Ca-06.
まめ
萬米・末女
豆
・荳・菽・荏
マメ
漢
語:
豆トウ・菽シュク・荏菽ジンシュク
[万葉集記事]
20-4352
の一首
天羽あまば郡上丁丈部鳥じょうちょうはせべのとり
美知乃倍乃
宇万良 宇礼尓 波保麻米乃 可良麻流伎美等 波可礼加由加牟
道のべの荊の末にはほ豆のからまる君をはかれか行かむ
注釈:
天羽郡=君津郡南部の一帯。
はほ豆=延ふ豆
[概説]
万葉集でマメの出題は帽掲の一首のみであるが、其処で麻米の万葉仮名を当て,而してこの豆はこの歌で"うまらの末うれに這う豆"とあるから、地表を這う蔓性で豆(粒状の子実)がつき、且つ茨イバラの如く他物に絡まる植物ということになる。集の宇万良ウマラの訓訳を茨イバラとして、荊の義であるとの見解もあるし、波保を"這う"との解読についても疑問が残る。マメとは豆科の植物をいうのみならず、小さい粒状のものをなべて然様にいうことも考えに入れなければならないであろう。
この歌を直に解くと、(イ)荊のように人にからまる、(ロ)這って延び、その末に豆がなる、(ハ)道辺にはえる、
その豆の条件は整なう。
この条件をマメ科植物から選ぶとすれば、サイカチやエンジュは刺のあるマメ科樹木であるけれども"這う"に該当しない。[オジギソウの仲間は刺が発達しているが日本古来のものでない]
刺はなくても蔓があって攀茎性とすれば i)カラスノエンドウ
Vicia
ⅱ)レリンソウ
Lathyrus
ⅲ)タンキリマメ
Rhynchosia
ⅳ)アズキ
Azjkia
ⅴ)ツルマメ
Glycine
ⅵ)ヤブマメ
Amphicarpaea
ⅶ)ノササゲ
Dumasia
などの
属の仲間がある。元来マメ科植物は蔓性の素質があり、ダイズなど栽培すると、時に先祖返りして蔓状になったり刺が生えたりすることは稀にある。
松田修先生はこの中から
(a)
ツルマメ
Glycine
soja
Sieb
et
Zucc.
を指定している。ツルマメは日本各地の山野に自生する一年草で、これから農作物のダイズが改良派出したとされる。確かに、毛深いこと、三出葉など大豆と外観は似ている。(b)また、大豆に似ているものに、茎が蔓状になる豆類で鞘ともに食用とするフジマメDolichos
lablab
L.があり、地方によりこれをツルマメと呼んでいる。(c)或る植物園ではヤブマメAmphicarpaea
bracteataを植えて、これを万葉の豆と表示している。確かにこの豆は、這う豆の定義に叶っている。閉鎖花が咲き、落花生と同じく地下に潜って豆を稔り、食用になる。小生は、マメ科ではないが、(d)サルトリイバラSmilax
china
L.
でないかと推考している。
これは野山に自生するユリ科の蔓性の植物で鋭い刺があり、地面を這ってその蔓の先(末)に7~9mmの青黒い球状の液果をつける。
さて、
豆を漢字で、歩◆・豆・荳・菽シュク・荏菽ニンニク・鼓◇と書き、古来食用として重要なものである。麦米類は栄養分として炭化水素が多いに対し、豆穀類は蛋白質をも含むし、油脂分もある植物性栄養食品であるので、仏教教理が汎弥した奈良時代以降の日本では魚肉類に替わる主要な蛋白源でもあった。今日では極めて多くの種類の豆が栽培されおり、種子のみならず未熟な莢を食べるし、発芽した芽(もやし)としての需要も多い。古代でも豆類の嫩苗や若葉(雲◆カク)を食していたらしい。食品以外にも、医薬品・染料・塗料・繊維原料に用途が広い。
中華国では豆の各所を食して、
菽
シュク・
荏菽
シンシュク・豆(荳)トウ・召◆ショウ・薇ビ(のえんどう),
霍◆カク(豆類の嫩葉)、
其◆(まめがら)など字が使われている。豆という字には、食器の意味があるから、植物のマメは荳の方が正しい。
マメの語源について、インド語(シンガレー語)のムンメガ転じてマメになった(アズキはアジケ)と紹介されているのもあるが、恐らく丸い実
マルミ
が転じてなったのか、摘まんで指頭にコロリと丸く感ずるからであろう。
円豆類はその子実か美味であり、豆には栄養があるので、古くから食用になった。保存・運搬しやすいので、人類の発展と共に各地に齎ってきて栽培したので、各地方の改良変種があり、また方言も特殊なものがある。漢書に五穀として、麻・粱・稗・粟・豆または稲・麦・稷・麻・菽(豆類全般)を列挙している。マメは子実のみならず、未熟の莢共に、また若い葉と茎を、種を浸水にて発芽するモヤシ、花をサラダの彩りにして食したり、インドでは根を食べる豆の種類もある。クズイモ(ヤムビーン)Cacear
erosa:Pachyrhizus
erosus
Urbanの根は澱粉を多量に含み、クズの様にこれを採取する。
一方、マメ(マメ科植物)には毒性物質が含まれているのもあるから、注意すべきことでもある。豆の語意は、<大言海>によれば、「①マメ科の植物
②大豆・小豆・豌豆・などのうち食用となるもの
③小さい玉状のもの
④クリクリした硬い出来物や皮膚の炎症
⑤陰核の隠語
ズ
は頭の訛である」と記している。
<大言海> |
圓實マルミの約転と云う。沖縄ではマミ世に祝賀の物とするは忠実健全の意に取る。萬米マメ、日本の豆に関する最も古い記事は、古事記と日本書記にある。古事記と日本書紀とは、同舞台でも若干違っており、これを比較する事は興味がある。豆・小豆等の生えた場所をとらえてみると、解剖学的には日本書紀の方が理屈に合っていると思う。 |
<古事記(五穀の起原)> |
また食物を大気津比売神に乞ひき。ここに大気津比売、鼻口また尻より、種々の味物を取り出して、種々作り具へて進る時に、速須佐之男命、その態を立ち伺ひて、穢汚して奉進るとおもひて、すなはちその大宣津比売神を殺しき。故、殺さえし神の身に生れる物は、頭に蚕生り、二つの目に稲種生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰に麦生り、尻に大豆生りき。… |
<日本書記(神代)1> |
即ち軻遇突智、埴山姫を娶きて、稚産霊を生む。この神の頭の上に、蚕と桑と生れり。臍の中に、五穀生れり。冏象、これをば美都波みづはという。 |
2> |
保食神うけもちのかみ、乃ち首を巡らして国に饗ひしかば、口より飯出づ。また海に饗ひしかば鰭の広・鰭の狭、亦口より出づ。また山に饗ひしかば毛の蓖・毛の柔。…月夜見尊、忿然り作色して曰く、「穢しきかな、鄙しきかな、寧ぞ口より吐れる物を以て、敢へて…廼ち剣を抜きて撃ち殺しつ。…天照大神、復天熊人を遣わして往きて看しめたまふ。その時に、保食神、実に既に死れり。唯其の神の頂きに、牛馬化為る有り。額の上に粟生れり。眉の上に蚕生れり。眼の中に稗生れり。腹の中に稲生まれり。陰ほとに麦及び大小豆生まれり。 |
<本草和名(918)> |
編◆豆、一名鵲豆、 |
<新撰字鏡(898)> |
圏◆、鹿◆豆、天豆、阿地万女 |
豆科植物は約650属18,000種も包含する第3番目に大きい科で、地球上の多様の環境にあうように適応して分化している。
人間もこれを利用して:美質装飾建材(紅木,蛇木、バルサムetc),繊維類(サンヘンプ、レダマetc)、タンニン原料、飼料(及び緑肥タヌキマメ、ルピーンetc、)、
染料(赤色系のキノカリン,赤紫系のヘマティン,青藍系のインジゴ),増粘材(トルーバルサム、イナゴマメetc)
,香辛料(トンカ豆、タマリンド、コロハ),
薬用(センナ、ハブソウetc),殺虫剤(イリス根)など各方面に用途がある。大凡食用とされる豆類は大凡
|
名称 |
英名 |
学名 |
日本漢字 |
中国漢字 |
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① |
ダイズ |
Soy |
Glycine |
大豆 |
大豆 |
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② |
ソラマメ |
brosd |
Vicinfaba
|
蚕豆・空豆 |
蚕豆 |
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③ |
エンドウ |
Pea |
Pisum
|
豌豆 |
豌豆 |
|
④ |
インゲンマメ |
kidney |
Phaseolus |
隠元豆 |
菜豆・芸扁豆 |
|
⑤ |
アズキ |
Azuki |
Phaseolus |
小豆 |
赤豆・赤小豆 |
|
⑥ |
ササゲ |
black |
Phaseolus
|
豇 |
豇豆 |
|
⑦ |
ナタマメ |
Sword |
Canavalia |
鉈豆 |
刀豆 |
|
⑧ |
ナンキンマメ |
Pea |
Aruchis
|
南京豆 |
落花生 |
|
⑨ |
フジマメ |
Egyptian |
Dolichos |
藤豆 |
扁豆
|
|
⑩ |
ヤブマメ |
|
Amphicarpaea |
薮豆 |
三籵両型豆: |
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⑪ |
キマメ |
Rigeon |
Cajanas |
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インド原産 |
⑫ |
ライマメ |
Lima |
Phaseshis |
葵豆 |
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熱帯アメリカ |
⑬ |
シカクマメ |
Winged |
Psophocarpus |
|
|
熱帯アメリカ |
⑭ |
ベルベッドビーン |
velwet |
Stizolobium |
|
|
熱帯アジア、アフリカ |
⑮ |
ヒヨコマメ |
Chick |
Cicer |
|
|
トルコ、インド |
⑯ |
グラスビー |
Grass |
Lathyrus |
|
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⑰ |
レンズマメ |
Lentil |
Lentil |
偏豆 |
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⑱ |
ゼオカルマメ |
Kersting |
Macrotyloma |
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⑲ |
ハナマメ |
|
Phaseolus |
紅陰元 |
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⑳ |
モスビーン |
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Vigna |
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|
豆科植物の蝶型花(ネムノキ亜科は糸状花)は美しいもので、スイトピーやエニシダの如く観賞用もある。花被は、旗弁
1(
sp
大きく立って、先に割刻がある)・翼弁
2(
np
先端が内側に曲がって蘂を囲んでいる)・竜骨弁
2(
kp
2弁が融合し1個に見えることもある、下方で子房を受けている、)の5弁からなる。雄蘂・雌蘂は基部が融着し、基部は胚が内蔵する子房となっている。雄蘂は10本あるが、そのうち1本だけが離生して着く。
マメ科植物は根瘤バクテリアが寄生し、空中の窒素を取り入れるので、窒素肥料は不要である。そして、レンゲソウ・シロツメクサ・ハギの如く緑肥に用いるため栽培される。根瘤バクテリアの寄生する植物は、マメ科の外にカバノキの仲間があるが、いずれも栄養分のない痩せ地でも繁茂するため、空中窒素を同化固定して植物に供与する。植物によって寄生するバクテリアの接種群が違うようで、現在6種ばかりが確認されている。
次なる特徴は、種子が概して大きく鞘に入っていること、世界最大のモダマの種子は1〓位もある。栄養分となる子葉も種子に内蔵されており、発芽に伴い地上で双葉となる(エンドウの類は子葉を作らない)、南京豆は子葉は地下に存在したままである、南京豆の花は受精すると落下して、茎の別の所から果梗を延ばして地中に潜り、その先に種子を実らせるといった奇妙な性質をもっている。
豆類は栄養分が豊富なのであるが、
生では特有の匂いがあって、そのままで食することは出来ない。事実、生で食すると、サポニン類が毒成分として働き、摂食後嘔吐を催したり、著しくは脈不整に陥るそうである。必ず、加熱処理の後食すること。これは飼育鳥獣の餌にも同様である。ところが、豆を水に浸けて発芽段階にあるものは、生であっても毒性を呈しないから、鳩や鶏はこの程度の豆を好んで食する。人間もモヤシは生食に供する。ソラマメ・エンドウに中毒症Favismを起こすビシン・コンビシンの存在が確認され、これは重い溶血性貧血を起こす、このことは、地中海地方の住民間でしばしば見られるので、遺伝的要素があるとも伝えられる。
デリスDerris
ellipticaの根部には魚毒成分ロテノンrotenoneを含有し、殺虫剤に利用される。この有効成分は空中に置くと効力の減退が早く、製品は一夏過ぎる効かなくなってしまう。このことは、逆に残存性のない殺虫剤として農薬などに見直されている。同成分はマメ科のLonchocarpus,
Tephrosia,
Mundulea各属の植物にも含有するとのことである。
[植物]
Ⅰ.
ダイズ
Glycine
max
Merr.
or
Glycine
hispida
Moench..
大豆
|
ダイスの原産地は諸説あり、インド・西南アジア説、東南アジア説、中華国・日本が挙げられているが、原生種のノマメは2000年前に満州・シベリアのアムール川流域で栽培されていた遺証があるので、ここが本命と思われる。ハイモビックによれば中国の中心地で紀元前11世紀頃出現し、中国東北部、満州は二次的分化の地であろうといっている。紀元前2883年皇帝シェン・ヌンの本草書が残っている。中華国への伝搬は案外遅く紀元前700年頃である。インドへは18世紀、欧州へは19世紀の中頃である。日本への渡来経路がよく判らないが、例によって①華北から朝鮮を経て北日本につく、②華中から直接南日本とくに九州に至る、③台湾・琉球を経て南日本に辿る、の3ルートが考えられ、紀元前1900~2000年に渡来したと思われる。縄文時代中期(約4500年前)の長野県諏訪郡富士見町
井戸尻遺跡からエゴマやヒョウタンと共にダイスの種子が出土し、相当昔に豆類が栽培されていたことが明らかである。
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Glycine |
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Glycine属 |
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Bracteata |
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Soja属 |
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[植物]
熱帯から温帯にわたって栽培される一年草で、高さは20~180cm、直立する。根には根瘤がつき空中の窒素を取り込む。葉はふつう3小葉の複葉で互生する(5枚の複葉のものをコパマメという)。花は茎の脇にもつけるが、とくに主茎の頂端に多く数個から十数個互生してつけ、総状花序となる。白色と帯紫色の蝶形花で、開花と同時に受粉する自家受精ずる特徴があり、そして自己の育生状態により適性の莢果だけを残し、後は落花する。莢果は長さ4~6cm,巾ca2cmの2枚の舟状鞘が合わさった形で中に2~3個の 種子が入っている。種は径1~1.5cmの球形ないし若干偏楕円形で、種皮の色は、黄がふつうであるが、白、緑、褐、黒など濃淡や斑紋のあるものもある。夏大豆(長日性;西日本、北海道で栽培される)と秋大豆(短日性;一
般に晩生種で東海地方以西で栽培)中間種(早生と晩生があって、東北、北陸、関東で栽培の品種があり、
種植えから生育収穫までは110~140日要する。完熟した豆は採取しダイズとするが、半熟のものはエダマメと称して茹でて食する。日本のダイズは有限伸育性種で、花が咲く或る大きさになると成長が止まる品種であるが、米国ダイズは無限伸育性でこれは花房が分化しても成長が止まる事なく伸び 続ける品種である。
黄大豆 |
小粒種 |
秋田大豆 |
百粒重25g以上 |
鶴の子大豆 |
大粒種 |
大袖振大豆 |
淡黄緑色 |
光黒大豆 |
中生 |
[補説]
1.豆の色は普通のものは黄色であるが、黒色、淡黄色、淡褐色、緑色など種々ある。この内黒色は黒豆と称し、とくに丹波地方の産は丹波黒豆と称し、価格は高い。
2.大豆の原種はツルマメまたノマメであろうと推測される。
3.種子の一端にヘソと称する部分があり、これは鞘内での接着点で成長時に養分を採っていたところである。ヘソと鞘との間を繋ぐ短い繊維束(カラザ)があるが脱穀の際除かれる。{ソラマメではよく観察できる}。ヘソの一端に珠孔があって発芽のときは真っ先にここから発根する。
4.種子から最初に出る第一本葉は丸型であるが、後、3出葉となる。5出葉のものがあり、ゴバマメと言う。
5.未熟の内に採って、エダマメで8月頃食べ頃である。
Ⅱ.
エンドウ
P1sum
sativum
L.,慣用名;豌豆 common
pea,garden
pea
|
中央アジアが原産で、古く此処から東西に2分して伝搬したと思われ、スイス湖上生活民族の5000年前の住居遺跡に残っていた。
我が国には1000年前の<倭名類拾抄本>に"のらまめ"、<遠江国風土記残編安濃郡>には"頭宗豆"と載っているのは本種であると思われる。<成形図説
鹿児島藩江戸時代
>には、赤と白の二種があると明記あり。いくつかの品種があり、蛋白質に富むのが特徴で、硫黄を加えて肥培すると、メチオニン、シスチンを含む蛋白質が得られるという。
未熟の果実を莢ともに食べるサヤエンドウ、半塾の種を剥いてグリーンピース、完熟した乾燥種を丸のままor半割にして食する方法。
インドでは葉を煮菜にしている。
このモヤシを発酵酵母の麦芽に代用して作った飲料であるからビールの定義に相当しない故、税金がかからないだろうと開発されたのであるが、日本の税務署はチャッカリと搾取することは忘れなかった。
[植物]
寒地適応の豆で、本州では秋蒔き冬越し栽培(4~5月に収穫)も行われる。複葉先端から蔓を伸ばし
絡上して草丈
1.5m位に伸びる一年生草本。全体が毛はなくロウ状粉で覆われているから水を弾き、淡緑色
に見える。茎の断面は四角形~円形で弱々しく折れ易い。約6~12cm間隔に節を作り、ここには2枚の蝶羽の
ような対位する宅葉がつく。宅葉の反対側から普通4~6枚の小葉がついた複葉が派出する。小葉は長さ2~4cm
の小判型で、小柄の両側に互生につき、小柄の先端は4~8本の細い蔓にになって他物に絡み付く。同じく宅葉
の間から長さ5~12cmの花柄を出して、その先端に2個の蝶型単花をつける。花には赤色種と白花種がある。(莢
豌豆が赤花、実豌豆が白花と言われるがそんなことはない)赤花種でいうと、花の大きさは約
2.5cm,かく
は先端が五裂した壷様で、旗弁は淡紅色、翼弁は濃赤紫色、竜骨弁は淡緑色で、雄蘂は10本(根本の方は束に
なって、9本が下方
に1本が上方単独に)、雌蘂の花柱を抱いて着く。
実は豆型の莢を構成し、入っている種
は3~5個である。
萎花してから、莢豌豆として食するには約1ケ月、完熟は2ケ月位である。
成熟した種子は直
径約8~10mmのほぼ円形で、表面に皺があり、革緑茶色。
[補説]
1.この豆は発芽するとき、子葉は地中に留まって表に地表に出ず、このような子葉を地下子葉という。
2.宅葉が大きく、普通の葉のように同化作用の主役をする。
3.つるは小葉の変化したもので、先端付近が他物に絡み付き、ついで途中が輪状に縮んで張るようなるから、左巻きか右巻きか判然としない。
4.鞘は葉の中脈に相当するところを外縫線、腹側の方を内縫線という。
5.鞘内で種子は外縫線について、左右の鞘蓋の側に交互に着く。
6.花は昆虫の世話にならない自家受粉である。
開花直前に受粉し、受粉後にも花は萎むことなく、美しく咲いている。
7.根瘤バクテリアは殆どの株に寄生するもので、ソラマメ・レンソウと同じく、インゲンマメには別の接種群である。
Ⅲ.
アズキ
Vigna
angularis
Ohwi
et
Ohashi;
小豆
Phasealsus
radiatus
L.var.aurea
Prais
起源全く不明、野生種も栽培種の原型も発見されていないが、中華国の原産としてよいであろう。日本へは3世紀から8世紀の間に中華国から渡来したとされている。朝鮮・山東・満州南部・日本の狭い範囲内に分布して栽培されている。同類の緑豆はインドにあり(P.r.L.var.Typicus
Prain.)。矢竹氏はアズキ属を新設し、アズキの学名をA.sub.trilobataとする提案をしている。アズキは赤色の色素を含み、日本では目出度いときの食べ物の着色材として汎用される。
草丈30~60cm、直立また蔓性、花は腋性し、総状花序で自家受粉性の螺旋型黄色花を2~12個つける。鞘は一株
あたり5~40つけ,直径6~10mm長さ4~10cmの円筒形で中に種子が7~8個入っている。大約100粒重5~18g。種子の色は深赤色であるが、黒色や淡黄色、白色もある。アヅキには夏アヅキと秋アヅキと中間型の3種があって、地方により蒔種時期が違う。分類額での所属について諸説があるが、一応ササゲ属に落ち着いている。日本の主生産地は北海道であり、外国にはあまり栽培されてないので、気候の影響で、アヅキの市場が高騰没
落する市場商品となっている。
[補説]
1.日本の伝統行事で正月15日は小豆粥を煮て、或いは祭事にもち米と炊いて赤飯を食する風習がある。これにはササゲ
Vigna
unquicult Walp. を代用することもある。
2.小豆を煮ると腹がよく割れるが、ささげは皮が厚く煮割れすることは少ない。そこで武士の家ではササゲの赤飯であった。
3.ツルアヅキは黄小豆と称するもので、こちらの方は不味といわれる。またケツルアヅキがあり、福井県三方町島原遺跡(5000年前)から出土している。
4.豆類植物は夜になると葉か眠るものがあり、ネムでは顕著であるが、インゲン・アズキ・ダイズでもその傾向はある。花も夜間はいくらか張りがない。これは葉枕ヨウチンの組織に関係すると思われる。
5.小豆の最大の用途は製餡と羊羹である。小豆の澱粉粒と砂糖の甘さが微妙に関係する。よい小豆の餡は赤紫色で劣質のものは黒紫色であると、ある羊羹屋の説明を聞いたことがあるが、そんなことはない、色は酸性側で薄く、アルカリ性になると黒色度が増すのである。従って、ふくらし粉(カルバミン酸アンモン)を入れた中華饅頭の餡は真っ黒である。
Ⅳ.
インゲンマメ
Phaseolus
vulgaris
L.;
陰元豆、トウササゲ、サイトウ、ゴガツササゲ
インゲンマメは陰元隆王奇(1592~1673)が承応3年(1654)明より渡来、さの際持参したと伝えられる。インゲンの原産地はインドカシミール地方or南アメリカなど種々の地域が推定されたが、1935年バビロフが広範な地域を調査して、南アメリカ(ペルー・エクアドル・ポリビア)からメキシコ南部であると論述した。アメリカ大陸発見(1492)後スペインやイタリーの船舶によって各種の種実がヨーロッパ齎されたのであるが、これより各経路を通って中国に達したことは論を待たない。そうすると、60年ばかりで日本に達したのは早すぎるかも知れないが、梅毒が伝播したのは僅か10年であるから、嘘でもないらしい。
[植物]
温暖な地帯を好むが、比較的寒い北方でも栽培される。種類が多く、豆の大はさ、色模様は千差万列で、特に豆の模様がいろいろあって面白い。若い果実の莢共に供する外、完熟したものは通常鶉豆ウズラマメと称して煮豆にする。蔓性一年草(無蔓種もある)で、春4月晩頃に蒔種し、6月頃より漸次収穫する。栽培の都合上高さ1.8mに剪定される。本体全部に短毛が生え、本茎自体が蔓となって左巻きに登攀する。葉は三出複葉で対生、長さca10cmの葉柄の先端に三又型につく。葉の長さ8~12cm薄く葉脈が目立つ。花穂は葉柄の股から出て粗総状花序、単花は2cm位で紅色の蝶形、自家受粉。豆莢は太さ径1cm、長さ14cm位。豆は腎形~長楕円形で表面は堅く艶がある。
[補説]
1.金時豆、鶉豆、大福豆はインゲンマメの一変種である。
2.インゲンマメといっても分類学者のいうのはフジマメDolichos
lablob L・である。陰元禅師が中国からもってきたインゲンマメもフジマメであろうと推定されている。
3.光周性がないから、年に2~3回蒔種して収穫をづらして栽培することが可能である。豆類は一般に連作障害が著しい。
Ⅴ。
ヤブマメ
Amphicarpaes
bracteata
Ferald.susp.edgeworthii
Ohashi
var.japonica
Ohashi
日本産の這うマメ
に適合する豆の一種として注目に値する。
豆は地上と地中の両方に出来、食用にしているところが有る。ラッカセイの前身とも考えられる。
[植物]
北海道~九州、朝鮮・中華国に分布する。道端、野原などの日当たりのよく、やや乾いた土質を好む。通
常の蔓性の一年生雑草。 茎は細く葉柄・花柄ともに、白また褐色の伏毛がある。
鋭頭円形の宅葉があり、 本
葉は広卵形~卵形、頂小葉は長さ3~6cm幅2~5cm,花序は葉の付根に着く、普通長さ1~3cm,2~6個の花からな
る。 花期は8~10月。
弁先は4裂し、淡紅紫色、長さ15~20mm,がくは有毛。
豆果は多くが閉鎖花から熟し、地上 と地 中の両方に出来る。
地上果より大きくて淡桃色、球形に膨らんだ果鞘に1種子が入る。
[補説]
1.茎と別に白い地下茎を派出し、地下に潜ってから分岐し、小さい花弁のない閉鎖花をつける。地上のつるの先に出来た花も開かずに地中に潜って大きく成長することもある。
2.地下果は地上果より勢力が旺盛て、一種の越冬芽とも見られる。
もし、集の"まめ"がマメ科植物から選ばれ、万葉時代に存否に焦点を絞って、
ダイズ、ソラマメ、、アズキ、エンドウ、ヤブマメ
の中からということになるであろう。
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{分類表}
ジャケツイバラ亜科 Caesalpinioidaceae [ca,150属3000種] |
ジャケツイバラ属Caesalpinia |
ジャケツイバラ、スオウ |
ハカマカズラ属Bauhinia |
ハカマハズラ |
|
ハナズオウ属Cercis |
ハナズオウ、セイヨウハナズオウ |
|
ニセアカシア属Robinia |
ニセアカシア、ハナエンジュ |
|
エンジュ属Maackia[W] |
イヌエンジュ、シマエンジュ |
|
フジキ属Cladrastis[W] |
ヤマエンジュ、ユクノキ、 |
|
イタチハギ属Amorpha[W] |
イタチハギ |
|
カワラケツメイ属Cassia |
カワラケツメイ、ハブソウ、コバノセンナ、エビスクサ、シャワー |
|
エニシダ属Cytisus |
エニシダ、ホオベニシダ |
|
サイカチ属Gleditsia |
サイカチ |
|
クロヨナ属Pomgamia |
クロョナ |
|
キングサリ属Laburnum |
キングサリ |
|
ミヤマトベラ属Euchrestra |
ミヤマトベラ |
|
ネムノキ亜科
Mimosoideae [ca.60種3000種] |
ネムノキ属Albizia |
ネムノキ |
ギンゴウガン属Leucaena |
ギンゴウガン |
|
アカシア属Acacia |
アカシア、フサアカシア、ソウジュ、キンコウカン |
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オジギソウ属Mimosa |
オジギソウ |
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モダマ属Entada |
モダマ |
(ソラ)マメ亜科Papilionidace[ca.440属12000種]
クララ連 trib.Sophoreae |
クララ属Sophora |
クララ、 |
センダイハギ属Thermopsis |
センダイハギ、クソエンドウ |
|
ミヤマトベラ属Euchresta |
ミヤマトベラ |
|
シナガワハギ属Melilotus |
シナガワハギ、 |
|
シャジクソウ連 trib.Trifolieae |
ウマゴヤシ属Medicago |
ウマゴヤシ、ムラサキウマゴヤシ、 |
シャクジソウ属Trifolim |
シャクジクソウ、コメツブツメクサ、ムラサキツメクサ、 |
|
ゲンゲ属Astragalus |
レンゲソウ、タイツリオウギ、モメンヅル、オウギ、 |
|
ゲンゲ連 trib.Galegeae |
オヤマノエンドウ属Oxytropis |
オヤマノエンドウ、レブンソウ、 |
ミヤコグサ属Lotus |
ミヤコグサ |
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タヌキマメ属Crotalaria |
タヌキマメ |
|
イワオウギ連trib.Helysareae |
イワオウギ属Helysarum |
イワオウギ、カラフトゲンゲ |
ヌスビトハギ連 trib.Desmodiaeae |
ヌスビトハギ属Desmodium |
ヌスビトハギ、ヤブハギ、フジカンゾウ、ハイマキエハギ、 |
ハギ属lespedeza |
ヤマハギ、 |
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ヤハギソウ属Kummerowia |
ヤハズソウ |
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ソラマメ連 trib.Vicieae |
ソラマメ属Viesia |
ソラマメ、カラスノエンドウ、ススメノエンドウ、ナンテンハギ、 |
レリンソウ属Lathyrus |
レリンソウ、ハマエンドウ、イタチササゲ、 |
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ラッカセイ属Arachis |
ラッカセイ、 |
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クサネム連 trib.Aeschynomeneae |
スナジマメ属Zornia |
スナジマメ、 |
シバネム属Smithia |
シバネム、 |
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クサネム属Aeschynomene |
クサネム |
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タンキリマメ属Rhynchosia |
タンキリマメ、ノササゲ |
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ノアズキ属Denbaris |
ノアズキ |
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ササゲ属Pueraria |
ササゲ、ハマアズキ、アカササゲ、 |
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インゲンマメ連 trib.Phaseoleae |
ハギカズラ属Galactia |
ハギカズラ、 |
ナタマメ属Canavalia |
ナタマメ、ハナナタマメ、 |
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ダイズ属Glycine |
ダイズ、ツルマメ、フジマメ |
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アズキ属Vigna |
アズキ、ツルアズキ、ヤエナリ、 |
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ノササゲ属Dumasia |
ノササゲ |
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ヤブマメ属Amphicarpara |
ヤブマメ、 |
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インゲンマメ属Phaseolus |
インゲンマメ、ヘニバナインゲン、 |
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エンドウ属Pisum |
エンドウ、 |
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クズ属
trib. |
クズ属Pueraria |
クズ |
ホドイモ属Apios |
ホドイモ |
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ディコ属Erythrina |
ティコ |
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トビカズラ属Mucuna |
トビカズラ(日本では熊本県にある1本あるのみ) |
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フジ属Wisteria |
フジ、ヤマフジ、ナツフジ、 |
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フジ連 trib.Wistriaeae |
ムレスズメ属Caragana |
ムレスズメ |
ディコ属Erythrina |
ディコ、アメリコディコ、サンゴシトウ、 |
[周辺]
マメ科Leguminosae(Fabaceae)は直立また蔓性、一年性また多年生の草本および木本で、まれに水生もある。熱帯から寒帯まで或いは高山にまで広く分布し、約650属18000種よりなり、種子植物では3番目に大きな科である。其のうちのゲンゲ属は2000種も包含し一番大きな種である。特徴について①葉は互生し羽状また掌状の複葉につく②花は蝶型が基本であるが、ネムのように糸型をするもの、花弁が退化するものもある。③果実は莢果につける。④豆は多くは胚乳を欠き、発芽するとき胚軸が伸長し、幼葉と成葉は形が違うものが多い。⑤根には根瘤バクテリアが共生する(ジャケツイバラ科では少ない)。
マメ科はジャケツイバラ亜科、ネムノキ亜科、マメ亜科の3系統に分けられるが、これらを科に昇格する案もある。
マメ科のジャケツイバラに属する最古の化石が中世代白亜紀から発見されており、新生代第3期にネムノキ亜科の化石が現れ、ソラマメ亜科はそれより後の始新世と漸新世に発見されているから、3亜科はこの順に分化したものと考えられる。マメ科の特徴の一つである胡蝶型の花はネム亜科に見られず、ソラマメ亜科の原始型の花はジャケツイバラ亜科と左右相称花で類似点があり、ネム亜科の中にはバラ科の花と似たものもあるところがあることから、ネム亜科は別に発生したとの見方もある。また、空中窒素を固定する根瘤バクテリアの寄生する割合は、マメ亜科・ネム亜科が95%に達するに対し、ジャケツイバラ亜科の種類は25%しか認められないことから、この亜科は少し異質であるとの説もある。
南半球には旧来の概念と異なった植物が多く、マメ科にあっても特に然りである。例えばオーストラリアの国花ワッフルツリーの様に花弁が退化し、雄蘂が目立つ花が咲く。ニュージランドの国花も豆科であり、これは花弁はあるが蝶型とは掛け離れている。このように、南方植物の調査により分類学も見直されつつある。
[名前]
[語源]
マメ:
丸い実、即ち円実マルメの約転、沖縄ではマミと発音している。
ダイズ:
用途が広いので大豆オオマメと読書したのが、ダイズと発音するようになった。
アズキ:
赤粒木アカツブキ、なお小豆アズキと赤小豆アカアズキとは別種であるとしている。
[同名]
ダイズ:
豆・大豆・末女・菽[昔は、稲作の水田の畦に大豆(黒豆)を栽培したことより畦豆アゼマメと呼ばれる
アヅキ:
赤小豆・赤豆・
[古名]
ダイズ:
末米・大豆オオマメ・於保末女
アヅキ:
阿都岐
[別名]
ダイズ:
秋豆・畦豆・枝豆・白豆・黄豆・田豆・傍豆ハタノメ・鼓クキ・味噌豆・醤豆ヒシホノマメ・豆腐豆トウフマメ・鉄砲・
唯豆タダマメ・黄粉豆キナコマメ・夜白豆・
アズキ:
あづきのはな 散散里草チチリクサ 小角草コスミクサ
[漢語]
ダイズ:
菽・荏菽・戌菽・/大荳・黄荳・黄大豆
アヅキ:
赤小豆・紅否・残豆・蟹目・
[英語]
ダイズ:
soybean,Japanese
pea
アズキ;
azuki
bean,small
red
bean
[学名]
ダイズ;
glycine=甘い
根がいくらか甘い。
max=意味不明
phasealsus=小舟状
莢が小舟に似ている。
radiat=放射状の
[古典]
<まめ> |
<肥前風土記(高来郡)> |
峰の湯の泉 |
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<徒然草(69)> |
旅の仮屋に立ち入られけるに、豆の殻を焚きて豆を煮る音のつぶつぶとなるを… |
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<枕草子(108)> |
…かまどに豆やくべたる。… |
|||
|
<和漢三才図会> |
豆マメ(菽は俗)角を莢サヤ、葉を霍マメノハといふ、茎を其マメガラといふ。本綱に、莢ある穀タナツモノの総称、皆といふ。大豆に黒・白・褐・青斑の数色あり。大抵、夏至十日以前種を下し、七月花をひらき、九月莢を結ぶ。 |
|||
|
<養生訓> |
同食クイアワセの禁忌、○猪肉に生姜、蕎麦、胡萃、炒豆、梅、… |
|||
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<俳諧> |
似あはしや |
松尾 |
豌豆の |
飯田 |
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薮入りの |
与謝 |
屋根石に |
杉田 |
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空豆の |
小林 |
畦豆に |
草間 |
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夫婦争い |
高浜 |
太古の村 |
有馬 |
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<本草和名 |
大豆 於保末女、大豆黄巻、末女乃毛也マメノモヤシ |
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<沙石集 |
布の袋に大豆を入れて猿にとらせつ |
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<今昔物語 |
馬の盖カラクサ秣マグサ、大豆なむ多く遺りたれば |
|||
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20-01 |
名をば明救…また大豆マメの僧正とも云ひけり、 |
|||
<あづき> |
<日本書記 |
淡路嶋いや二並び小豆嶋アヅキシマ |
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<本草和名 |
赤小豆 |
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<倭名抄> |
同 |
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<梵舜日記 |
天正十一年三月九日本所ニ為程義小豆飯圧〓之 |
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<医心方3-13> |
赤小豆 |
|||
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<本朝食膳(元禄)> |
赤小豆飯者先出水煮粥小豆取出合米 |
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<厨事類記(足利時代)> |
臨時供御三月三日御節供赤御飯五月五日赤飯九月九日赤飯 |
|||
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<世風記> |
正月十五日、小豆粥を煮て、天狗のために、庭中案上に祭るとき、則其粥凝る時、東の方に向て再拝長跪して服すれば、年の終わるまで、疫病なし。 |
[用途]
あづき
[食用]
小豆の最大の用途は「餡」で、羊羹・大福餅・お汁粉などに。小豆の澱粉質は砂糖の甘さを上品に高める
[薬用]
脚気に
[洗剤]
昔は、茹汁を身体を洗う洗剤に用いた。おそらくサポニンの効用と思われる。
だいず
食用、未成熟種子は枝豆である。成熟種子はそのまま、また潰豆として煮豆・炒豆にして食する。「炒り豆」は菓子に、それを粉末にして「黄な粉」
豆乳:豆を浸水して膨潤したのち、(加熱して)臼で磨り、濾過して漉液を豆乳とする。漉滓は"卯の花"と称して食用に供するが、水溶繊維質が多く便秘症に有効である。豆乳の方は、牛乳の代わりに飲用。またこれから煮詰めて「湯葉ユバ」を、またニガリを添加しタンパク質を凝固して豆腐を製造する。豆腐は更に加工して、油揚げ、飛竜頭ヒロウズ、凍り豆腐。
発酵食品:「納豆」
糸納豆は煮豆にナットウ菌を作用させて作る。煮豆を=<D2>=<D2>に包んで50~60゜位の高温に2日位おく。ナットウ菌は高温におくと作用が活発であり、雑菌が繁殖しない。
「味噌」「醤油」黴(正確には酵母)の活性を応用した日本独特の調味料である。民家では秋後半の季節に大豆を煮て、適量の食塩と豆麹を加え、樽に漬け保存する、約3ケ月で完成する。醤油の場合は水をやや多めにして、慣諸を圧縮濾過して作る。なお速成醤油はイリ大豆に塩酸を加えて煮沸し、苛性ソーダで中和して得られる。醤油の濃縮液はウオターソースなどの調味料に配合される。
大豆油:大豆には約20%の半乾性油(C14~C22のトリグリセリド)を含む。主な脂肪酸はLinolic
acid, Oleic
acid。
昔は布袋に入れて圧搾して採油していたが、最新の搾油法は液化ガスを溶媒にして破砕した種子から連続抽出する方法である。大豆油は食用と工業用に用途があるが、食用には天麩羅やサラダなど直接、またマーガリン、ショートニングの製造に使う。工業用ではペイント、印刷インキ、潤滑油、セルロイド、リノリウム、などに。水酸化ナトリウムと反応させ、グリセリンと高級脂肪酸を得る。これから石鹸、化粧品、ワックスなどに誘導される。
d15/4比重 |
酸価 |
けん化価 |
ヨウ素価 |
不けん化物 |
0.942~0.926 |
0.55~2.18 |
192.4~195.1 |
125.3~134.3 |
0.18~0.72 |
脱脂大豆:大豆油を搾油した残渣は、高蛋白質であり、家畜飼料への需要が増えている。なお、これから醤油やグルタミン酸ソーダ、カゼインの製造原料となる。
レシチン:大豆油の抽出工程での副産物でソーヤレシチンという。リン脂質の一種で動物組織にも見いだされる(卵レシチン)。健康食品や化粧品に天然界面活性剤としての応用がある。–N=(R)2の結合を変えると毒性が出て、新型の殺虫剤ヘと応用に注目される。ダイズの搾油の際、油分に溶解してくる。レシチンはアセトンに溶解しないので油分にアセトンを添加すると析出する。精製したものは黄色の粉末として得られるが、市販品は油分を含むので、黄色油状である。
|
lecithin
= phosphatidyl choline
サポニン:大豆にふくまれるサポニンはトリテルペノイド系で数種知られており、総合してソーヤサポニンと呼ぶ。ダイズサポニンは過酸化脂質を抑え、肝臓機能障害を抑制する。
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||||||||||||||||||||
A |
B |
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|||||||||||||||||||||
C |
D |
プリンPurine誘導体:ブリン構造体をもつ植物成分はテオブロミン(カカオ豆),テオフィン(チャ)、カフェイン(チャ)等、趣向飲料に利用されているが、この構造をもつキサンチンが大豆中に含まれている。この物質が如何なる作用をするかは、今後の興味ある課題である。参考までに、プリンの脱水構造であるアデニンは生物体の生命科学に深くかかわる物質で、人の皮膚の美化に効果のあることが確認されている。
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Rotenone |
mp163゚ |
[α]20D=-228゚ |
食用または薬用にするマメ科の植物
食用 |
クズ |
Pueraria |
根より澱粉を採る。→葛粉 |
ホドイモ |
Apios |
根を食用、澱粉質。 |
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クズイモ |
Pachythizus |
ヤムイモ、若実、塊根を食べる。 |
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チョウマメ |
Clitoria |
若莢、江戸時代末に渡来。 |
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キマメ |
Cajanus |
若さや、熱帯で栽培される。日本では石垣島 |
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ダイズ |
Glycine |
未熟実は枝豆、豆 |
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フジマメ |
Dolichos |
若莢、種子。漢名ピェントウ 鵲豆→千石豆、天竺豆。 |
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ササゲ |
Vigna |
日本には食用とするササゲは3種類ある。本種は豇 |
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ハタササゲ |
V,s.subsp.cylindrica |
種子(若莢は食用にならない)金時ササゲ、小豆ササゲと呼ぶ。 |
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ジュウロクササゲ |
V,s.subsp.sesquipedaris |
未熟の若い莢 |
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アズキ |
Vigna |
種子を煮炊して食する。また餡とする。とくに祝事 |
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ツルアヅキ |
V.umbellata |
種子をアズキの様に食するが風味は劣る。漢語:蟹目 |
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ヤエナリ |
V.radiata |
緑豆、豆もやし、豆粉、はるさめ、 |
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インゲンマメ |
Phaseolus |
隠元豆、菜豆 若い莢、種子→うずら豆は煮豆とする。 |
|
ベニバナインゲン |
P.coccineus |
はなまめ、観賞用にもなる。若い莢 |
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ライマビーン |
P.lunatus |
平豆、未熟豆及び完熟豆共に最も美味しいマメ。日本では栽培できない。 |
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ナタマメ |
Canavalia |
刀豆、若い莢 |
|
エンドウ |
Pisum |
豌豆 若い莢、また若い種子 |
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ヒヨコマメ |
Cicer |
回回豆、鷹嘴豆、種子 |
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レンズマメ |
Lens |
種子 スープ |
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ソラマメ |
Vicia |
空豆、若い種、完熟種子を食する。日本へは天平年間に渡来。 |
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ラッカセイ |
Arachis |
落花生・南京豆、子実 |
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薬用 |
タンキリマメ |
Rhynchosia |
豆を去痰薬 |
カンゾウ |
Glycyrrhuza |
地下茎・根を鎮痙、鎮咳、攣茎 |
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デリス |
Derris |
根から殺虫剤 |
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カワラケツメイ |
Cassia |
民間 |
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クララ |
Sophora |
漢方 |
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サイカチ |
Geleditsia |
漢方 |
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エンジュ |
Sophora |
漢方 |
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ペグノキ |
A.catechu |
健胃剤、止血剤、染料、ペク阿仙薬 |
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センナ(カシァ) |
Cassia |
緩下剤 |
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染料 |
ロッグウッド |
Haematoxylon |
染料 |
スオウ |
Caesalpininia |
染料
薬用 |
|
フェルナンブッコ |
C.echinata |
染料 |
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アラビアゴム |
Acacia |
糊材 |
日本人と豆
仏教の教義の一つ、"殺生禁行の教え"から日本人は動物とくに獣類の肉を食することを嫌ったため、生存に必要な蛋白質は大豆の加工品から採った。大豆は脂肪とタンパク質を豊富に含み、得てして米のみに頼る精進料理の栄養の欠ける分を補う。完熟した豆も煮て食うが、未熟の鞘着きが枝豆であって、殊の外ビールに合う。同じく枝豆を磨って餅に入れたズンダ餅というのは東北地方の名物である。粒のままでは消化が悪いから、先人はいろんな工夫を加えている。ふやした豆をすり潰してみそ汁に入れるゴヤ汁は深い山里の冬の味覚であった。真宗の寺では豆乳を煮詰めて湯葉なる食材を作るが、これはゴマ豆腐と共に精進料理の逸材であろう。
豆腐といえば、日本人の淡泊な性格に合うと見えて、夏の夕べの冷奴、冬の炬燵を囲んでの湯豆腐と日本伝統の食文化の粋である。賽の目に切った豆腐に鰹節をかけ、醤油を2~3滴垂らして食う単純なのだが、これが最高である。
<養生訓>
松茸、竹筍、豆腐など、味すぐれたる野菜は、只一種煮て食すべし。他物と、両種合わせ煮れば、味おとる。
注)豆腐は漢の高祖の孫准南子エナンジ劉安の発明とされ、一般で食すようになったのは五代の始頃(ca900年)である。日本に伝来したのは、仏教文化と関連して奈良時代と思われ、記録では<本草色葉抄>(1284)に腐豆と書いてあるのが豆腐の始めである。室町時代に豆腐料理の記録があり、また別説には遅れて豊臣秀吉の朝鮮出兵のときに日本に伝えたともいう。江戸時代には益々豆腐料理が盛んになり、<豆腐百珍>という本が出版されており、豆腐専門の小料理家ができる程であった。豆腐専門割烹屋は観光を兼ねて現在も引継がれて存続している。
念仏さぶけに秋あはれ也
季風
豆腐は中華料理にも欠かせないものであり、インドネシア、タイ、ビルマ、等の東南アジアでも見られる。この圏では米を主食にして海藻や筍を食べ、納豆も地方により若干違うが作られており、料理を通じて民族の共通点があるように思われる。豆腐はダイエット食品として世界から注目された存在てあるが、一方"納豆"はそれ程理解されていない。
菌を利用した発酵食品の変わり種に、納豆がある。納豆は①糸引き納豆が普通知られたものであるが、その他に②塩納豆、③甘納豆がある。糸引き納豆は茹でた大豆にナットウ菌Bacillus
natoを加え、50±5゜に48時間位おくと熟成する。納豆菌は枯草菌の一種で藁に付着しているから、大豆を藁筒に包んで火を落とした竈に置いておくと出来上がるという仕組みであった。現在は納豆菌の培養した液が売っているから、これを万遍なく振りかける。温度は風呂よりも高い位がよい。豆は納豆用の小粒大豆か碾割り豆を使う。納豆の起源・由来はよく分かっていないが、民間で茹でた大豆を何かの拍子に藁の敷いてある場所に捨て忘れていたものを、興味本位に食ってみたことが始めてあった。室町時代の公家の日記<大上藹御名之事><御湯殿上日記>(亨禄2年)に"いとひき"と書いてある。
醤油と芥子を合わせ熱い白い飯に懸けてくうのが、これまた美味しい。納豆の栄養学的効能は申すまでもなく、みそ汁やテンプラもまた変わって美味である。
納豆箱尾上の松しほるうち 青雲
塩辛納豆はコウジ菌の入った塩水に煮豆を浸して発酵させ乾燥したもので、皺だらけの黒い小粒である。中華国から伝わり、奈良時代より宮内省大膳職にある豆支クキの一種である。寺に引継ぎ作られていたようで、唐納豆、寺納豆、大徳寺納豆、浜名納豆とも呼ばれる。甘納豆は澱粉質の豆を砂糖で煮込んだ豆であり上記納豆とは全く違い、甘菓子である。
味噌・醤油は日本独特の調味食品である。万葉集16-3886にある蟹を潰して作った食物(おそらく塩辛のよ
うなものであろう)は世界初の調味料の記録であるが、この醤は大豆を原料としたものでない。奈良時代に大豆と海藻とを発酵させ、保存するため塩を加えて干したものがあったらしい。これから味噌や醤油が当然派生するものであるが、現在のような形になったのは室町時代であると思われる。
[熟語・諺]
炒り豆に花 |
衰えたものが再び栄える、また有りうる筈のないことの譬え |
炒り豆のすまじろい |
炒豆に大根おろしを加えて酢をかけ、酒粕をまぜた"酢むつかり"という料理のこと、凡そ縁のないものが一緒になっているという意味。 |
戸板に豆 |
戸板に載せた豆は転がることから、物事が滞りなく進むこと、また自分の思うようにならない譬え。 |
年貢いらずの畦豆 |
田の畦に蒔いた大豆には年貢がかからない、即ちただで手に入ることの譬え。 |
這っても黒豆 |
小さな黒い物を見つけて一人は黒豆といい、もう一人は虫だと互いに言い張っていたところ、黒いものが動きだしたので、やはり虫だと一人がいったのに対し、それでも黒豆だと言い張って強情を張る。 |
豆の付け揚げのよう |
「付け揚げ」はてんぷらのこと。ひどいあばた面。 |
豆を植えて稗を得る |
期待外れに終わること、或いは意外な結果を得ること。 |
豆を煮るに豆がらを炊く |
兄弟が互いに傷つけあうこと。魏の曹植そうちが兄の曹丕そうひが7歩あゆむうちに詩をつくれと命令されて、「豆殻は釜底にあって燃え、豆は釜中にあって泣く」という詩を作ったという話 |
女の中の豆炒り |
女の中に混じっている男をからかう言葉、いつまでも生臭い。 |
竈に豆をくべる |
豆幹まめがらを薪の替わりににして燃すとパチパチと音が煩いことから、気ぜわしいこと。 |
そばにある炒り豆 |
炒豆をおいて置くとつい知らぬ間に手を出してしまう。"炒豆と小娘"も同じであるが、これは手を出す意味が違う。 |
豆の漏るよう |
豆粒が漏れるくらい笊や網の目が粗いこと。 |
七月小に豆食わず |
小は陰暦で一月が二十九日の月をいう、陰暦七月が小の月ならば豆が不作であるという農事譬話 |
小豆やる奴を婿にするな |
小豆相場をする男はだらしがないということ |
小豆としょっぱいのに手はつかぬ |
小豆は甘く煮るものだが、塩っぱい女とは勘定高いという意味。 |
小豆の豆腐 |
有るはずがない。 |
小豆は馬鹿に煮させろ |
気長に事をかまえる。 |
知れた焼き餅、なか小豆 |
焼き餅の中には小豆が入っているものだ。分かり切ったことを聞くな。 |
栄養
|
粗蛋白 |
粗脂肪 |
可溶性無窒素物 |
粗繊維 |
灰分 |
ダイズ |
42.6 |
20.5 |
28.1 |
4.6 |
4.2 |
アズキ |
21.3 |
1.2 |
65.2 |
|
12.2 |
ラッカセイ |
29.7 |
48.1 |
16.9 |
2.6 |
6.7 |
ナタネ |
21.6 |
48.3 |
16.6 |
9.1 |
4.4 |
コメ |
10.1 |
2.5 |
84.7 |
1.2 |
1.5 |
コムギ |
14.4 |
2.0 |
78.6 |
2.9 |
2.1 |
ダイズ脂肪酸の成分
パルミチン酸 |
9.1〜12.6% |
ステアリン酸 |
2.9〜4.2 |
オレイン酸 |
13.9〜29.6 |
リノール酸 |
48.7〜56.0 |
リノリン酸 |
10.0〜20.6 |
ダイズ蛋白質中のアミノ酸分析
g/16gN
グリシン |
3.69〜4.34 |
グルタミン酸 |
16.02〜20.23 |
プロリン |
4.22〜5.10 |
アラニン |
3.41〜4.62 |
リジン |
6.57〜7.67 |
トリプトファン |
0.82〜1.03 |
バリン |
4.44〜5.62 |
アルギニン |
6.43〜7.70 |
メチオニン |
0.48〜0.89 |
イソロイシン |
4.47〜5.09 |
ヒスチジン |
2.18〜2.73 |
シスチン |
1.00〜2.01 |
ロイシン |
6.76〜7.76 |
フェニルアラニン |
4.50〜5.27 |
セリン |
4.86〜5.72 |
アスパラギン酸 |
10.29〜13.17 |
チロミン |
2.73〜3.20 |
スレオニン |
3.40〜4.25 |
食用マメの原産地
マメ科の植物は約2万種からなっているが、世界中でその約80種が食用になってる。そのうち、乾燥して保存可能とするマメは約30種である。
地中海~中東 |
アフリカ |
インド~東南アジア |
東アジア |
新大陸 |
エンドウ ソラマメ ヒヨコマメ レンズマメ グラスビー ホワイトルービン ハウチワマメ |
ササゲ フジマメ バンバラマメ モスビーン |
リョクトウ キマメ ケツルアズキ グアル ホースグラム (シカクマメ) |
ダイズ アズキ |
インゲンマメ ラッカセイ ライマメ ベニバナインゲン ナタマメ リママメ テバリーマメ |