Ca-04. ひえ

Ca-04.

ひえ 稗・サン

ヒエ

漢名:稗子。䅟サン

[万葉集記事]

11-2476

12-2999

以上2首

()11-2476前書

或る本に云わく


打田 稗数多 雖有 択為我 夜一人宿


打ちし田に稗はあまたにありといへど選らえし吾ぞ夜ひとり宿る

()12-2999前書

物に寄せ思いを陳ぶ 或る本に云わく 、


水乎多 上尓種蒔 比要乎多 択櫂之業曾 吾独宿


水を多み上田に種蒔き稗を多み撰らえし業ぞわがひとり寝る

注釈

() 打ちし =打つ{田を耕す}の完了型。 撰らえし =選る{選ぶ}の否定過去形

() 上田 =水はけのよい高い土地にある田。 業 =職業、多くは農業を指すがここでは事態と捉える。 撰らえし =選ばれなかったあぶれ者

[概説]

ヒエは中国の五穀(漢書によれば黍、稗、菽、麦、稲)に入っており、古くから栽培されていたらしい。古くは<日本書紀>に保食神の死骸の眼が生えたと書いてある。(同様な記述は古事記にもあるが、ヒエは抜けている。)日本で栽培されたヒエはイヌビエの改良種であって印度などで栽培されるヒエ稗Panicum frumentaceumと若干異なるようである。

ヒエの原産地はよく分かっていない。恐らくインドで次の2種のいずれかの系統を引いていると思れるが、原種が失われている。我が国へはアワと同様、北部アジアを経て、縄文文化人が持ってきたと推定される。我が国の北方にある青森市三内丸山遺跡(55004000年前)からオパールカ化したヒエが出土した、イヌビエより丸く明かに栽培された種と判定[吉崎昌一教授]されている

ミズビエ

Panicum crus-galli L., subsp.genuina var. echinata Hanada

ノビエ

P.crus-galli L., subsp.mutiea var. typica Hanada

ヒエはイネ科の一年草で、古来食用や飼料のために栽培されてきた。ただし、稲作に混ったとき、種の発芽力が強く肥料分を稲よりもよく吸い、また米に混じたとき米の品質を下げるので稲田では嫌われ、これを抜いて捨てることから、"ノビエを抜く"とは邪魔物を仲間から除くことをいう。光の差し込みの少ない山間の田圃で栽培されて貧乏百姓の主食でもあった。ヒエは湿田で栽培される"タビエ"、芒の長い"クマビエ"もあるが、稗には餅種がなく、全部ウルチである。稗の実はやや三角錐型をしており堅い花につつまれ、紫褐色をしている。畑で栽培するタビエはノビエの一変種であり、クマビエは長い芒をつけている。もう一種の食用にならないクサビエ草稗がある。…ヒエと呼ぶ野生種のヒエは属も違い、食用にならないものは、

イヌビエ

Echinochloa crus-galli Beanv.

スズメノヒエ

Paspalum thunbwrgii Kunth. ,

シマスズメノヒエ

Paspalum dilatatum Poir. ,

穀類として食用になるものは、 次の種で、広く世界で採用されている。

ニホンビエ

Echinochloa utilis

中央アジア高原

インドビエ

E.frumentacea (ユダミレット)

インド亜大陸地域

コダミレッ

Paspalum scrobiculatum

インド亜大陸地域

シコクビエ

Eleusine cracana

南アフリカエチオピア地域

トウジンビエ

Pennistum americamum

南アフリカエチオピア地域

帽記の集の歌は二首とも恋人に捨てられた自分を歌っているので、この雑草扱いの稗を云っているのであろう。 稗は性質強健のため冷害でも実るので救荒穀物として重要であった。近年は稲の改良品種が進み、米の不作となる心配は少なくなって、稗は見捨てられているけれども、却って珍品食品として料理店で話題に出されることがある。ヒエの飯は暖かい間は結構美味しく戴けるが、冷えた稗飯は途端にまずくなる。表に出られない状態のことをヒヤメシを食うというが、これには"稗飯""冷飯"の両義がある。昔の農家は朝昼晩と毎度炊飯せずに、朝か夜に一回だけで済ませたものを櫃に入れておき、冷えた飯を供したので、稗飯=冷飯はまずい物の代表ということになったのであろう。

日本の古代で、コメの以前にヒエ主食時代があったらしく、古墳から出土している。ヒエの 原産地はインド辺りの東アジアとされ、その原型はノビエ・ミズビエの如きるのであったろう。寒冷地にも育つが、これは高冷を好む為でなく、然様な不稔の土地でも育つからで、古来冷害不作に備える雑穀であったが五穀の一つに参入したのである。最近は従来不味の代表とされたヒエも、黒蒸法また白蒸法といった予備加工によって、栄養分を損うことなく、食味のよい加工品が出回るようになり、飽食文化の下で珍味とされている。

[補足]栽培されるヒエは䅟サンであって、野生のヒエは稗である。種名は同じであるが、塾種の脱落性が少ない。


<日本書紀 1 神代 >

一書曰…天照大神、復遺天熊人往看之、是時保食神已死矣、唯有其神之頂化為牛馬 中略 眼中生


<日本書記(1神代上)

乃ち粟稗麦豆を以ては陸田種子はたけつものとす。稲を以ては水田種子たなつものとす…


<倭名抄9-17>

比衣


<字類抄>

ヒエ 草之似殻


<本草綱目>

ヒエ 苗〓黍の如し。八九月茎を抽んづ。三稜あり、細花をひらく。簇りて粟の穂の如し。

本綱、稗野生、乃禾卑賎者也、故宇从卑、最能乱苗、其茎葉穂粒並如黍稷、一斗可米三升、有水旱二種 水稗 生田中、其穂黄白色、以煮粥炊麪食

旱稗 生野中、苗葉似〓䅟、色深緑、根下葉帯紫色、稍頭偏穂、結子如黍粒茶褐色、荒年可糧、謂五穀不熟不如禾弟稗也、能殺虫、煮以沃地、螻蚓皆死 按稗処々悪田種之、煮粥或作〓食羹、謂之稗団子、卑農之糧之、如上田亦洪水流失稲苗則不止種之、六月種七月熟


<成形図説 25 >

比延 真ホムビエ 此物水陸の二種あり、卑湿にうるゝを水ミツビエと云、水田に作れり、万葉に水をおほみあげに種蒔ひえをおほみられしゆゑぞ我ひとりぬる、即このものなり、信濃岩田村は国の高処にて、六月麦を刈あげ、七月僅かに稲穂を出すといへども、間もなく秋霜に傷イタマサれて、実を結びがたきことあり、故に水を作れり、中略 リクビエは山野の樹木を燎夷ヤキタイラゲて、其木灰を肥としてこの種を播ホドコす也、字鏡に所謂不耕而種を焼蒔ヤキマキとも荒蒔アラマキとも云、即是也、日向諸県郡以北、肥後五家の荘に至りては、連山波濤のごとく、絶険狭隘にして稲田を佃ツクリがたく、山民時をうかゞひ、叢林を刈、火を烈て、灰となるを待つ、乃子を播植、これを収て周歳の餮殖に供ふ、俗呼ひて木場コバビエと云、秋アキビエは芒多く、猪鹿猴も食わず、故に山農好て之を作れり、

゙エ

<重修本草綱目啓蒙 17 >

稗 ノビエ

野生のヒエなり、数種あり、旱稗はイヌビエと云う、陸地路傍庭院に自生す、苗は狗尾草エノコログサの如く、 遍茎叢生し正立せず、夏已後穂をだす、子に似て小さく緑色芒ある物あり、芒なき物あり、紫芒ある物を黒イヌビエと呼、一名クマビエ、即禾弟なり、水稗はクサビエと呼ぶ、一名ミズビエ即秀なり、以下略蘭山翁子の条に説く処は悉く稗なれども、この条に説く処は子には非ず、ノビエは稗の種類にして、主治に説く如く飯となすべき者にあらず、後略


<大言海>

日得の義 日毎に盛んに茂れば云う。韓語ピイ 水陸の二種あり。田稗は痩地の水田に植え、畑稗は陸に植え、共に形 粟・黍に似、穂は粟の如く小さく枝多し、芒あるものと無きものあり。辺鄙にて其子を食用とす。子又野稗というは苗甚だ稲に似て茎平らたく群生して正立せず子に似て小さく緑なり食うべからず

[植物]

ヒエ  Echinochloa crus-galli Beauv. var.frumentacea Wight

学名のechinochloaechinos=ハリネズミ chloe=crus=にわとり galli=ケヅメ

湿田などで栽培される雑穀のひとつであり、一年草で茎はよく分枝し、高さ12mになる。葉は細長く、長さ3050cm。円錐花序は長さ20cm<枝の上に密生した小穂は卵型で先が尖って芒はない。秋になって熟すと帯紫褐色になり、果実は堅い果殻に包まれている。アワと同じく多くの品種があるが文献に纏められていない。水田用・陸作用、芒あり・なしなど。子という。ヒエの母種は イヌヒエ var.crus-galli Beauv. でアフリカから南アジアに至る間で改質されたと推定される。

[補説]

1.ヒエは稲田で雑草として邪魔ものにされる。イネよりも生育が早く、肥料を食い、種が落ちて繁殖力が強い。この為に田植の直後から除草するのに大変である。[葉の中脈が半透明、葉舌・葉耳がない、葉色が若干紫を帯びる]などがイネ苗と異なる。

2.類似した稗:①ミズビエ 芒がながく、水辺に生える。②タビエ;田圃の雑草で茎は直立し、稲よりも草丈は高い。③イヌピエ:茎は横走して、短い芒がある。④ヒエ;栽培種は茎は直立して、穂は巨大で、種の脱落性が少ない。

[周辺]

食用になるヒエには畑で栽培されるハタビエ、芒が長いクマビエなどがあるが、属を別とする シコクビエEleusine indica Gaerin subsp.caracana T.Kayama と云うのがある。これはコウボウビエ、ノラビエ、カラビエ、トウビエ、カモマタビエ、などの別名をもち、雑草のオヒシバEleusine indica Gaertn.を大型にした様な格好をしている。かって日本の山間部でも牛馬の飼料として植えていたが現在は見らない。インド北部、中国内陸部では主食にしているところがあるという。インドのマイソール地方での変わった食し方は、種子を水に浸した後、これを広げて発芽させたものを再び乾燥してから炒ってそれを粉末にして食べる。シコクビエは旱魃に強いので、救荒植物としての価値は高い。ヒエの栽培はヒエムギダイズと2年3毛作で捌かれる。

ヒエは 植物の分類からいうと、イネ科Poaceae のうちでエノコログサ型の小穂をもつものであり、キビの類と似る。ノビエの種は屋外で覆水して零度以下の寒さに会わないと発芽しない。

キビのクループ

花序は大型の円錐花序となる。

キビ属 Panicum


ヒエのグループ

花序は掌状、また少数の枝からなる。

イヌビエ属 Echinochloa

イヌビエ、ヒメイヌビエ、タイヌビエ →ヒエ

チヂミザサ属 OplisMenus

チチミザサ、エダウチチヂミザサ

ナルコビエ属 Eriochloa

ナルコビエ

スズメノヒエ属 Paspalum

スズメノヒエ、スズメノコビエ、アメリカスズメノヒエ、シマスズメノヒエ

メヒシバ属 Digitaria

メシヒバ、コメヒシバ、アキメヒシバ、→シコクビエ

メシヒバとオシヒバは日本語で対比する如く聞こえるが、これは別属である。両方とも世界中で雑草となって広がり、米語Lar ge-carb grass(独語Bluthirse Fingergrasse)とよび、ジシバリ、アキボコリ、オナゴスモトリ、カンザシグサ、トコロテングサ、ハグサ、ヤツマタ の異名がある。[ヒシバ]とは日光が強いところで育つので"日芝"というで意味である[牧野説]と、またヒ エの一種"稗芝"とする[深津説]との両方がある。

[名前]

[語源]

漢名の訓読み、別説には朝鮮語phiフィからとも。日得の義 日毎に盛んに茂れば云う。

[学名]

Echino= 刺のある chloacrus= 緑色の galli=フランス人の名 crus-galli 鶏のケヅメ Frumenfagea 穀物

[古名]

比要、比江、稗

[別名]

賤草いやしぐさ・米・稗米

[漢語]

稗/・白脚筍・交筍/ 交草・交筺

[英語]

barnyard millet,japaniese milet,

[独語]

Schwahirse,Japanische Herse

[古典]

<今昔物語21>

稗米を粥に煮て、…

<新撰和歌六帖>

穂に出でぬ 夏だにまじる ひえ草の ひき捨てられて 世をや過なん 藤原 為家

<二宮翁夜話>

翁曰、囲穀十年を経てね少しも損ぜぬ物は稗に勝れるはなし、…

<本草綱目 >

時珍曰、、苗交黍の如し、八九月茎を抽ず、三稜あり、細花開く簇りて粟の穂の如し

<俳句>

稗の葉の 門より高き あつさかな

小林 一茶

稗飯の 中の稗粒 冷めやすし

加藤 知世子


雨がちに 海女の遅れ田 稗多し

石田 波郷

稗抜き女 稗波に没りて しまひけり

掘 古蝶


稗の穂の馬逃がしたる気色かな

越山

糖尿や 稗飯食いて 天高し

水木 真貫

[用途]

[食料]

子実。

稗の飯はヒヤメシと云うけれど、結構美味しい、東北の或る温泉宿で食わせて呉れるところがある。稗は煮炊すると米よりもずっと容量が増えるそうである。

栽培品種:

(東北/中部)白稗、台湾、与市早生、早生赤、登谷、南部稗、栃木、飛騨、朝鮮、二子糯、錦州、白北稗、ポンピー、ワンサルビー,黒糯、沼宮内、乙、五戸糯粟、陸羽3号、長野、

(関西以西)鳩の子、与左衛門、モデス、弘法糯、岩コロハシ、高知、高知2

[飼料]

特に小鳥の餌、