AD-18.
いはもとすげ
岩本菅・巌菅・石本菅
イワスゲ・ナルコスゲ
[万葉集記事]
03-0397 |
11-2472 |
11-2761 |
の3首 |
(一) |
笠女郎かさのいらつめ、大伴宿禰家持に贈る歌三首 奥山之 奥山の |
注釈:
岩本菅=岩のもとに生えている菅
根深めて=土深い根のように
(二) |
寄レ物陳レ思 見渡 見渡しの |
注釈:
三室山=神が在します山、ここでは三輪山をいうか
根も頃=心細やかに、諸事に配慮して
(三) |
寄レ物陳レ思 奥山之 奥山の石本菅いわもとすげの |
[概説]
頭記の三首歌の磐菅・岩穂菅・石本菅の三種のスゲを同じ<イワスゲ>として扱って可であろう。歌意をよめば、その菅は何れも奥山に生えていて、根に特徴があるようである。ここに記載のイワスゲなる名前の菅は、今の植物学に登録記名が有り、高山に生える植物となっている。そもそも、スゲの類の植物は一般に湿地をの好むのでが、イワスゲは岩場に生える性質であり、歌の趣意に叶っている。ところが問題が全くないわけでない。
それは本種は関東以北の寒冷地にはえるもので、当時も万葉人が逍遥した近畿地方には生育していなかったということである。歌には『奥山の』とあるけれども、今言う高山には昔人は登山しなかったであろうことは著者が推考した結論であり、せめて三室山程度の500mが限界とみる。そうすると、歌人はイワスゲを見ていなかったことになる。尤も、和歌はそんなことに関係なく歌調をあわせるだけであるから文学的には問題はないのであるけれども、人麻呂は写実的なものが選択すれから、それに添うとすれば、ナルコスゲCarex
curvicollis Franch. Et Savzt.が適切かもしれない。山地の渓流の辺に生え、鮮緑色で感じのよい菅である。
植物
イワスゲ Carex
stenantha Franch. et Savat.
本州中北部の高山の岩礫地の草原に生える多年草。北海道・樺太・千島にも産するがこれは果苞が少し巾広い。茎丈は15~40cm、細くて花時に点頭し、果の熟時に茎は倒れる。葉は巾2~3mm、基部の葉鞘は淡褐色であるが、一部の暗褐色の所がある。頂小穂は雄性で腺形をなし、長さ2~3cm、濃渇赤色。側生の小穂は雌性、腺状円柱形で長さ2~3cm、長い柄があって下垂し、まばらに花をつけ、濃褐色で光沢がある。果胞は直立し、披針で長さ6~8mm、膜質。上方は搾った嘴型になる。7~8月に熟す。
ナルコスゲ Carex
curvicollis Franch.
et Savat.
北海道南部~九州の山地に見られる、鮮緑色で柔らかく、草丈20~40cmの大株となる多年草。短い根茎があって、葉は巾3cm位で、基部の葉鞘は白色~暗褐色、ときに赤褐色、葉は垂れ下がる。小穂は花穂に2~5個ついて、頂小穂は雄性線形で暗褐色。側小穂は雌性で円柱形、一方に傾いている。果胞は長さ4~5cm,
披鍼形、緑褐色で嘴は外曲する。5~6月に熟する。名前の鳴子菅は小穂が連なってナルコの様に似ていることより。
イワスゲ・ナルコスゲはアゼスゲの仲間で、タヌキラン、コタヌキラン、ヤマタヌキラン、タニガワスゲ、サドスゲ、カワラスゲ、ヤマアゼスゲ、アズナナルコ、テキリスゲ、ゴウゾ などが含まれる。
参考
スゲ類の果胞について:
カヤツリグサ科の子実を果胞と名付けているが、これは種によって鱗片とともに、林特別の形をとり、同定に役立つ。糸状の花糸は果胞ほ岐部に残るももがあるけれども、多くは完熟時に脱落する。