区分
C.
食に関するもの
a・
主食になる穀類
No. |
集に書いてある字句 |
漢 語 |
該当植物 |
本文で紹介する植物 |
||
Ca-01.
|
いね(こめ) |
稲・米・早稲 |
コメ |
稲・嘉粟・瑞木・敦実 |
コメ |
コメの各栽培品種 |
Ca-02.
|
むぎ |
麦 |
ムギ |
布亥・義麦・宿麦 |
オオムギ・コムギ・エンパク |
|
Ca-03.
|
きみ |
黍・寸三 |
キビ |
人米・斎・首種・穂黍 |
キビ・モロコシ・コウリャン |
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Ca-04.
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ひえ |
稗・比要 |
ヒエ |
稗・䅟 |
ヒエ |
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Ca-05.
|
あわ |
粟・安波 |
アワ |
梁・粟 |
アワ |
|
Ca-06.
|
まめ |
豆・万米 |
マメ |
霍◆・ |
ダイズ・アズキ |
「人の食わないものは人間だけである」と言うほど、人間は何でも食う。超雑食動物である。猿や豚など雑食の例は無いではないが、大概は牛や馬・羊の如き草食動物と、虎や鷹・蛇のごとき肉食動物に別れる。これは哺乳動物、鳥類、昆虫類、軟体動物などその類の中でも草食と肉食がいる。面白いことに下等な動物ほど食が固定するようで、例えばミツバチは季節の花に集まり、蜜と花粉だけを餌にしているし、ギフチョウは偏食に拘ってカンアオイの葉だけが神から与えられた食餌である。海の世界でも同じく、地球の一部の岩石を作り上げたサンゴはオニヒトデがやってきて嘗めるように食い荒らされることをテレビが報じていたところ、数日後別のチャンネルでホラガイなる巻貝がオニヒトデをやっつけるところを放映しており、放送業界も食うか食われるかの戦争があるのだなと思った。
牛の餌に少しの動物性飼料を与えると生育が良いということで、畜産業者がこれを採用していたところ、異常プリン蛋白が蓄積するヤコブ病が発生して、これがアメリカ牛肉の問題に発展している。神様が動物毎に食うべき餌を決めたのであって、雑食動物である人間は食餌の選択範囲が広くして戴いた。それだけ気候異常がもたらす不凶不順に対応力があるわけで、腕力は弱いのに少しばかり頭脳がよかったためと、四季に関係なく生殖作業に励むことが出来るために、繁栄を重ねて地球の生物聖域を制覇するに至った。
人間の食事が動物の餌と違う大きな点は、火を加えて柔らかくしたり、増して美味になるように調味料を加えたりして調理することである。而して文明が進んでくると、さらに食が進むように、高価な食器を用い、盛付けを装飾し、雰囲気のムードを和らげるための工夫も欠かさない。このようにして食文化が発達したわけであるが、倭国の万葉時代の食生活はどうであったかというと、当時の古文書を見てある程度の推測はつく。
主食
欧米の食事ではパンを主食にするが、そのウェイトはそんなに重要でないに反し、日本食で米のご飯は主食として極めて重視されている。この風潮は万葉時代に既に伺える。澱粉質を主食とすることは、最も合理的であって、代わりに脂質を食べるとするとカロリーはあっても腹持ちがないし、動物質の蛋白を多食べるとアシドーシスになる。しかも、毎日安定して腹を膨らせるには、貯蔵可能な穀類が最も理想的なものであった。万葉集に記載の主食とする植物は、穀類でイネ・ムギ・キビ・ヒエ・アワ・マメと、芋類(根茎)ヤマイモ・サトイモ・クログワイなどであるが、この以外にドングリ・クリ・シイなどの木の実、ゴマ・エゴマ・アサなどの草の実、カタカゴ・ヒガンバナ・クズ・ワラビなどの根茎も澱粉を含み、凶作時に主食の代用となる。
でも、主食としての位置を占めていたのは米・麦・粟・黍・稗・豆の六穀であり、これらは収穫が略安定し、また貯蔵して一年中供食出来たからではないか。
注1)
万葉集には現代も重要な食材ゴマ・ソバが見当たらない。しかし、この食材は有史以前に大陸から恐らく韓国を経て、渡倭していたことは、九州・山陰地方の遺跡から発掘された遺品から証明されている。
2)
六穀の豆を除くものを五穀と称するが、これは勘定がよいから然様にいうのであって、重要なのは六穀(稲・黍・稷・粱・麦・菽としている。五穀と定義するものでも色々しあり、麻・稷・菽・粳・糯・大豆・小豆・胡麻・黄黍などを随時当てはめた例がある。
三穀=梁・稲・菽マメ、
四穀=秬クロキビ・禾杯・糜・芭◆、
五穀=①麻・黍・稷・麦・豆<漢書>、②黍・稷・麻・麦・菽、③稲・稷・麦・豆・麻、
④黍・稷・麻・菽・麦・稲、⑤粳米・小豆・麦・大豆・黄黍、⑥稲殻・大麦・小麦・彖◆豆・白芥子、⑦大麦・小麦・稲殻・小豆・胡麻、⑧粟・稗・麦・豆・稲<日本書紀>、⑨粟・稷・菽・麦・稲<倭名抄>、
⑩稲・大麦・小麦・大豆・小豆<拾芥抄>、
⑪麦・黍・米・粟・大豆、
⑫糯米・麻・大豆・小豆・黄黍、
⑬禾・麻・粟・麦・豆<大和本草>、
六穀=禾余・イネ・黍・稷・梁・麦・〓、
八穀=①黍・稷・稲・梁・禾・麻・菽・麦、②稲・黍・大麦・小麦・大豆・粟・麻、
九穀=稷・稲・黍・米・菽・麻・大豆・小豆・大麦<拾芥抄本>、②黍・稷・稲・梁・三豆・二麦、③黍・稷・禾求・稲・麻・大小豆・大小麦、]
3)
蕎麦は<万葉集>にみえないが、養老六年(722)7月19日の詔に"凶年に備えて晩稲・蕎麦・大麦・小麦を植よ"とあり、尤もソバにはダッタントソバのように苦いものがあるけれども、兎角栽培されていたことは確かである。
当時の倭国には沼沢地が多く、稲作をする条件に適合し、農耕国家として租税の換算は米で行われる程であった。
収穫した米を調理するに、甑で蒸す強飯コワメシと、土鍋に水を入れて炊く粥カユとがあったし、油で炒めた油飯アブライイ、籾のまま焼いて殻を除く焼米ヤキコメの手法もあった。これらの炊事道具ならびに食器類は遺跡から出土しているほか、植物の葉を利用していたことが書いてある。
副食
総称してナと言うが、主に野菜類は菜な、肉類(魚類)は肴なである。聖徳太子の訓詔に仏教の教則から獣肉の食を禁じていることから、日本では明治に入る前まで、おっぴらに肉類をたべなかった。副食には、動物質は主に"魚""貝"であり、それも毎日あるものでなく、野菜類が多く、これには山野に自生するものと畑で栽培する例も記録されている。また、日本人は海藻類はよく食しており、今日殆ど食に供さないホンダワラやミルも採食したことが書いてある。
調味料
塩(堅塩と垂塩)・酢・醤ひしお・油があったが、塩と梅酢を主体にしていた(鎌倉時代に味噌、江戸時代に醤油が生まれた)。塩は海藻を焼いて作った藻塩と製塩時複生する初垂[鹹水ニガリ]がある。醤は大豆・米・小麦・麹油から醸造したものと、魚を垂塩に漬けて腐らせた魚醤であった。魚介類の臓物を出さないまま干物にしたのを"月昔"、牛乳から今のチーズ・バターに似たものを"醍醐・蘇"というものがあった。今日に残されていない珍しいものに楡ニレの内皮を使う料理法があり、此れは内皮と塩で床を造りここに野菜類を漬込んだ漬物であって、酸味と辛味があるという。香辛料としてはニラ・ヒルがあるものの、ワサビ、チソ、カラシなど集に明記はないが、使われていた可能性はある。甘味料は蜂蜜とか飴、干柿などであった。
注4) 小螺しただみを辛塩に漬けた例
16-3880
5) ニレを使った蟹の塩辛について16-3883
6) 塩をなすり付け干した月昔きたひ
16-3886
7) <延喜式>
文武天皇4年10月、乳大1斗を煎て蘇大1升を得る。
8) <賦役令>
胡麻油、麻油、荏油、曼椒油 の記載
9) "山葵"と書いた木簡が太宰府跡で発掘されている。
酒類
太古の時代は蒸した米を処女が口に含んで噛み、これを吐き出して唾液中の酵素によって発酵させる噛酒であった。が万葉の時代には、噛酒は神祭りなど特殊の用途に限られ、麹による発酵が既に知られている。ただし、一般的は濁酒ドブロクであって、上澄みだけを掬って清酒を造ることもあったようである。
官吏役人など階級・裕福により程度の差はあるが、一般通常人の食事は一汁と一~二菜程度で食事は質素であった。がハレの日(祝祭)には大馳走を食する風習があって、正月や節句、或いは地方の祭り、家族の法事などに近縁知人を呼び集つめて大判振る舞いをするのである。
注10) <古事記-50>
須々許理が
噛みし御酒に我酔ひに…
11) <播磨風土記>
麹醸造酒
12) 03-0338,04-0555,19-4275,
13) 19-3972,19-4264
この分類で講釈するのは主食となる穀物であって、これらは豆(菽)・麻以外は全て禾本科(イネ科)に属する。
穀物は人間だけでなく家畜に供する飼料としても慮内におくべきである。近世になってからトウモロコシ・ヒマワリが重要な穀類になったが、万葉時代にはなかった。
また、所謂五穀には入っていないけれども、蕎麦ソバ・胡麻が珍しい。五穀というのは、韻の調子がよいから然様にいうのであって、必ずしも5つというわけでなく、例外なく米は入っているものの他は書によって色々な組み合わせがある。
|
|
我が国では、米は別格であってそれ以外の穀物、即ち麦、粟、稗、黍、菽
を雑穀を差別しているが、それ以外にも飢饉年に食用にされる
雑穀の雑穀
というものがある。
ミノゴメ
Beckmannia
syzigachne
Fern. カズノコクサ
茵草、皇◆草ハルムギ、エッタムギ
北海道~九州の水湿地、特に水田跡に発生する。草丈は30~90cmで花序は直立し長さ15~30cm、密に小穂がつく。小穂はほぼ円形、花は6~7月、約2ケ月で熟す。
<重修本草綱目
17>
側溝或いは田圃に生ず、宿根涸れず、形細長にして看麦娘スズメノテッポウの如し、茎を抽ること数寸或いは一二尺茎互生す、梢長穂をなす、枝ありて直立し、円偏なる小子多く重なり着く、初夏熟して白く落ちて自生す。村民子をとりて糊とす、又屡者、子を取り飯となし食う。獣肉の毒の中り、発熱かるを解す。故にヱッタムギ等の名前あり、一名、ノコノ、スズメグサ
ジュズダマ
Coix
lacryma-jobi
L. ハトムギ
Coix
ma-yuen
Roman.
ジュズダマは高さ1m近くになる多年草で、株状になる。実はハート形で長さ9~10mm。苞鞘は堅く、数珠を作ったりするハトムギは作物として栽培される一年草で、ジュズダマに似るが、苞鞘はそんなに堅くなく、果は
意◆苡仁
と称している。近年になってハトムギを雑穀として市販している。
<庖厨備用倭名本草>
二種ありて一種は粘る、その形尖り殻薄し、これ意◆苡仁なり、その米白色にして糯米の如し、粥にして飯にし、麺にして食す。又米と同じく酒作るべし、一種は殻厚く堅し、此れ菩提子也。その米少なし、即粳米感と云、但、穿て念珠の数珠にすべし。
マコモ
Zizania
lazania
Turcz.
水辺に生える大型の多年草、草丈150cm以上に達する。葉は偏平、細かなざらつきあり、円錐花序は大型で直立する。本草を刈り取り、敷物や衣服を作ったので真菰と名付けられた。黒穂病によって肥大した若芽を中国では食用にしている。日本では、この実を食用にしたことが伝承されているが、詳しくはない。本種に似たZ.aquatica
L.は北アメリカのインデアンが食用にしているもので、英名を
Wild
rice
と称し、美味であるそうだ。米国の食料研究所は将来地球の環境変化によって穀物が採れなくなった時の代替として考えているとのことである。
ソバ
F.esculentum
Mönch.
ソバにはダッタン種という草丈の高い品種があるが、我が国には普通種であり、奈良時代に渡来していたことは確かである。痩せた土地でも寒冷地でも育ち、夏蒔きでも2ケ月位で収穫に入るので、凶作の年にはその対策として追栽が行われた。近年はソバブームで少しは挽回したが、明治以降栽培が激減している。
上記は常食としてよいが、著しい凶作の年には、タケやササ、ドングリなども供食していた。近代になって、トウモロコシ・アマランサスが穀物として統計に載るようになっているが、これはCbにて取り上げる。
雑穀は飽食時代の今日顧みなくなってしまったが、たまに興味本位に健康食の宣伝を聞いて、気まぐれ蜻蛉族が食している。凶作を知らない現代子には理解出来ないことであろうが、戦中戦後の荒廃期をくぐり抜けた母子家庭の者にとっては、食料とくに穀物の不足は深刻なものであった。我が国には救荒植物なる古典があり、これを参考にして野山を漁ったのであるが、小生らが目をつけたのは雑穀の雑穀で、道端に生えている雑草である。比較的子実が得やすいのはスズメノヒエ、チカラシバ、カモジグサ、エノコログサが対象で、この子実を脱穀する手間を省くために、乾燥して叩き風篩したものを殻共に煮て、その粥状汁に麦芽を加えて撹拌、木綿布で濾過し、ろ液をそのまま飲むのである。結構甘くて美味しい。少し置くとビールと洒落てこれまた美味しい。この欠点を述べると、まず、労力の割りに腹の足しにならないのである。それは原料の採取が量的に難しいことで、これらの雑穀は熟すると自然に穂から離れてしまうことである。それからよく対策を考えなかったが、若し黒穂病の感染している子実があったらどうかという問題であろう。
世界の穀物の事情
|
人口 |
米(1000t) |
大麦(1000t) |
小麦(1000t) |
らい麦(1000t) |
えん麦(1000t) |
とうもろこし(1000t) |
|||||||
89~91年 |
2001年 |
89~91年 |
2001年 |
89~91年 |
2001年 |
89~91年 |
2001年 |
89~91年 |
2001年 |
89~91年 |
2001年 |
|||
世界 |
61.34 |
億人 |
516,884 |
592,831 |
170,565 |
141,220 |
559,105 |
582,692 |
33,638 |
22,728 |
37,567 |
27,278 |
484,783 |
609,182 |
アジア |
37.21 |
|
474,099 |
539,842 |
18,617 |
17,814 |
201,270 |
238,740 |
1,301 |
1,041 |
1,072 |
1,177 |
126,673 |
158,050 |
北アメリカ |
4.93 |
|
9,281 |
12,041 |
22,151 |
17,580 |
94,973 |
77,849 |
886 |
371 |
7,421 |
4,565 |
217,658 |
271,376 |
南アメリカ |
3.51 |
|
15,439 |
19,543 |
1,153 |
1,678 |
16,917 |
23,631 |
68 |
122 |
1,118 |
1,226 |
35,040 |
63,978 |
ヨーロツパ |
7.26 |
|
2,276 |
3,171 |
71,783 |
92,776 |
130,845 |
200,392 |
12,966 |
21,132 |
11,571 |
18,851 |
54,678 |
63,688 |
アフリカ |
8.13 |
|
12,831 |
16,974 |
5,952 |
3,636 |
14,639 |
17,956 |
21 |
31 |
238 |
123 |
38,700 |
42,200 |
オセアニア |
3.1 |
|
868 |
1,261 |
4,608 |
7,755 |
13,639 |
24,124 |
26 |
21 |
1,678 |
1,336 |
376 |
688 |
旧ソビエト |
|
|
2,138 |
? |
46,301 |
? |
87,014 |
|
18,390 |
|
14,460 |
|
11,659 |
|
日本 |
1.272 |
|
3,371 |
4,216 |
333 |
220 |
898 |
700 |
|
|
4 |
2 |
1 |
1 |
アジア地域の米の動向
(2001年)
単位
万トン
|
中国 |
インド |
インドネシア |
パングラディシュ |
ベトナム |
タイ |
ミャンマー |
フィリッピン |
日本 |
米国 |
生産量 |
18,600 |
13,051 |
5,142 |
3,525 |
3,181 |
2,550 |
1,700 |
1,246 |
1,184 |
880 |
消費 |
13,611 |
8,500 |
3,635 |
2,402 |
1,710 |
1,000 |
945 |
881 |
930 |
393 |
輸出 |
200 |
100 |
160 |
50 |
430 |
670 |
25 |
70 |
70 |
260 |
輸入
|
31 |
|
|
|
|
|
|
|
|
32 |
在庫推定 |
6,660 |
1.980 |
|
|
|
168 |
89 |
233 |
280 |
76 |
世界の雑穀
世界の人の主食とするものは、
① コメ
② ムギ(オオムギ、コムギ、ライムギ、エンパク)
③ イモ(バレイショ、カンショ、タロイモ)
④ トウモロコシ
の四大主食圏を構成している。近年は物流時代であるから、貿易交流によって、必ずしも限定するわけに行かなかったが、未だにその主食に拘り、他を顧みない民族習慣は根付いている。ところが地方の気象条件により、これらの主食を栽培出来ない地域があり、ここらでは他の植物種子を主食にしている。いわゆる、
雑穀
である。この地域は降雨量が少なく、耕地に十分の給水ができないためである。
ある事業団体が、インドの高原地帯の貧困生活を救おうとして、まず食料の自給を目論んだ。この地域は日照は強いけれども、特に暴風はなく平均気温は20~30゚の植物にとっては快適の条件であるけれども、ただ水がなく、村民は30mほどの井戸を掘って地下水を得ている状況であった。事業団体はさらに深い井戸を数本掘り、この水を以て農作物を栽培し、さらに家畜を飼う計画であった。一年目は野菜を栽培し、次年度はトウモロコシを次は麦に取組み、豊作が続き部落民に笑顔が浮かんだ。だが順調であったのは数年で7年目は野菜が育たなくなり、8年目は地面のあちこちに禿げ面が見られるようになった。そして10年経過すると一面は白い結晶に覆われた。結果は明瞭、即ち、地下水に含まれる塩分が蒸発によって析出したのであった。降雨量が十分でないと、水は地下に浸み込まず、かえって地下の 水が毛細管現象によって地表へ導かれる結果となり、あとは救いようがない。今は、全面雪が積もったように塩田化してしまっている。
気温が高く、降雨量が少ない地域ではコメやムギでなく雑穀と称する植物の種子を食料としている。これらの多くはイネ科であるが、そうでないものもある。これを擬禾穀類Pseudocereals*と言っている。なお、乾燥地帯でなくとも、マコモのような雑穀もある。
中央アジア高原地域 |
キビ |
Panicum |
アワ |
Setaria |
|
インドビエ |
Echinochloa |
|
ニホンビエ |
Echinochloa |
|
ハトムギ |
Coix |
|
コウリャン |
Sorghum |
|
ソバ(タデ科)* |
Fagopyrum |
|
インド亜大陸地域 |
インドビエ(ユダミレット) |
Echinochloa |
コダミレット |
Paspalum |
|
ライシャン |
Digitaria |
|
南アフリカ |
モロコシ |
Sorghum |
エチオピア地域 |
シコクビエ |
Eleusine |
テフ |
Eragrostis |
|
トウジンビエ |
Pennistum |
|
フォニオ |
Digitaria |
|
南アメリカ |
キノア(アカザ科)* リママメー |
Chenopodium |
メソ・アメリカ地域 |
グレイン・アマランス (センニンコク)(ヒユ科) |
Amaranthus |
ナッツ
主食に挙げた穀物は空腹を満たし、腹持ちがよいのであるが、果物は糖分が多いといえ此れだけではカロリーは不足しすぐおなかが空く。これに対し、現在は果物と同じ感覚で食べて居るナッツは栄養分が高すぎるくらいである。店頭で見られるナッツはアーモンド、カシューナッツ、オールナッツ、ヘーゼルスッツ、マカダミアナッツなど外国産のもの許り(ピーナッツは同じ目的の食品であるが、正確には豆ビーンである)、ビールのつまみであるが、つい食べ過ぎて肥大の原因である。Nutは堅果のことであって、我々がナッツといっているのは、その堅い殻を除いた可食の部分をいっている。これに、ヒマワリ、カボチャ、スイカ、マツ、ハス、ヒシ、ガルパンソ、ソラマメの種子も広義のナッツである。これはナッツでないけれどもナツメやバナナのような漿果を天日で乾かしたものも同じ店頭で売られている。ヤシの類は大型で利用途も多いのだが、これは産地が東南アジア諸島であるので、別に扱われている。
日本のナッツは、他の食物が入手し易い状況にあったので、重要視されないが、縄文時代は主要な食物の一つであった。<朝日百科
世界の食べものVol.128
昭58
>[渡辺誠
名古屋大学教授]によると、全国200ケ所以上の縄文遺跡から木の実が出土しており、最も多いのはクルミで、ついでドングリ、クリ、トチ、ブナとなっている。他に、カヤ、ヤマモモ、ツバキ、イヌガヤ、サンショウは少ないが出土している。もっともドングリのなかには、落葉広葉樹のクヌギ、カシワ、コナラ、ミズナラと、常緑照葉樹のアカガシ、アラカシ、イチイガシ、ツブラジイ、スダジイ、マテバジイなどが含まれる。縄文時代の遺跡が西日本より東日本に多いのは、ドングリ類がこの地方に多く繁殖していたのが一因であるとしている。
ナッツの栄養価
|
炭水化物 |
脂肪 |
タンパク質 |
水分 |
熱量カロリー |
生クリ |
39.6 |
0.5 |
3.1 |
55.0 |
180 |
ギンナン |
31.5 |
1.5 |
5.3 |
59.4 |
162 |
シイの実 |
62.8 |
0.4 |
4.5 |
30.4 |
280 |
トチの実 |
71.5 |
6.1 |
3.1 |
14.3 |
369 |
マツの実 |
31.0 |
21.9 |
17.1 |
10.1 |
626 |
クルミ加工品 |
8.4 |
60.3 |
23.1 |
4.1 |
626 |
カヤの実加工品 |
15.5 |
58.3 |
12.2 |
6.7 |
612 |
ハシバミ加工品 |
17.7 |
58.8 |
12.7 |
4.7 |
622 |
アーモンド加工品 |
14.3 |
54.9 |
21.0 |
4.8 |
603 |
カシュナッツ加工品 |
25.4 |
47.2 |
19.6 |
4.1 |
571 |
ドングリなど、一部の特例を除いて現在日本では食料に供することはないけれども、アメリカインディアン、イランの山村、朝鮮のトトリムクのように今でも食している地方がある。トチ、ドングリは渋いタンニンと毒性のあるサポニンが含まれているので、まず、これを除去しなければならない。タンニンの除去方法には次ぎのようである。
[1]発酵法:
簡単な方法で、取ってきたドングリを皮を剥かずに、冷水の多い湿地に埋め込んで置く方法である。1年も置くと、紫色に変わり、柔らかくなってそのまま食べられるという。よく似た方法は皮を剥いてバスケットの中に入れて置くとカビが生えるので、それを川底の砂のなかに埋め込んでおく。或いは、木炭や灰と一緒に埋め込んでおくというやり方である。
[2]水晒法:
採取してきたドングリを10日位水に沈めて虫を殺し、天日で乾燥してから保存する。用事に際し、皮を剥き、粗砕きして袋に入れ、流水に一晩浸けてから灰汁と共に煮沸し、次ぎにあくが無くなるまで何度も水を代えて洗う。別の方法は石臼でドングリを粉に挽き、袋に入れ、この袋を桶に沈め、何度もお湯をかけてあく抜きをする。
[3]澱粉法:
ドングリを皮付きのまま石臼で細かく摩砕し、これを袋に入れ、水を張った桶に入れて袋を揉み、澱粉を搾りだす。静置して澱粉が底に沈むをまって、上澄みを捨てる。これを何回か行って、渋抜きをし、底に溜まった澱粉を取り出し、ソバや麦粉を混ぜて団子にする。
この、晒し法と澱粉採取法は、ワラビ・クズ・カタクリ根からの澱粉採取に応用され、ヒガンバナ根の除毒にも適用される。