Ad-08. みちしば

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Ad-08. みちしば:道之志婆草

道芝 ミチシバ・チカラシバ・カゼクサ

漢名: 結縷ケツル草 

[万葉集記事] 

06-1048

11-2777

の2首

() 06-1048

反謌ニ首の一


立易 古京跡 成者 道之志婆草 長生尓異煎


立ち代り 古き都となりぬれば、道之芝草 長く生にけり

注釈

立ち代り=うつり変わり

芝草=雑草。いま、ゴルフ場などで敷き生えているシバとは違う。和名抄・名義抄などに莱草と書いてある。

() 11-2777


疉薦 隔編数 通者 道之柴草 不生有申尾


畳薦たたみこも へだて編む数 通かよはさば 道のしば草 生ひざらましを

注釈

畳薦=畳にするコモ草

へだて編む数=畳薦は数節ずつ間隔を置いてあみわけるので、同じ用に、動作を繰り返し繰り返し行なう動作。

[概説]

シバと云うと、現代では庭園やゴルフ場に植栽される敷草の所謂 シバ を想定するのであるが、日本古来でいう芝とは山野路傍に生える雑草全般のことである。本邦にもシバは存在した。然し、日本には、家畜を飼いその毛を刈り織るとか、殺して食肉にするとかの業職が発達しなかったので、放牧というものがなく従って牧草にシバついての配慮はなく、運搬用の馬は道端に生えている草を毟り食う程度であった。普通、藁を刻んでこれに稗や豆を混ぜて牛馬の飼料とするのであるが、稲作をするまでもない貧乏百姓は、山野に生えている草を刈り取って乾燥し、これを冬季の備蓄用とした。よく乾燥した干草は暖かく、よい香りがした。故にこの草を美草ウマクサと言い、雑草の多くはイネ科の植物であったから、手を汚さないで刈り取れる葉の細長い草を 美草 として、道芝と言われるようになった。

シバには柴と芝があり、柴は潅木を指すのであるが、集で掲げている“柴草”のように判然たる区別はなかったとおもわれる。その他植物に限ることなく、仮令してその様に言う場合もある。

(1) 道端に生えている芝草、芝に似て穂の細長い、例えば風知草(知風草)

<宇津保(970999>

俊陰 葉ずゑこそ秋をもしろめねをふかみ それみちしばのいつか忘れん

<新古今(1205)秋下515

とふ人も嵐吹きそふ 秋は過ぎて 木の葉にうづむ 宿のみちしば

俊成女

<幸若とかし(室町末)>

都の上とはなさずして 北国の道芝となさむこと口惜しけれ

(2) 道の案内をすること

<夜の寝覚め(104568)>

そは、みちしば要るべきことにも 侍からざりつるもの

<とばずがたり(14c)>

又まゐる人のいたしいねも 人のゆうにしさいがましく申すべき

<俳諧 広野(1689)>

序 道芝のみちしるべせむと此野の原の野守とは

(3) 道のことを詩歌に用いる

<浮世草子 小夜衣(1683)>

別帰恋 立別れ帰りに道芝の行先とてもさだかならず

現在、吾人がゴルフ場などで、普通芝と称する植物はイネ科のシバ属のシバZoysia japonicaならびにコウライシバZoysia matrella var.tenuifoliaで、これはグリーンに植えられて、ラフには野生種のオニシバZ.sinica var.nipponicaも目につくところである。日本産の芝は冬季に地上部が枯れてしまうので、西洋芝(ベント)のグリーンに交代する。それ等は元来牧草として育成されていたBentgrass astria., B.highland.,またBermudagrassであるが、最近は交配されたゴルフ場専用の種があるという。シバと名前が付く植物はオヒシバ、メヒシバ、トダシバ、ギョウギシバ、チカラシバetc.数多くある。そして、表題のミチシバMelica onoeiの草は、あまり目立たないが現に存在している。其の他、別名が登録されているものに、スズメガヤ属のカゼクサEragrostis ferragineaがある。此の草は踏みつけられても何回も立ち直る位頑丈なくせに、葉が少しの微風でもそよ動く繊細なとろがあり、これを愛でてて、風草・風知草(知風草)・力草と呼ばれて園芸種に栽培され、かつ古文学に採用されている。また一種、チカラシバPennisetum alopecuroidesはその分穂に特徴があり、路傍に株立って生えるものがあり、狼尾草・大尾芝などの別名を以って知られている。本種を道芝とする主張は、例えば、大貫茂著 万葉植物事典 株クレオ 1998; 木村陽二郎著 図説草木名彙辞典 柏書房1991に、11-2777の道芝はチカラシバが相応すると述べている。本書でも、力芝の方が迫力があるのでこれを表題着色図に採用した次第である。なお、蛇足であるが、樹木の椰ナギのことをチカラシバと異名がついて紹介されている古文もある。

<和爾雅>

知風草チカラクサ 彙苑詳註云 南海有草叢生如藤蔓、土人視其節以占一歳之風、毎一節一則風、無節則無風、出瓊州廣志、今按大明統志州府土産亦有知風草此文同焦氏類林、潜確類書亦載此草

<大和本草>

知風草 葉も茎も茅に似たり、倭俗曰く其茎に節ありて其年大風吹く、本にあるのは春吹く、中にあれば夏秋吹く、末にあれば冬大風ふく、二節あれば二度吹く、節なければその年大風吹かずと。節の天は人の指のフシに似たり。

[植物]

ミチシバ Melica onoei Frarch et.Savat.

関東以西の本州・四国・九州・朝鮮・中国に生える多年草、稈は枝を分けることなく、基部から直立し、高さ90150cm.十数個ある節の殆どが根元近くにあり、数珠を連ねたように葉鞘が膨らんでいる。葉身はやや硬く長さ1530cm410mm,葉鞘は完筒形で屡々下向きの毛を生ずる。葉舌は高さ0,20.5cm。円錐花序は長さ2040cm 中軸は細く先は傾き枝は半輪生状、小穂はまばらにつける。小穂には細い柄があり、下向きに垂れ、長さ69mm、 小花は3~5個あるが上方のものは退化小花となる。おしべは3個葯は長さ1mm余。熟せば苞穎を遺して、小花毎に散る。


カゼクサ Eragrostis ferruginea(Thunb,ex.Murrat)Beauv. スズメガヤ属

Poa ferruginea Thunb, P.barbata Thunb. E.barbata thumb, E. Orientalis Trin. E.thunbergii Koidz.

東アジア,ヒマラヤ・中国・朝鮮に広く分布、日本では本州・四国・九州の日当たりのよい空き地・道端に普通生える中型の一年生雑草。根張りは強く、屡々大株を造る。葉は根元に集り、長さ2040cm,28mmで葉身の基部の上面に白い長い毛が生える。葉鞘は平坦。花序は810月に葉間から花茎を抽出し、円錐状に開く、小穂は、披針長楕円形に間隙をあけて着き、紫褐色で艶があり、長さ610mm510個の小花をつける。小穂の柄の途中に膨らんだ線が特徴。


補注;

1. 葉の表面の基部の方、葉鞘の上部などに柔らかく長い毛がある。

2. 葉・茎は軟らかくそよ風でも、揺れるということで、風草(風知草)の名がついた。或いは茎の結節が 葉の上部に出来る年は台風が多く来るとの言い伝えがある。

3. この葉が鮮緑色のもの、虎斑のあるものは、草物盆栽に植えられる。


チカラシバ Pennisetum alopencuroides Spreng 別名 狼尾草イネ科チカラシバ属

Panicum alopecuroides L. Alopecurus hordeformus L. Pennisetum compressum R.Br. Gymnoyhrix compresse Brongen

東南アシア・中国・台湾・インドネシアに分布し、日本では北海道~琉球にいたる。日当たりのよい荒地に見られる草丈3080cmの多年草。冬季は地上部は枯れる。概ね径4090cmの群塊を造り、草株は強固に根を張っていて、余ほど力を入れなければ引き起こせないことから、この名が着いた。葉は殆どが根生葉で長さ3060cm,510mmの線形、濃緑色、全体に短い硬毛に覆われて先端は尖る。初秋に稈の先に長さca15cm太さ径45cmのブラシュ形の円柱花穂を出す。色は淡緑色(アオチカラシバform. Viridesenn Ohwi. ),暗赤色(ベニチカラシバform.erythrochaetum Ohwi.)のものもあるが、多くは帯紫褐色である。小穂は紡錘形で、長さ23cmの芒を付け、数個集まって総苞に包まれている。(エノコログサ型の実は総苞とともに脱落する。)総苞片は芒の集合したもので、第1頴は小さく、第2・3頴は膜質、第4頴は洋紙質で両性花が入る。花穂を指でしごくと小穂が栗のイガのように採れて、昔の子供達が遊んだものである。

補注;

1. 花穂には長髭毛チョウシュモウがあり、ブラシ状になる。髭毛は花が退化したものである。

2. 小穂は両性花1個と果実の実らない不稔性花1個からなる、

3. チカラシバ属は世界の熱帯から温帯に約130種、日本には2種あるが、外来種も見当たる。

エダウチチカラシバ P.alopecuroides var. triflorum Staf.

シマチカラシバ P.sordidum Koidz.

[古典]

チカラシバ

<菅江直澄遊覧記(17891809)>

楚楮賀浜風 これは道草といふ草にて


<重訂本草綱目啓蒙19(1884)>

穀 「狼尾草」ろのろぐさ、ちからしば、みちしば


<物品識名(1809)>

チカラシバ、キツネノツバナ、狼尾草


<日本植物名彙(1889)>

チカラシバ、戻草


<春のことぶれ(1930)>

釈迢空 わが心 むつかしけり 砂の上の力芝をぬきかねてなり。

ミチシバ.

<新古今和歌集1-97>

花ぞ見る道の芝草ふみわけて 吉野の宮の春のあけぼの

藤原季能


8-794>

ふるさとを 恋ふる涙や ひとり行く 友なき山の みちしばの露

前大僧正慈円


18-1787>

道芝の 露に争ふ わが身かな いづれかまずは 消えんとすらむ

藤原実頼



訪ふ人もあらし吹添ふ秋は来て この葉に埋む宿の道芝

藤原俊成



駒は夏も野べのうなゐか芝くらべ 長き日くらすこれやなぐさめ

藤原知家


<謡曲本 定家>

心の奥の信夫山 忍びで通う道芝の 露の切語由ぞなき


<夫木和歌抄28 10

踏そめし後はたのまん春日野の 道之芝草 ことしげくとも

藤原為氏



夏山の 河上きよき 水の色の ひとつに青き 野辺の道芝

藤原定家

<俳句>

枯芝を 尻に背中に つけており

虚子


枯芝は 眼をもて撫でて柔らかし

富安風生


芝焼く火 見つつ心の定まらず

素十


公園の 芝山積もれる 犬の糞   

水木真貫

[用途]

全草を乾燥し、煎じて風邪薬とする。

風知草

虎斑のあるものなど、草もの盆栽にして鑑賞。 

占草 知風草チカラシバ

この草は風知草フウチソウ(道芝)とも呼ばれる 中国原産のものと思われる。