. major C.E.Hubb., I. koenigii Beauv.
日本全土の河原や草原など日当たりのよい乾いた荒地に群生する多年草。根茎は白く地中を長く這い、その節々の先に腺形の葉を出す.晩春に花穂をつけ、後に30~60cmに長く伸びて、白い毛を密生して、一斉に風にそよぐ様は大層美しい。小穂は長さ3mm程度で、柄の先に1個づつつき、つけ根には長い絹毛がある。葉は長さ30cm位,普通種は茎の節に毛があり、フシケチガヤといい、毛の無いものをケナシチガヤと区別している。
補注;
1.
この種はサトウキビに近く、地下茎や花穂は甘みがある。
2.
穂の毛は絹のように、しなやかで艶がある。苞と2枚の頴の上に生える。節にも1cm位の絹糸状の毛が生える。この毛がないものがケナシガヤである。
[名前]
「語源」:
(i) 小さい茅の意。
(ii) 沢山
千 の茅。
(iii) 乳の味がする。(iv)渡来
朝鮮語 tuiから、
古典によっては、おもいぐさ
(ナンバンギセル)
を想定した方がよい場合がある。チガヤは
魔よけの呪力ありとされた。
<大言海> |
ち |
<本草綱目> |
白茅 |
「学名」
imperator=威圧する。睥睨する。Cylindricus=円柱状の
「古名」
あさじ≒阿佐遅 ちがや=茅草、白茅
「別名」
茅・蓑茅・真茅・道芝草・白葉草・芝茅・茅花・せにこ・つば
「漢語」
白茅・秀茅・茅芝・苦菜・兼社・過山竜、菅萱、糸糸茅、芽茅根、
[古文]
<方丈記> |
あさぢふの野辺にしあれば水もなき、池につみつる若菜なりけり これは六十、その齢ことのほかなれど、こころを慰むること、これ同じ。或いはつばなをぬき、岩梨をとり、雰余子ぬかごをもり、 |
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<源氏物語 |
あさぢは庭の面もみえず繁り、蓬は軒をあらそひて生ひのぼる。 |
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<枕草子 |
しのぶ草いとあわれなり、道芝、いとおかし、茅花もおかし、なずな、苗、浅茅 |
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<古今和歌集505> |
浅茅生の |
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<新古今和歌集 |
うらがるる浅茅が原のかるがやの乱れてものを思うころかな |
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657> |
矢田の野に浅茅色づくあらち山嶺の淡雪 |
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<後選和歌集 |
浅茅生の |
源 |
<金槐和歌集 |
うずら鳴くふりにし |
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512> |
あさぢ原あだなる霜の |
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<夫木和歌集 |
露結ぶ |
藤原 |
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印南野の |
山辺 |
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夢かとも |
藤原 |
|
ふる川の |
藤原 |
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春も過ぎ |
光俊 |
|
つばな抜く |
好忠 |
<平家物語 |
旧き都を着てみれば、浅茅が原のつぼすみれ |
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<更科物語> |
いづことも露のあわれはわかれじを |
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<蜻蛉物語 |
深草はたれも心にしげりつつ、浅茅が原の露と消えぬべし |
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<新撰六帖> |
つばなぬく |
衣笠内大臣 |
<堀河院百首> |
昔見し |
権大納言公卿 |
<曾丹集> |
茅花ぬく |
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<宋長日記> |
…手のかんなに及ばねば |
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いつことも |
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<山家集 |
浅茅は葉末の玉ごとに光りちりぬる秋のよの月 |
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野邊になりて |
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<天理本金剛般若経集験記平安初期点(850年ころ)> |
其の屋の干渉の内茅簷ヒサシと乎ヒノし |
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<金剛波若集験記古点> |
明に至り乱草および茅ならび灰燼となる |
<俳諧> |
夕風や |
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茅花ぬく |
暁台 |
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川原や |
蘭更 |
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いく春や |
紫影 |
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春の水 |
蕪村 |
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一番に |
一茶 |
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三日月の |
子規 |
|
狂いても |
三橋 |
[用途]
[用材]
屋根葺用、蓆,蓑,刷毛、
[食用]
花穂・地下茎、若い白い部分、08-1460に,紀の女郎が茅花を食べませと勧めるところがあるが、そのような格別の栄養があると思えない。
[薬用]
漢方で、根茎の乾燥したものを、白茅根ハクボウコン
Imperatae
Rhizoma と称して、強壮・止血・利尿・発汗の目的に用いる。
成分:トリテルペノイド
simialnol,cylindrin,aundrin,fernenol