Ad-15.
すげ:須毛・須宜
スゲ
菅
カヤツリグサ・カンスゲ・カサスゲ・シラスゲ
漢名:
菅・薹・莎・椶・莞・
[万葉集記事]
スゲ |
04-0619* |
11-2456 |
11-2771 |
11-2772 |
11-2818 |
|
12-2862 |
12-3087 |
18-4116* |
|
|
スガ |
03-0299 |
03-0414 |
04-0580 |
04-0679 |
04-0791 |
|
06-0948* |
07-1250 |
07-1277 |
07-1341 |
07-1344 |
|
07-1373 |
08-1655 |
10-1921 |
10-1934 |
11-2473 |
|
11-2758 |
11-2819 |
12-2857 |
12-3052 |
12-3054 |
|
13-3284* |
13-3291* |
14-3369 |
16-3875* |
20-4454 |
スガモ |
07-1136 |
|
|
|
|
イワモトスゲ |
11-2472 |
02-0397 |
11-2761 |
|
|
コスゲ |
11-2470 |
11-2471 |
13-3323* |
14-3445 |
14-3498 |
|
14-3498 |
14-3564 |
|
|
|
シヅスゲ |
07-1284 |
|
|
|
|
シラスゲ |
03-0280 |
03-0281 |
07-1354 |
11-2768 |
|
ナナフスゲ |
03-0420* |
|
|
|
|
ミクマスゲ |
11-2837 |
|
|
|
|
ミシマスゲ |
11-2836 |
|
|
|
|
アリマスゲ |
11-2757 |
12-3064 |
|
|
|
ヤマスゲ |
04-0564 |
11-2474 |
11-2477 |
12-3051 |
12-3053 |
|
12-3055 |
12-3066 |
12-3204 |
12-3577 |
20-4484 |
(スガドリ) |
12-3092 |
|
|
|
|
*
は長歌
(一) |
高市連黒人謌 |
|
去来児等 |
|
白いざ児とも |
注釈
黒人=持統・文部時代の歌人、伝不詳。
真野=神戸市長田区東尻池町。
榛原=ハリが生えている原っぱ。ハリはハンノキかハギか、両説ある。
(ニ) |
大伴坂上郎女怨恨歌 |
|
押照 |
|
押し照る |
注釈
押し照る=難波にかかる枕詞。
難波の菅の=難波は菅の産地、
根もころに=植物の細かい根が土と一緒に凝り固まっている状態。菅の根が土に絡んでかたまっているところから、ねもころの序となる。
(三) |
草に寄せる |
|
真珠付 |
|
真珠つく |
注釈
真珠つく=玉をつける緒の意からヲチにかかる枕詞
越=不詳、遠いところという意味。
惜し≠持っているものをてばなしくたい感情。
(四) |
冬相聞 |
|
高山之 |
|
高山の |
注釈
凌ぐ=押し伏せて
消ぬと言ふべくも=消えてしもうといふべくも
(五) |
相聞 |
|
阿之我利乃 |
|
足柄の崖ママの |
注釈
崖ママ=押し伏せて
消ぬと言ふべくも=消えてしも
(六) |
真菅吉 |
|
真菅ますげよし |
注釈
真菅よし=すがに懸かる枕詞
宗我の河原=奈良県高市の曽我川の下流の河原
(七)18-4116 |
国の據久米朝臣広縄、天平勝宝元年閏五月二十七日本任に還り至りき、よりて長官の館に詩酒の宴を設けて楽し飲む、時に主人守大伴宿禰家持の作れる歌 |
|
伊夜末尓乃末 |
|
いや増しにのみ |
注釈
奈呉江=富山県射水市堀岡の辺り、
まかりて=貴人の下から退出する。
[概説]
菅(スゲorスガ)に関し、集には長歌・短歌併せて、なんと64首にも引用されている。現代の植物学で言うとカヤツリグサ科Cyperaceaeの就中スゲ属Carexに類する腺形の葉の植物であるが、万葉集に出てくる菅は、果たしてどの種に該適すべきか不明である。マスゲ・ハマスゲ・シズスゲ・コスゲ・イワモトスゲなどは歌調を整えるために附名させられたもので、学名にはそう云った植物はない。イワモトスゲ・ミクマスゲ・ミシマスゲ・アリマスゲ等はその生育している地の名前であろう。{ハマスゲ・コウボウムギは別項に上載}当該するものにシラスゲの名があるが、それは真榛原に生える歌題に合わせたので、学名のものとは違う。ましてやヤマスゲの歌を熟読すると、それは麦門冬(ユリ科のヤブランLiriope
platyphylla Wang & Tang またはジャノヒゲOphiopogon
japonicus
Ker-Gawl.)であってスゲの類でないとも言える。スゲは、実用的に蓑・笠・敷物に用いられるのであるが、同目的にはワラやカヤやイグサなどイネ科・イ科・ミクリ科に属するものも種々ある如く、今でも東南アジアの一部での雨具は、葉巾の広いのを笠に、比較的に狭いのを蓑にする様に、目的によって使分けがされる。スゲの類は軽いこと、光沢があるので笠や装飾品に用途がある。
菅は日本に古くから存在した証拠に、古文にその名が載っている。
<古事記 |
芦原のしこけき小屋に須賀たたみ、いやさや敷きて |
<古事記 |
天皇恋ニ八田若郎女一、賜ニ遺御歌一、八田の一本菅は |
<神楽歌> |
中臣の天の古須気を割きはらい |
<出雲風土記> |
すべてもろもろの山にある草本は、…麦門冬ヤマスゲ… |
<播磨風土記 |
敷草村、此村有レ山南方去ニ十里許一、有レ沢生レ菅作レ笠最良 |
<延喜式 |
御輿一具 |
日本に生育する菅には大小各種があるけれども,その小型を美称して“こすげ”(14-2489,
11-3471,
11-3470)としているのであり、さらに玉小管(14-3445)と重修飾して、或いは”ますげ”〈12-3087〉と言ったものもある。
古代にいう「すげ」にはコスゲ・カサスゲ・イトスゲなどカヤツリグサ科のスゲは勿論、キスゲ(ゆり科)コウボウ(イネ科)フトイ(イグサ科)等葉の細長い植物を含めている場合がある。集にヤマスゲを題とする歌が11首あるが、これは単に山に生える菅と解釈せずにユリ科のヤブランまたジャノヒゲ(麦門冬)であると唱える説がある。確かに枕草子など古典で<卯杖の様に頭などに包みて、山橘、日陰、山菅などうつくしげに飾りて>の場合は、麦門冬であろうが、集の山菅はカヤツリグサの類と読んだ方が妥当とみる。笠蓑に使うのは、スゲはカサスゲCarex
pumila Thumb.又はヤワラスゲC.
transversa
Boot
が最も普通であるが、集で美化表現であるとみられる白菅は(03-0280,03-0281,07-1354,11-2768)はシラスゲC.
donina
Spreng.というのは現にあり、また菅を乾燥して蓑笠の材料としたときカヤに比べて白味を帯びるので左様にいう例がある。産地の名前をつける例で”有馬菅(12-3064)”三島菅(11-2836)”難波菅(11-2819)”は夫々の土地で菅が採れて、その加工した笠が有名であった。三隈菅(11-3837)はその土地名と共に、三隈は水流が岸に向って入り込んだ処を言うので、そこに生える菅はイバラモの様な川藻でなかろうか。スガモPhyllospodix
iwatennis
Makino
という水生藻があるが、これはアマナと同じヒルムシロ科であって、(14-3498)の歌に適合するかもしれない。
菅類は一般に湿地に生育するが、山地に生える、例えばナキリスゲC.
lenta D.Don.アオスゲC.
breviculmis F.Br.
もあって、”奥山の菅”(03-0259,03-0297,04-0791,11-2761)はこれに該当し、また”高山の菅”(08-1655)にはワタスゲEriophorum
vaginatum
L.が詩情に合う。冬山には雪が積もり(03-0299,08-1655)、なお緑をたもっているのはカンスゲC.morrowii
Boot.である。
菅は実をつけないものであるから、(07-1250)に「この実を採りにいく」と書きある件について、これは麦門冬のことであるとの通論である。麦門冬は昔いうヤマスゲ
(大小二種ある、ジャノヒゲOphiopogon
japonisus KerGawler[ユリ科], ヤブランL.platyphylla
Wang et.Tang[ユリ科]、共に肥大根を感冒・去痰薬に用う)
この丸い実は紫黒色をしていて美しく、子供等が玩具にしたものである。ところが植物学の大御所牧野富太郎博士はこれはヤマスゲでなくガマズミであると新説を唱えた。その理由は(07-1344)に『真鳥住む卯名手の神社の菅の根を
衣にかきつけ着せむ子がも』と歌では、ヤマスゲの実は色は黒いが染料にならず、同じ秋頃に稔るガマズミの実は着物を赤色に染める所以と。<万葉考>『根には衣に摺物ならず、核を誤れる事しるければ』と誤字説を唱えている。しかしこれもおかしな話で、根の煎汁は絹を黄色に染め上げるし、抑々07-1250は染料に用いるとは云っていないのである。
色に論を移すとすれば、筆者はこれをスカミと訓し、スゲの類でなくて山路に稔る小果実の類をいうのではないかと考える。秋が急速に迫りきて、山が紅葉で燃え上がる頃、背丈の低い例えばコケモモVaccinium
vitisidaeaなどスノキ属の漿果を、地方によってこれを”スガミ”と呼んで、果実酒やジャムを作るために山へ採りに行くが、摘んだ指先は紫黒色に染まる。之は酸実サンガミから名前がきて菅と関係ないが、スガと発音が似ている。
石穂菅や岩に関連する(04-0791,
11-2472,)もので、”いわ”を修飾にもつ歌例は他にも多いのであるが、イワスゲC.atenantha
Franch.et Savatは実在する。キスゲ(ユウスゲ)Hemerocallis
citrine Baroniもまたスゲの名をきせているが、これもユリ科の仲間である。
このように、スゲを呼称する範囲は極めて広く、カヤツリグサ科の範囲を逸脱して、イネ科・イグサ科・ユリ科・ミクリ科にまでスゲの名が及んでいる。従ってスゲの中心となるべき植物は焦点がぼけて、細長い線型の葉をしているのを総じてスゲというようである。
カヤツリグサの別名を古語でクグと称したらしく、またスゲには菅のほか、莎・椶・莞・薹・奓の漢字が当てられ、それらは夫々特定の菅を指定する。スゲの語源は「すがすがしい」から来ているという。確かに菅の稈茎は綺麗であって、稲藁のように手を汚さない。これで菅畳・菅薦など編み上げるため、昔代は栽培されていたらしい。
文学的には、スゲの根は長く伸びて絡み合っていることから、”結びつく・乱れる”の語に懸かる枕詞に使われ、また”根“に懸かる、「ねもころ」(ねんごろに、心から、徹底的)に結ぶ。
奓スゲ |
<新撰字鏡> |
上字須介 |
菅スゲ |
<和名類聚抄 |
唐韻云、菅、音姧、字或作レ蕑、和名須計、草名 |
|
<箋注和名類聚抄 |
説文菅茅也、楚辞招魂註、広雅同、皆以ニ菅茅–、為毛詩小雅白華篇、白華菅兮 |
|
<段注説文解字一艸> |
菅茅也、从艸官声 |
|
<書言字考節用集 |
菅スゲ |
|
<日本釈名> |
菅スゲ |
|
<東雅 |
菅スゲ ここにして菅読みてスゲといふ者も茅の類也、円経注に茅蒲と見え氏も、詩疏に台草といふ者一種にして、笠を縫うもの、漢もまた然り、一種莎問いふ物,此にしては山菅などいひて、蓑となせしものと見えたり。但し麦門冬読みてヤマスゲといふものとは其名同じけれども、其物は同じからず、万葉集抄にスゲとはスグ也、衆草は枝葉ありて、をさなきより生茂るもあるに、菅はすぐにたてる物なりとうふなり、ただ其細く立てるをいふ事、芒をススキといふが如くなりと聞こゆる。 |
|
<倭訓栞 |
すげ: すげがさ: |
|
<大和本草 |
菅 |
|
<農業全書 |
菅 |
莎草 |
<倭名類聚抄 |
莎草 |
|
<箋注倭名類聚抄 |
広韻云、莎草名、此衍二一草字–、按本草和名引二本草稽疑-云、莎草一名三稜草、故輔仁於三稜草条–載ニ莎草–、並訓二美久利―也、然証類本草莎草根条引二唐本注―云、茎葉都似二三稜―、又京三稜条引二図経―曰、五六月開花似二莎草―、並以二莎草三稜–為二別草―、故漢語抄則二訓莎草–為二久具–、源君従之分二三稜草莎草―為ニ二物一也、蘇敬註地–本草莎草–云、此草根名二香附子―、一名雀頭香、茎葉都似ニ三稜–、根如ニ附子-、周匝多毛、交州者最勝、大者如レ棗、近道者如二杏仁許―、図経云、今近道生者、苗葉如レ薤而痩、根如ニ視筋頭大―、衍義、莎草、其根上如ニ視棗核–者、又謂ニ之香附子―、今人多用、雖レ生ニ於莎草根–、然根上或有或無、是今俗呼二波万須介―、或呼加夜都利具佐–、漢語抄訓ニ久具―、 |
|
<書言字考節用集 |
莎草マスグ・マルスゲ、香附子コウブシ |
|
<東雅 |
莎草クグ |
|
<大和本草 |
クグ |
|
<和漢三才図会 |
菅、蓋し、荊三稜ケイサンリョウ属にして、相異なり、香附と蚊帳釣草の異なるがごとし、按ずるには、菅の葉は茅に似、滑択にして茎に白粉あり、今いふ菅は葉に剣背シノギありて硬く靭シナヘず、茎の本白し、別に一茎を抽んで穂を出す。六月、葉を刈りて乾せば白色、笠に縫干て美なり |
莞・大莞・香蒲 |
<重修本草綱目啓蒙 |
香蒲 |
|
<倭名類聚抄 |
莞 |
香附子 |
<重修本草綱目啓蒙 |
莎草マスグ・マルスゲ、香附子コウブシ 莎草は苗の名にして、香附子は根の名なり、而してその苗を用いるには、カヤツリグサを用いるを良とす、蜀漆、常山、沢漆、大戟の例の如し、故に根なきものを莎草とし、カヤツリグサと訓じ、根あるものを香附子とし、ハマスゲと訓ずべし、宗奭の説にも根上或有井或無と云う、 カヤツリグサは品類多し、共に香附子に似て春生じ、冬枯れ、根に塊なし、その花は香附子より粗なり、香附子は田野道端甚だ多し、海辺殊に甚だし、故にハマスゲと呼ぶ、葉は薹の葉に似て小く濶さ一分許、長さ六七寸、肥地のものは12尺、三背にして光あり深緑色、一根に叢生す、夏月茎を抽ること一尺許、その頂に数叉を分ち、上に砕花簇生す。以下省略 |
|
<書言考節用集 |
香附子コウブシ |
|
<東雅 |
莎草クグ |
|
<和漢三才図会 |
香附子 |
|
<本草和名 |
莎草一名縞楊玄操音古語反 |
|
20 |
三稜草本草所謂莎草是也 |
|
<大和本草 |
香附子 |
黄菅・紅菅キスゲ |
<本草和名 |
黄莎 |
|
<和漢三才図会 |
粉条児菜キスゲ |
|
<剪花翁伝 |
黄菅 |
香茅 |
<和漢三才図会 |
香茅 |
崖椶イトスゲ |
<和漢三才図会 |
崖椶 本綱、崖椶施州石崖上有レ之、苗高一尺以来、状如レ椶、四季有レ葉無レ花、土人采根去二粗皮–、入レ薬 |
|
<重修本草綱目啓蒙 |
崖椶 山岸に多く生ず、亦平地にも陰処に多し、葉極めて細く、龍常草タツノヒゲ葉の如く深緑色、長さ一尺余、一根に叢垂す。夏月茎を抽て花を開く。山莎ミノスゲに似て小くして黒色、後実を結ぶ。崖椶二両説あり、此書の図によれば、イトスゲなり、証類本草の図によればササスゲない、ササスゲは一名タガネソウ尾州、ヤマヲバコ播州、ギョウジャソウ薩州、山中陰処に甚だ多し、一根数葉、長さ三四寸、広さ一寸許、三背ありて、薹スゲの如し、亦萱草の葉に似て短く淡緑色、高山には深紫班点なる者あり、皆夏中花を開く。形色ヒメスゲに異ならず、秋後苗枯れ根は枯れず、形麦門冬ヤブランの如くにして、粗く堅く連珠をなす、うちに硬心あり、ここに根去ニ粗皮―と云はササス也。 |
植物
カヤツリグサ科は全世界に約70種3700種ある。草本で、茎は3稜形が普通とし、葉は線形で、基部は筒状の葉鞘となっている。花は概して小型、両性また単性で小穂の苞の腋に単生する。花被は無いかあっても針状になっている。雄蕊は普通3個あって、葯は糸状になって底着し、2室。子房は1室。柱頭は普通2~3個。胚珠は1個。果実は小型の痩果で裂開せず、胚乳は粉質or肉質。分類については、種々ある。
カヤツリグサ科 |
スゲ亜科 |
スゲ連 |
スゲ |
1500~2000種 |
エリナ |
6 |
|||
ヒゲハリスケKobresia |
ca |
|||
ウンキュア |
ca. |
|||
ラゲノカルプス連 |
コレオクロア |
5 |
||
ラゲノカルプス |
ca.70 |
|||
トリレプス |
6 |
|||
シンジュガヤ連 |
シンジュガヤ属 |
ca. |
||
カヤツリグサ亜科 |
カヤツリグサ連 |
クリシトリクス |
6 |
|
カヤツリグサ属 |
ca. |
|||
ドウリキウム連 |
ドウリキウム |
1 |
||
ヒポリツルム連 |
ヒポリトルム |
ca.80 |
||
マパニア |
ca.80 |
|||
イヌノハナヒゲ連 |
ガーニア |
ca. |
||
イヌノハナヒゲ |
ca. |
|||
ノグサ属 |
ca. |
|||
ホタルイ連 |
ハリイ属 |
ca. |
||
ワタスゲ属 |
ca. |
|||
テンツキ増 |
ca. |
|||
リポカルファ |
ca. |
|||
ホタルイ属 |
ca. |
カヤツリグサ科の内で“すげ”の名前のついたものは次ぎのようである。
スゲ属 |
カサスゲ類 |
ex. |
アオスゲ類 |
ex. |
|
コハリスゲ類 |
ex. |
|
アゼスゲ類 |
ex. |
|
クロカワズスゲ類 |
ex. |
|
ホタルイ属 |
ex. |
|
カヤツリグサ属 |
ex. |
① カヤツリグサ Cyperus
microiria Steud. 別名 マスクサ
本州・四国・九州・朝鮮・中華国の畑地や道端に生える一年生。湿潤の土壌を好む。茎の高さは30~60cm,断面は三角形、内部は軽泡状の髄質で中実、葉は長さ20~50cmの腺形、表面は深緑色で光沢がある。花は茎の頂点に散形に花序柄を放射状に数本出すが、花序の元から50cmもある苞葉を長く付け、一見全体が長い草のように見える。花穂は大小混ぜて十数本出すが、3基数に従っている。花穂長さ~15cm,頂部は3本に分かれ、各々中穂となり、中穂には長さ7~12mm巾1.5mm位の小穂が数十個付ける。小穂は黄緑色→黄褐色に変化する1,5mm位の鱗片であり、これが8~10月頃稔って果序となる。和名は蚊帳吊であるが、3角の茎を相対の反対から裂くと4角形になり、これが蚊帳を吊ったように見えるからである。枡草というのも同じ、本草を刈って敷物を作る地方もある、
カエンカヤツリ Cyperus
exaltatus Retz var. iwasakii T.Koyama
本州・九州・朝鮮・の湿地帯に生えてたまたま大群落を作る。茎は太く、高さ80~120cmに達する。葉の巾8~15mm.花序は10~30cmの大形で茎頂に豪快につける。朝鮮で莞草ワングルと呼んで栽培されているのは本種で、茎を編んで敷物をつくる。
カミガヤツリ
C.
papyrus L
.パピルス
南欧州~アフリカに分布する。大形の多年草。高さ1.5~2mに達する大型で、葉は葉鞘にのみ退化し、茎は3稜があり、頂に大型の花序を付ける。古代エジプトで茎を裂き、紙を作っていたとして、有名である。最近日本にも鑑賞用として見る事のあるのはシュロカヤツリ
C. alternifolius
L.で、茎の頂に十数葉の苞葉を輪状につける。其の型殻Umbrella-plantの英名がついている。
シチトウ Cyperus
monophyllus Vahl. リュウキュウイ
本州の暖地~琉球にて栽培され、台湾以南では野生する。琉球畳の表は本種で織られる。七島シチトウはトカラ列島のことである。
②ハマスゲ cyperus
rotundus L
世界の熱帯~亜熱帯に広く分布し、日本では本州~琉球の海岸砂地に生える。草丈20~40cmでやや細型、基部は褐色の繊維に覆われ、細長い匐枝伸ばして繁殖する多年草。葉は巾2~6mm、花序は巾10cm一回分岐。小穂は腺形で長さ1.5~3cm巾1.5~2mmで中軸に斜開し、光沢があってややまばらに20~40ケ花をつける。果は長楕円形で偏三角形、7~10月に熟す。根茎の肥大部を香附子コウブシと称して漢方で通径・鎮痙の目的で処方される。精油約1%含み、シペレン・シペロール・ピネンを主成分とする。
③ワタスゲ Eriophorum
vaginatum L. スズメノケヤリ
東アジア・シベリア・ヨーロッパ・北アメリカの暖帯~亜寒帯に広く分布する。日本では中部以北の亜高山の湿原に群生する多年草。匐枝は無く、茎の高さ20~50cm,細いが硬くて直立する。巾1~1.5mm.扁三角形。葉は1~2個あるが鞘状に退化し、上半は黒色で膜質。小穂は1個が頂生し、長さ1~2cmの狭卵形、鱗片が多数着いて灰黒色、先が尖り1脈がある。花被片は糸状で花後、菓について伸び長さ2
~2.5mmになり、球状の白い塊を作る。よく似たものにサギスゲ
E.gracile
Kochがある。この綿塊は柄がついて長楕円形であることにより見分けられる。また根茎は長い匐枝がついている。
④ カサスゲ Carex
dispalata Boot
南千島・樺太・朝鮮・中国・ウスリーなど北方系のスゲであるが、本邦での北海道~九州の、湿地また浅水に生える多年草。長い地下匐枝が出る。茎は高さ50~100cm、基部の鞘は上部が糸網状になり、暗赤紫色の部分がある。葉は巾4~8mm、頂小穂は雄性で、腺形、暗紫色を帯びる。側小穂は3~6個、円柱形で長さ3~10cm. 果胞は斜開し、長さ3~4mm,上方に多少外側に曲がって嘴状になり、乾くと汚暗褐色になり柱頭は脱落する。4~7月に熟す。本種は菅笠や蓑を作る為に栽培された。
キンキカサスゲ C.d,Boott
var, takeuchii Onwii ; C. persistens Ohii
アキカサスゲ C.nemostachys
Stend.
⑤ カンスゲ Carex
morrowii Boot.
本州の福島県以西の太平洋側・四国・九州に生える。反対にホソバカンスゲvar.
temmolepis Ohowi
は日本海側に主に生える。山地の林内に見られる多年草、根茎は短く茎の高さ30~40cm。葉は多数根生し、濃緑色で、巾5~10mm腺状で硬質、光沢がある。頂に出る小穂は雄性で長さ2~4mmの細長、脇に出る小穂は雌性で3~5個長さ3~4.5mmの短円柱形、淡黄緑色で、口部は硬い。4~5月に熟す。冬でも緑色を保っているので寒菅の名前がある。各地方に特定種がある。
オクノカンスゲ C.
foliosissima Fr,Schm.
ハチジョウカンスゲ C.
hachijoensis Akiyama
ダイセンカンスゲ C.
daisenensis Nakai
タシロスゲ C,
sociata Boott.
ツシマスゲ C.
tsusimaensis Ohwi
また近似したものにヒメカンスゲ
C.
conica Boott.,コカンスゲC.reinii
French et Sav, など。
⑥ ゴウソ C.
maximowiczii Miq.
南千島・北海道から琉球、朝鮮・中国に分布する。平地の湿った土地を好む多年草、茎は高さ40~70cm、基部の鞘は葉身がなく、肉桂色でぢやわらかく、糸網は殆どない。葉は巾4~6mm。頂小穂は雄性で線型、赤褐色。腋小穂は雌性で円柱型、赤錆色先は突出する。果胞は広卵型で著しく膨らみ、長さ4mm位、小突起が密生して灰緑褐色。5~6月熟す。和名は郷麻で、昔代この草葉を叩いて繊維をとり、粗布を織った。
カヤツリグサ科Cyperaceaeは単子葉植物のなかで、イネ科とラン科に次いで種は多く約45属4000種ある。
日本の環境にあっているためか、338種(内スゲ属210種)が知られている。人間生活と関係の深いものを挙げると、蓑笠の雨具の材料とするカサスゲ、縄に編むヒゲスゲ、布を織るゴウソ、琉球表を編むシチトウイ・フトイ、外国では砂糖袋を作るアンペラ、古代エヂプトのパピルス、南米チチカカ湖のトカラ、漢方薬の香附子となるハマスゲ、が挙げられる。
この科は風媒花であるから目立たないが、その着き方と両性花or単性花の構想が分類の主要な目安になる。茎は三稜角で中に髄が詰まっているのが普通であるが、アブラガヤ・ヒトモトススキのような例外もある。葉はときに退化して鞘になる例があるが、完全に閉じて筒になることはイネ科との相違である。細胞遺伝学で染色体数は、倍数になる筈であるに拘わらず、カヤツリグサ科では、n、<n+1>、<n+2>となる事に非常に興味がある。このため雑種を作りやすく、検索が多岐で難しくなっている。
3角の茎を両側から、裂くと4角の辺を作る現象も興味あるので、これがシソ科のように4基数性になり、更にバラ科のような5基数性の植物へ進化した幾何学解因があるようである。
古文
<古事記歌謡> |
八田の一本須宜 |
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<枕草子 |
山菅 |
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<夫木和歌抄 |
山城のいづみの小管 |
柿本人麻呂 |
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ゆふは河 |
藤原家隆 |
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あさは野に |
藤原為家 |
<散木房歌集 |
いとどしく |
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<中右記(1108年)> |
菅笠 |
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<今昔物語 |
練色の衣の錦はるかなる三つ許りを着て、菅笠を着て |
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<山家集 |
旅人の分くる夏の野の草茂み |
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<拾遺雑歌(1172年)詞書> |
ちひさき飾り粽を |
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<作庭記(1040年頃)> |
石所々立て、其のわきわきに |
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<経信集(1097年頃)> |
三室山もみぢちるらし旅人のすげのかさに錦織りかく |
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<新古今和歌集(1214)> |
東路に刈るてふ萱のみだれつつ束の間もなく恋ひや渡らむ |
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<太平記2 |
長崎新左衛門尉意見事「はきも習はぬ草鞋に菅の小笠を傾けて |
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<異名分類抄 |
すげの庭鳥(キリギリスのこと) |
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<浮世草子・薄紅葉(1722)> |
人目しのぶのすげのおがさに、かいどりの御姿を、見そめまいらせより |
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<禁中方名目抄校註(1741~60年)> |
下・院中『菅円座スゲエンザ |
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<糸切初心集(1664年)> |
菅笠節(江戸時代に流行した小唄> 破れ菅笠や |
<俳諧> |
菜の花を |
團水 |
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胸あわぬ |
芭蕉 |
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おもいあらはに |
枳風 |
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すげ笠に |
菊阿 |
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秋雨や |
蕪村 |
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菅笠の |
水木真寛 |
名前
〔語源〕
①古語で、紐など手で編むことを”すげる”ということより、②あたらしいことを“清しすがすがしい”と言い、祓いの具に用いることから<祝詞考・日本釈名・大言海> ③真っ直ぐに立つ草であること<日本釈名>
④葉が反り返っているいることからソルスセの反
<名語記
<大言海>
スガはスゲの交替形。蔡祀秭萱の用に供す。菅の字はかやんあるを誤用巣。茅に似て滑らかにして毛なく葉のひろきものを笠とし、狭きを蓑とす。因りて蓑菅、笠菅の称あり。>
〔古語〕
須毛、須気、須計、須宜、按子、安之、阿之、蕉萩むしろい、牟志呂井
〔英語〕
Sedge
用途
〔用材〕
稈茎・葉を乾燥し、笠・蓑・などを編む。円座・菅畳・枕・草履、繊維はつよく、下駄の鼻緒またゴウソは織布の原糸になる。スゲは色淡く清潔感があるので、祭祀の用具に用いる。
スゲ稈は7~8月の晴天日に刈り、2~3日強い日光の下に乾燥する。もしこのとき湯立ちがきて雨に当たると黒変して不商品になるという。
〔香水〕
すげ類の内、香りのよいハマスゲから香料をとる、
{薬事}
香附子 ハマスゲの根茎