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しらすげ
白菅
シラスゲ
[万葉集記事]
03-0280 |
03-0281 |
07-1354 |
11-2768 |
以上 |
(一) |
高市連黒人が歌二首の一 去来児等 いざ児こども |
注釈:
真野=土地名であるが、陸奥国と近江国の両方がある。人手の入らない野原。
榛原=榛の木の生えている林。
しらすげ=ここでは榛原に懸かる枕語的用法。
真野=①神戸市長田区東尻池町
②愛知県豊橋市東部から静岡県浜名郡西町にかけての原。
榛原=ハンノキが生えている原野。やや湿原。
(二) |
正述心緒、或る本に曰く 葦多頭乃 あしたづのずし |
注釈:
あしたづ=芦田鶴
葦が生えている沼池を渡り歩く鶴。上代からツルには”つる”と”たづ”の両方が文学に出てくるが、歌には田鶴の方が多くある。
あしたづの=鶴が鳴くことより音・泣くに懸かる枕詞。 こちたかる=人の噂など多く煩わしいこと。
[概説]
万葉集には”すげ”を読む歌44首もあり、このうち、小菅・菅根・菅原・など一般的呼称を付加したものと、磐本菅・七相菅・在間菅・三島菅はどのように特定語を付加するものとある。白菅は土地の名でなく、植物に関する語でもなく、これは歌調を整えるためであり、真野の榛原の定型語を造った。「真野榛原の白菅」の定例語は集のみで終り後世の文学には見えない。確かにシラスゲCarex
donina Spreng
と云う名の植物は現存し、これは葉裏が白くみえるからその名が着いたらしく、また同じスゲ属で名前の類似した、ヒメシラスゲ
C.mollicula
Boott. シラコスゲ
C.rhizopoda
Maxim.もあるが、万葉集ではこれらの単種を指しているのではない。古代の萱カヤはカンスゲ・カサスゲのような菅を包含するものであり、また茅チガヤの白穂をシラスゲといっていると執れる場合もある。
<倭名類聚抄 |
菅 |
<箋注倭名類聚抄 |
説文菅茅也、楚辞招魂注、広雅同、皆以ニ菅茅―、為レ一、毛詩小雅白華篇、白華菅兮、茅東兮、伝云、白華菅也、己漚為レ菅、箋云、人刈ニ白華於野–、己漚名レ之為レ菅、菅柔忍中レ用矣,而更取ニ白茅―、収ニ東之–、茅比ニ於白華―為レ脆、拠ニ毛鄭意–、在レ野末レ漚、謂ニ之菅―、与レ茅同類異物、故東門之地陸機蔬云、菅似レ茅而滑澤無レ毛、根下五寸、中有ニ白粉–、柔靭宜レ為レ索、漚乃尤善矣、中山経郭注云、菅似レ茅也、本草図経云、菅亦茅類也、然則許慎王逸張輯以レ茅釈レ菅、統ニ言之―耳、但陶広景注ニ本草茅根–云、此即今白茅菅、詩云、露彼、菅茅、其根如ニ渣芹–甜美、蘇敬於ニ此注―載ニ菅花―、亦似下溷ニ同菅茅–為上–レ、宜下依ニ鄭箋郭注–為中一類二種上也、 李時珍曰、茅有ニ白茅菅茅黄茅香茅数種―、葉皆相似、白茅短小、三四月開ニ白花―、成レ穂結ニ細実―、其根甚長、白軟如レ筋而有節、味甘、俗呼ニ糸茅―可ニ以苫蓋及供ニ祭祀苞之用–、本経所謂茅根是也、其根乾之、夜視有レ光、故腐則変為ニ蛍火―、菅茅只生ニ山中―、似ニ白茅―、而長、入レ秋抽レ茎開レ花、成レ穂如ニ萩花–、結レ実尖黒、長分許、粘レ衣刺レ人、其根短梗、如二細竹根–、無レ節而微甘、爾雅白華野菅是也、按白茅或単呼レ茅、故本草謂ニ此根レ為茅根レ為茅根―、下条訓レ茅為レ充、今或呼ニ知賀夜―、謂ニ之茅針–、夏生ニ白花茸々然、至レ秋而枯、其根至潔白。 |
<段注説文解字1下 |
菅 |
植物
シラスゲ Carex
doniana Spreng.
北海道~琉球、朝鮮、中華国、インドネシア、インドに分布。平地・丘陵地の林内にやや普通に生える多年草。細い匐枝がある。茎はやや太く、草丈ca.50~70cm。葉は巾5~10mmで腺形、裏面は粉白を帯びる。小穂は4~6個着き、頂小穂は雄性で、長線形、側小穂は雌性で円柱形を成し、長さ3~7cm、蜜に花をつけて点頭し、下方の苞は葉状である。雌鱗片は狭卵形で白色、中肋は緑色、果胞は平開し、狭卵型で長さ3mm,膜質で淡緑色、脈有り、平滑。4~6月に熟す。
ヒメシラスゲ Cartex
mollicula Boott
北海度~九州、朝鮮に分布。深山の林内に見られる多年草。茎は高さ15~30cmで鋭い3稜があって、やや柔らかい。葉は巾4~8mm,緑色、葉鞘は淡色、糸網はない。頂小穂は雄性、腺形をして淡緑色で長さ1,5~3cm,側小穂は雌性で2~5個つき、直立した短円柱形。下方の苞は葉状で斜開する。果苞は開出し狭卵形で長さ3~4mm、数条の脈がある、5~7月に熟」す。
ヒカゲシラスゲ C.
planiculmis Komar,
本州中部以北。北海道、朝鮮、中華国、ウスリー、樺太の深山の針葉樹林中に生え、ヒメシラスゲに似ているが、葉は両面緑色である。
[古典]
<金槐和歌集 |
花におく露をしづけむ白菅の真野の荻原しをれあひにけりる |