Ad-17. しらすげ

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Ad-17. しらすげ 白菅

シラスゲ

[万葉集記事]

03-0280 白菅

03-0281 白菅

07-1354 白菅

11-2768 白菅

以上 4首


() 03-0280

高市連黒人が歌二首の一

去来児等 倭部早 白菅乃 真野乃榛原 手折而将帰

いざ児ども 大和へ早く 白菅しらうげの 真野の榛原 手折りて行かむ

注釈:

真野=土地名であるが、陸奥国と近江国の両方がある。人手の入らない野原。

榛原=榛の木の生えている林。

しらすげ=ここでは榛原に懸かる枕語的用法。

真野=①神戸市長田区東尻池町 ②愛知県豊橋市東部から静岡県浜名郡西町にかけての原。

榛原=ハンノキが生えている原野。やや湿原。

() 11-2708

正述心緒、或る本に曰く

葦多頭乃 颯入江乃 白菅乃 和為等 乞痛鴨

あしたづのずし 騒ぐ入り江の 白菅の 知られむためと こちたかるかも

注釈:

あしたづ=芦田鶴 葦が生えている沼池を渡り歩く鶴。上代からツルには”つる”と”たづ”の両方が文学に出てくるが、歌には田鶴の方が多くある。

あしたづの=鶴が鳴くことより音・泣くに懸かる枕詞。 こちたかる=人の噂など多く煩わしいこと。

[概説]

万葉集には”すげ”を読む歌44首もあり、このうち、小菅・菅根・菅原・など一般的呼称を付加したものと、磐本菅・七相菅・在間菅・三島菅はどのように特定語を付加するものとある。白菅は土地の名でなく、植物に関する語でもなく、これは歌調を整えるためであり、真野の榛原の定型語を造った。「真野榛原の白菅」の定例語は集のみで終り後世の文学には見えない。確かにシラスゲCarex donina Spreng と云う名の植物は現存し、これは葉裏が白くみえるからその名が着いたらしく、また同じスゲ属で名前の類似した、ヒメシラスゲ C.mollicula Boott. シラコスゲ C.rhizopoda Maxim.もあるが、万葉集ではこれらの単種を指しているのではない。古代の萱カヤはカンスゲ・カサスゲのような菅を包含するものであり、また茅チガヤの白穂をシラスゲといっていると執れる場合もある。

<倭名類聚抄 20>

菅 唐韻曰、菅 音 奸,字 或作蕑,和名 須計、草名也、、

<箋注倭名類聚抄 10>

説文菅茅也、楚辞招魂注、広雅同、皆以菅茅、為一、毛詩小雅白華篇、白華菅兮、茅東兮、伝云、白華菅也、己漚為菅、箋云、人刈白華於野、己漚名之為菅、菅柔忍中用矣,而更取白茅、収東之、茅比於白華脆、拠毛鄭意、在野末漚、謂之菅、与茅同類異物、故東門之地陸機蔬云、菅似茅而滑澤無毛、根下五寸、中有白粉、柔靭宜索、漚乃尤善矣、中山経郭注云、菅似茅也、本草図経云、菅亦茅類也、然則許慎王逸張輯以茅釈菅、統言之耳、但陶広景注本草茅根云、此即今白茅菅、詩云、露彼、菅茅、其根如渣芹甜美、蘇敬於此注菅花、亦似同菅茅レ、宜鄭箋郭注一類二種也、

李時珍曰、茅有白茅菅茅黄茅香茅数種、葉皆相似、白茅短小、三四月開白花、成穂結細実、其根甚長、白軟如筋而有節、味甘、俗呼糸茅以苫蓋及供祭祀苞之用、本経所謂茅根是也、其根乾之、夜視有光、故腐則変為蛍火、菅茅只生山中、似白茅、而長、入秋抽茎開花、成穂如萩花、結実尖黒、長分許、粘衣刺人、其根短梗、如細竹根、無節而微甘、爾雅白華野菅是也、按白茅或単呼茅、故本草謂此根為茅根為茅根、下条訓茅為充、今或呼知賀夜、謂之茅針、夏生白花茸々然、至秋而枯、其根至潔白。 

<段注説文解字1下 艸>

菅 茅也、詩白華菅兮、毛伝、足之曰、巳漚為菅、按詩謂白華既漚為菅、又以白茅収束之、菅別於茅、野菅又別於菅也、从艸官声。

植物

シラスゲ Carex doniana Spreng.

北海道~琉球、朝鮮、中華国、インドネシア、インドに分布。平地・丘陵地の林内にやや普通に生える多年草。細い匐枝がある。茎はやや太く、草丈ca.5070cm。葉は巾510mmで腺形、裏面は粉白を帯びる。小穂は46個着き、頂小穂は雄性で、長線形、側小穂は雌性で円柱形を成し、長さ37cm、蜜に花をつけて点頭し、下方の苞は葉状である。雌鱗片は狭卵形で白色、中肋は緑色、果胞は平開し、狭卵型で長さ3mm,膜質で淡緑色、脈有り、平滑。4~6月に熟す。

ヒメシラスゲ Cartex mollicula Boott

北海度~九州、朝鮮に分布。深山の林内に見られる多年草。茎は高さ1530cmで鋭い3稜があって、やや柔らかい。葉は巾48mm,緑色、葉鞘は淡色、糸網はない。頂小穂は雄性、腺形をして淡緑色で長さ1,5~3cm,側小穂は雌性で2~5個つき、直立した短円柱形。下方の苞は葉状で斜開する。果苞は開出し狭卵形で長さ34mm、数条の脈がある、5~7月に熟」す。

ヒカゲシラスゲ C. planiculmis Komar,

本州中部以北。北海道、朝鮮、中華国、ウスリー、樺太の深山の針葉樹林中に生え、ヒメシラスゲに似ているが、葉は両面緑色である。

[古典]

<金槐和歌集 206>

花におく露をしづけむ白菅の真野の荻原しをれあひにけりる